||| ディル=シリウスはツンデレさん
(落ちない、飽きた)
「ディル、また元老院の連中に喧嘩を売ったらしいね」
とある魔法研究所の、のんびりとしたある日の昼下がり。そう書けばとても美しい景色が瞼に広がるのだろう。
だがしかし、目の前には謎の肉塊と血塗れの人類。昼間だというのに酷い物を見た、正直先程食べた昼食が逆流しそうだ。
僕の目の前には同期の魔法使いであり親友のディル=シリウス。彼の足元に広がるのは、前述した謎の肉塊。それが何かだなんて深く追求してはならない。考えるな、考えるな。
「ところで……何してんの?」
「書庫の魔道書を盗みに来た盗賊を処分した」
彼の中の処分とはこれか、そうか。
「もう少し平和な解決法とかあったんじゃないの?前者も後者も」
「その類はレイに頼め」
「ディルが平和になってくれないと困る」
「ことわる。お前が僕のため走り回るのは見ていて愉快だ」
「あ、迷惑かけてる自覚はあるんだ」
ある程度の自覚があるならいいけどさー、と言葉を続ければ、返事の代わりに盛大なため息が返される。
昔からそういう奴だし、そういった所も含めて納得はしている。基本的に、散々な物言いをしても根は良いやつなのだ。
今だってほら、僕が目を逸らしていた肉塊も魔法一つで何処かへ消してしまう。本当は、そういった気遣いができる優しいやつなのだ。
「何処やったの?」「敷地の外に捨てた」
アフターケアは駄目だけど、それでもいいやつ。長い間一緒にいる僕やレイに対してはきちんと優しいのだ、だから僕は一緒にいる。
「なんでそう喧嘩っ早いのさ。ディルは頭が良いんだから、言葉で何とかすればいいのに」
「言葉の通じない猿に話し合いの余地なんてない」
「いや、意外と通じるかもしれないよ?」
「下等生物との関わり合いは面倒臭い。精霊も同等だ」
その発言に落ち込むおチビちゃんが居ることに、彼は気付かないのだろうか。
ウィジャス大先生に教わった魔術で作った、ドロップから生成される精霊タナトスのクローン人形。見た目こそ小さいが、その実力は折り紙付きでとにかく強くて……と、これは今話す内容ではないか。
僕のそばに寄って来たタナトスをうりうりと指であやせば、僕の頬に小さなキスを送ってくる。
ああ、小さい生物万歳。可愛い生き物万歳。なんて可愛らしいんだ、ご主人もこれくらい可愛くなってくれれば幸せなのに。
……ところで、ディルは何故そんな驚いた顔をしているのだろう。
「おまえ、いまなにを」
「え、おチビちゃんのこと?」
「おチビちゃん!?お前いまこれに何をされた!!」
「え、キスされ…」
「処分する」
「な、なんでそんな怖い顔してるの」
「即刻処分する」
「可哀想だからやめて!」
「処分する、何が何でも処分しなければならない!」
「理由をどうぞ!」
「恥ずかしいからに決まってるだろ!?」
はて、恥ずかしいとは。
ぱちりと瞬きをして、「どういうこと?」と問いかける。ディルは何を恥ずかしがっているんだろう。
僕的には獣の類にキスされた所で恥ずかしさもないし、むしろ僕は動物が好きだから普通に嬉しいのだけれど…。
顔を赤くしてフードを深く被るディルに、僕は首を傾げるばかり。
「……おまえ、知らないのか?」
「何が?」
「これの造り方」
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