||| 聖域でハロウィン
(落ちない、飽きた)
ハロウィーンとは、死者が蘇る祭りのようです。詳しくは知りませんが、先導者の住む地球では仮装をしてカボチャを置いて何やら楽しそうなご様子。どの辺りが死者に関連しているのでしょう。
そういえば先日、果物を買いにネオネクタールへ出掛けたらカボチャを安売りしていましたね。田舎生まれの私はどうも祭事には疎いですが、地球もクレイも楽しい事が好きという点では恐らく大差ないのでしょう。
来たる大戦に備える戦士でも、常に気を張っていては疲れてしまうだけ。
「――ですから」
「カボチャ祭り?」
「ハロウィーンです、無論騎士王からも許可は頂きました」
「騎士王は分かるけど、ブラスター・ブレードがよく許可したなー!」
「楽しいことが嫌いな者などいませんよ」
「……ふうん。僕には関係ないけど」
「あ、おい待てよ!じゃーな、ナマエ!お菓子すっげー楽しみに待ってる!」
そう言って、ルキウスくんとファイルくんは何処かへ去ってしまいました。少しだけ残念な気持ちもありますが、幼いとはいえ彼らも彼らで多才なもの。私が我儘を言える立場ではありません。
クッキーやプディング、パイにケーキなど、バトルシスターのお嬢様方のお名前を借りた菓子の山々。
甘いお菓子の香りに釣られた幼い子供たちは、期待を孕んだ大きな瞳で此方をじいと見つめています。
「夜まで我慢してくださいね」と声をかければ、元気な声を出して一斉に散らばってゆきました。未来のある子供とは良い物です。どうやら、聖域の外の訪問者も混ざっている様子ですが。
キッチンの中には甘い香りと調理の音、グツグツとなる鍋から覗くのはオレンジ色のパンプキンジャム。
ネオネクタールのジャッキーン・パンプキンさんにに教わった調理方なので、味の保証はばっちりです。
普段耳にする鎧の音が聞こえない事に、少しだけ違和感を感じました。慣れとは妙な物です。
聖域の大きなキッチンへと顔を出しに来た宝石騎士の皆さんが、お菓子を大広間へと運ぶのを手伝ってくださいました。何時もとは違う鎧の音ですが、少しだけ安心したのは秘密のお話。
ジュリアさんの盗み食いに、サロメさんの叱る姿はまるで親子のよう。ふふ、と小さく笑えばアシュレイさんが安心したように微笑まれました。まだ一時的とは言え、平和とは良い物です。
「ナマエのお菓子は本当に美味しいわよね!」
「ジュリア、その言葉には同意しますがつまみ食いなど女性として…」
「もう、分かってるわよ!」
「宝石騎士の皆様は本当に仲が良いのですね」
「ええ、家族のようなものだから」
「…ふふ、なんだか羨ましいです」
「ナマエも宝石騎士に入団しなさいよ!そしたらお菓子食べ放題…」
「――ジュリア!」
「へぶっ!」という間の抜けた声を出して、ジュリアさんは角から現れた人物にぶつかってしまいました。大丈夫かしら、怪我していないといいのですが…あら、よく見たらお菓子は一つも落ちていませんね。お菓子は守るその気力、他のところに回して欲しいとサロメさんが溜息をついています。
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