||| クロノくんと双子
ごめんね、ごめんね、けど私どうしても駄目で、だって好きになっちゃったんだもん。
だからちょっとだけでいいの、首、ちょっとだけ絞めさせて。
俺の双子の妹は、頭がおかしい。おかしいというか、おかしくなった。原因はハッキリ理解しているけれど、俺は改善する気など一切ない。
おばさんはこの事を知らないし、ナマエ自身も俺と二人の時以外は精一杯我慢してるみたいだから一切害はない。ただ、こうして傷がつく度周囲から根も葉もない噂を立てられるだけだ。それでナマエの気分が晴れるんなら、俺は別にどうなっても構わない。
ナマエが生きやすい世界になるんなら、俺はいくらでも踏み台になる。ナマエがおかしくなったのは多分俺の責任だ、特に何かをした記憶はないけど、二人しか居ない兄妹の為に受け身に回るのはある程度仕方が無いし当然のことだろう。
俺は、ナマエの事が普通に好きだ。だからこそ俺はこうして言われる通り首を絞められる。中学女子の力じゃ死ぬことはまずあり得ないし、これくらいはまだ余裕。まあ包丁だとか、道具を持ち出された時は対処するけど。
短い呼吸を繰り返して俺の首を絞め続けるナマエは何というか、犬のようだった。
犬は主人に反発しないだろ、なんて頭の片隅で誰かが叫ぶ。けど本当にそう見えるんだ、仕方が無い。ぼろぼろと落ちてくるナマエの涙は心なしか甘く感じた。なんでお前が泣くんだよ、俺の方が泣きてえよ。
「ごめんね、ごめんねクロノくん」
「なんで謝るんだよ」
「ごめんね、私クロノくんのこと好きになっちゃって」
「安心しろ、俺はお前のこと好きじゃねえ」
「うん、しってる、ごめんね、ごめんね」
「……謝んじゃねーよ」
「……うん」
そうして、ナマエは俺の首から手を離す。
俺はいつだってお前の踏み台だ、お前が後悔しないよう背中を押し続ける。だから、俺自身は後悔しても構わない。お前の為だ、お前が俺を捨てて前を向く為に、俺はお前の事を諦め続ける。お前が謝る必要なんて微塵もない、なのにお前はどうして謝るんだ。そんなに俺を惨めにしたいのか。
ああそうだよ、好きなやつの為に踏み台になって、お互い同じ気持ち抱いて、それでも伝えられねーんだよ。
俺たちは家族だから。
家族は恋人になっちゃいけねーとか言い出した奴、少数派の気持ちも考えるべきだろ、馬鹿か。そんな法律無ければ直ぐナマエのこと抱き締めてやれたし、無駄に嘘つかなくて済んだし、ナマエが苦しまずにすんだのに。
真っ赤に腫れた目元も、双子なんて制約無ければ直ぐにキスしてやれた。結局俺たちは、大人の決まりに振り回される無力な子供だ。大人に守られている内は、どんなに足掻いたって双子のままで家族のまま。
早く、早く俺一人でナマエを守れる立場まで上り詰めなければ。お前の涙を拭ってやれる立場へ、立たなければ。
好きだ、お前が世界で一番好きだ。
その言葉を言える日が来るまで、あと少しだけ待っててくれよ。
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