||| ルキウスくんと虐められっ子
(人のものをとったらドロボウ)
(飽きた)
私を肯定してくれない人が嫌いなわけじゃない。私を苦しめる人が嫌いなわけじゃない。
全部私が悪いんだ、私がトロくて鈍くて鈍臭くて、邪魔だから仕方のないこと。
生きていても意味のない人間だ、だから私には生きる理由がない。
お父さんは私のことを嫌ってる、お母さんは私のことに異常な程口を出す。けどそれを拒絶できる程嫌と言える程、私は大人じゃない。
私は、私の気持ちの捌け口なんて何処にもないから。
私が悪いの。こうして被害者面するのも、一人で泣いているのも、私が弱いから。弱くて生きている意味のない愚図だからいけないの。
「死ねばいいのに」「死ね」「邪魔者」「愚図」「ゴミ」「ウザい」「気持ち悪いんだよ」「お前のせいで」「なんで学校来てんの」「キチガイ」「お前なんか生まなきゃよかった」「早く死ねばいいのに」
「ごめんなさい」
そうして謝っても、その先には誰もいない。
私は馬鹿で、汚くて、頭のおかしいキチガイで、皆の邪魔者の、最低な人間。
なんで死ねないんだろう、生きている理由なんてないのに。なんで泣くんだろう、嘆きを聞いてくれる人なんていないのに。
死のうと紐を掴んでも、力なんて恐怖で抜ける。包丁で皮膚を切っても、肉まで断つなんて出来る筈がない。溺れようとしたって、人間の生存本能は拒絶する。
生きている理由なんて一切ない。それでも、私は死ぬことが出来ない愚図だ。
肯定して、逃げて、逃げて、逃げて、追い詰められても、死のうとしない。
ごめんなさい、愚図でごめんなさい、生きていてごめんなさい。
生きる理由が見つからなくても、生きていたいと思えなくても、私は――。
「それで、いいんですか」
「いいんだよ」
「貴方は、此処で苦しむべき人じゃない」
「ごめんね、私はここにしか居場所がないから」
「貴方の居場所なんて、ここにはない」
「そうだよ、だから必死に掴まってるの」
「手を離せば、貴方は幸せになれる」
「知ってても、お父さんとお母さんに愛してもらいたいから」
君の手は取れないよ、ごめんね。
そう告げれば、目の前の彼は酷く悲しそうな顔をする。
ごめんなさい、関係ない君にそんな顔をさせてしまって。私の想像の中の人物の救いすら、私は拒絶しようとする。
イメージ、それは私に幾つかの救いを齎してくれた。
子供によって捨てられた、一枚のカード。それが私と彼の出会い。
「こんなカード、いらねーよ!」
あの日の公園で、小さな男の子はそう叫んでいた。心当たりのある言葉だ、必要とされないのは酷く悲しいもの。
一枚のカードを放置して、男の子は友人と何処かへ走り去る。
必要とされない寂しさを知っていたからこそ、私は捨てられたそのカードを拾い上げた。良くも悪くも、出会いは所詮同族意識だったのだろう。
〈自若の探索者 ルキウス〉、白を基調とした服を纏う一人の兵士。自分に足りないものを探せる、諦めた私とは違う存在。
「君はいいね、知ろうと努力できるんだ。羨ましい」
その言葉に、返る声は何もない。
当然だ、カードに話しかけた所で返事がないのは小学生でも理解できる。
このカードを置いて行った少男の子が、回収しに戻ることは無いだろう。
「――君、うちに来る?」
返ってこない返事を一人想像しながら、制服のポケットにそっと入れる。きっとこの子は優しい男の子なんだろう、私の言葉を肯定して、生きる希望を一緒に探してくれる。
私の味方なんて、いる筈ないのに。そう自嘲しながらも、私を認めてくれる彼を想像しては一人うっすら笑みを浮かべる。
〈――マイヴァンガード、きこえますか〉
イメージから飛び出した彼の言葉は、私の耳に少しも届かなかった。
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