text | ナノ
 ||| ドゥンケルハイトさんは残念なイケメン


(落ちない、飽きた)
(かっこいいハイトさんはいません)

うちのバディ、闇の魔法騎士ドゥンケルハイトは非常に面倒な性格である。面倒というか、真面目だと思ったらドジっ子でボケでアホの子だったりなど色入れ詰め込み過ぎた妙な人。
けれど妙に世話好きで家事も上手で、気付いたら我が家の家政婦ポジションに落ち着いていた本当に変な人だ。
そう、例えるなら少し面倒くさいお母さんなのである。
朝弁当と朝ごはんを作って洗濯物を干してお掃除をして、昼は弁当を食べたのかと一々質問して、授業で怪我したら絆創膏を貼って、夜夕飯を一緒に食べて洗い物して洗濯物をたたんでエトセトラ。
ご飯は美味しいし勉強も見てくれるし、ファイトの時は勝利へのヒントを教えてくれる優しいバディだ。
時折相方のリヒトさんに対して煩いけどそれを含めても此処まで素晴らしいバディ他にはいないと思うの。
だから私は一言だけ叫ぶんだ。

「バディじゃなくてお母さんに生まれ変わったほうがいいんじゃないかなあああああああ!?」
「騒がしいぞ、ご近所に迷惑だろう」
「洗濯物たたみながらそれ言うあたり本当に主婦だよね、おかげでお母さん仕事戻って共働きだよいい傾向だよ」
「ふふん……そういえばクローゼットの奥からパンケーキに絵をつける焼印を見つけたぞ、明日のおやつはパンケーキだ」
「わーいママありがとー」

ギャグアニメによくあるデフォルメ顔になってちょっとだけ拍手を送る。楽しそうで何よりです、バディってもはやなんだろう。
白い三角巾とお揃いの白いエプロンで家事をする姿はまさに主婦、家政婦。前髪ぱっつんだから正直言ってヤマトナデシコ。だがしかし男だ。
なんだこの人こっちの世界満喫しすぎじゃないか、もしかしてマジックワールドでも似たようなことしてたのか。
そう思って過去の記憶を辿るがダメだ、思い当たる節がありすぎた。リヒトさん本当にダメ人間だと思う、なんで彼も一緒に連れてきてあげなかったんだろう。
あー、と小さくため息にも似た声を出す。
なんでこの人こんなに主婦してるんだろう、初めて見た時はあんなにイケメンだカッコイイ恋愛フラグキタコレ!なんて思ったのにあのトキメキは一体どこへ。

「ナマエ、何をそんなに悩んでいる?」
「あれ、洗濯物終わったの?」
「ああ、あとは両親の帰宅を待つだけだ。…悩みがあるなら今聞くぞ」
「あー、うん……悩みってほどの物でもないから気にしない方が良いよ」
「そうか?ならば良い」

そう言って彼はテレビをつける。一日の終わりでこれが一番楽しみだというけれど…月9の恋愛ドラマを見て異世界人は楽しいのだろうか。この人本当に地球満喫してんな。
べたべたな恋愛ものを楽しそうに見るバディをジト目で見る私。言葉にすると笑いが込み上げるのは何故なのか。
ドラマのストーリーは至極単純、ヒロインがイケメンに恋して、イケメンがヒロインに惚れて行くようなラブストーリー……いや違う、何これイケメンホモルート突入しかけてるぞ本当に月9か?放送して大丈夫なのか?
イケメンに引っ付くライバル男子…そのポジションは普通女子じゃないのか。何故教師役を魔王アスモダイが演じているあんたバディモンスターだろ、何故ヒロインは他の男子に告白されて……いや待てなぜイケメンが好きなのに付き合った!待て!なんだこのドラマ色々詰め込み過ぎてわけが分からない!

「これ面白いの……?」
「ああ、ライバルの男子生徒がリヒトに似ていて親心にも近い何かを感じる」
「駄目だこの人変なところに感情移入してる!」
「俺がいないと何もできぬリヒトがこうして高校生活を送っていると思うと感動で涙が止まらん!!」
「あんたも相当気持ち悪いよ田舎で子供から送られた手紙を涙ながら読むお母さんかよ!!」
「分かりにくい表現感謝する」
「やめて突然冷静になるの本当にやめて」
「しっ、リヒトが喋るぞ」
「ハイトそれリヒトさんちゃうただの俳優や」

ボケ属性に真面目が加わると非常に面倒臭い、一緒にドラマなんて見ようとしたのが運の尽きだった。
お風呂にも入った、歯も磨いた、宿題はもう終わった、デッキの調節も終わった、他にやることないんだもん仕方ないよね!
今日の暇つぶしはハイトに対するツッコミ。物凄く体力を使うがあくまで暇潰しだ、ドラマが終わったら小学生は寝る時間。
ドラマは収拾がつかない状態のままエンディングへと突入する。ある意味ここまで続きが気になるドラマも昨今じゃ珍しいものだ。

「リヒト役を演じた俳優は誰なのだろうな」
「あれリヒトさんじゃなくてライバルだから……スタッフロールの中に名前あるでしょ?」
「リヒトの名前しかないから聞いたのだ」
「えー、まさかあ。あのライバルの名前リヒトなんて名前じゃ…………ちょっと待て」
「スマートフォンはここにあるぞ」
「ハイトはポンコツなのかそうじゃないのか本当に分かんないね」

ドラマの名前を入力して天下のBグル先生に検索を依頼する。0.云々秒、流石先生仕事が早い。
ドラマの公式ページはヒロインとイケメンが花を散らすなんとも乙女チックな雰囲気だ。キャスト一覧は一体何処に……あった。
ヒロイン、イケメン、教師、女子生徒A、女子生徒B、女子生徒C…いや女子生徒ABC完全にモブだっただろ何故名前がそんな上位にいる、なんだこのサイトツッコミどころしかないぞ!リヒトさん役の名前は何処にある!
そう思い画面をどんどん下へ持っていく。あ、あったこれだ。
〈ライバル生徒 光の魔法騎士リヒト〉

「ちょっと待て」
「………リヒトが、俺を頼らずに地球でやっていけているだと……?」
「ちょっと待てなんだこれ!なんだこれ!!リヒトさんあんた何してんの地球に遊びに来たなら一言報告しようよこのお母さん泣くから!!」
「リヒトオオオオ何故俺を捨てたああああ!!」
「ちょっとハイト煩いご近所迷惑!!リヒトさんに電話すらから黙って!!」
「うむ……ぐすっ」
「いい年した大人というかバディが泣くなよ、小学生に慰められてどうするよ」
「泣いてなどいない、これは……は、鼻水だ」
「やめようそういう汚いボケいらないからやめよう」

ジト目再び。ハイトを無理やり黙らせながらスマートフォンを電話画面へと移行させる。文明の利器は素晴らしいものだ。
操作し慣れた画面を開き、リヒトさんの番号をタップ。
ワンコール、ツーコール、スリー……あ、出た。
「もしもし?」から始まるテンプレート、この言葉に返す言葉はむろん同じ言葉なんだろう。だがしかし今の我々に同じ言葉を返す理性などない。正直冷静さなど微塵もない。今が夜の十時だということも忘れて。

「リヒトオオオオ貴様何故俺を捨てたああああ!!」
「ハイト煩い邪魔!スマホから離れて!!もしもしリヒトさんいま電話大丈夫?」
「え?うん、僕は大丈夫だけどどうしたの?ドゥンケルハイト大丈夫?」
「うんこっちは今ガムテープで口塞いだから大丈夫」
「ナマエちゃん相変わらず凄いね」


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