text | ナノ
 ||| ファイルくんとお母さん


ナマエさんのお腹がどんどん膨らんでく事に違和感を持った。
本人にそれを聞いたら、「そのうち分かるよ」なんてはぐらかされて。
俺だってもう子供じゃないし、前線に出て戦える立派な戦士になった。ナマエさんだってそう褒めてくれた筈。
じゃあ俺には何が足りないんだろう?って考えても、行き着く先はどうも未知の領域で。
お腹を撫でて幸せそうに笑うナマエさんに、ちょっとだけ嫉妬する。なんだよ、ちょっと前まで俺に笑ってたくせに。そう思っても言葉にすることは一切ない。俺だって戦士だ、いつも一緒にいるわけじゃないし。
だから一緒にいられるちょっとの時間、目一杯質問するのが俺の癖。

「ナマエさん太った」
「これはお肉じゃないのよ」
「最近訓練にも出ないし」
「検査が忙しいの」
「構ってくれない」
「今は一杯構ってあげるから」
「……やだ、俺さみしい」
「うーん、そうは言っても…」

困ったように俺の頭を撫でるナマエさんは、前と比べて疲れているような気がした。
別に俺困らせたいわけじゃないのに、一緒にお話したいだけなのに。こうして、頭を撫でてもらいたいだけなのに。
そうは思っても、上手に気持ちを伝えることなんてできない。そもそもする気もない…けれど。
椅子に座るナマエさんに正面から抱きつけば、背中をとんとんと叩かれる。こうされると、すごい安心するんだ。まるでお母さんみたいで。
膨らんだお腹がすごく邪魔に感じる。けど、ナマエさんが大事そうに撫でるんだから無下にはできない。
羨ましいな、お前はそうしてナマエさんに大事にされて。
ぎゅ、と抱きしめる力を強めれば「どうしたの?」なんて言葉を投げ掛けられる。
どうしたもこうしたも、全部ナマエさんが悪いのに。

「今日のファイルくんは甘えたさんね」
「……ナマエさんが構ってくれないから悪い」
「構ってあげてるつもりなんだけど、ね」
「全っ然たりない!」
「そうは言っても、この子もいるし…」

そう言って、ナマエさんはお腹を撫でる。不機嫌なのを隠さないで離れた俺に、苦笑いして。
違う、困らせたいわけじゃない。けど、その気持ちはうまく伝えられない。
俺、我儘なのかな。ナマエさんの邪魔にはなりたくない。けどいっぱい構ってもらいたいし、頭だって撫でてもらいたい。
――「ナマエさんのお腹には赤ちゃんがいるんだ、お前もあんまり我儘言うなよ」
そんな、マークの言葉を思い出す。赤ちゃんがお母さんのお腹から生まれる、そんなの俺だって当然知ってる。
けどそれはつまり、ナマエさんがお母さんになるってこと。
ナマエさんがお母さんになったら、俺はこうして甘やかしてもらえない、のかな。

「……ファイルくん?」
「……ナマエさん、あかちゃんうむのか」
「うん、産むよ」
「……そしたら俺、もう構ってもらえないのか」
「……なんだ、そんなこと心配してたの?」
「……そんなこと、心配してた」


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