||| お姉ちゃん大好きキリくん
(キャラブレ注意)
(飽きた)
僕はお姉ちゃんが好き、大好き、好きで好きで仕方が無い。
けどそれにはちゃんとした理由があるんだよ。ただ何と無くで好きな人はいちゃいけないから。
僕はお姉ちゃんがだあいすき。だから僕はお姉ちゃんとずっと一緒にいたい。
「――だからさ、お姉さんの病気治したいんだろ?」
笑って僕に話しかける彼の手には、僕が散々拒絶した黒いデッキケースがあった。真ん中に存在する赤黒いフォトンメタルは、まるで僕を睨んでいるみたい。
怖い、とても怖くて仕方が無い。僕は弱虫だ、稲葉くんに抵抗できないくらい弱虫で、大切な物を取り返せないくらい弱虫なんだ。
けど弱虫な僕でもそれを手にしちゃいけないって分かってる、それを手にした人達がどんなに大変なことになってしまったのか、僕は十分に分かってる。
自分の手に負えない力は、その人が手にするのに相応しくはない。だから僕はずっとずっと弱いまま、そうでなくちゃいけないから。
お姉ちゃんはとっても優しい、だからいつだって自分の事より僕のことを優先して考える。
だから僕はお姉ちゃんに心配をかけるわけにはいかないんだ。僕がおかしくなったら、きっとお姉ちゃんは泣いてしまうから。
「お姉さんが泣く姿、きっと綺麗なんだろうねェ?お揃いの色した目に涙溜め込んでなあ……」
「っな、なんでお姉ちゃんのこと、なんで」
「悪いね、オレ獲物とかちゃんと調べてから狩りにいくタイプだから」
「えも、の……?なんで、なんで僕たちの……」
――なんで君は、お姉ちゃんの事を知ってるの?
そう言葉に出す前に、彼の口元は見事に歪む。違う、そんな下品な表情でお姉ちゃんの名前を出すな、お姉ちゃんを穢すな!
お姉ちゃんは僕だけのお姉ちゃんで、僕だってお姉ちゃんのもの。僕はお姉ちゃん以外の人を好きになることはないし、お姉ちゃんだって僕以外の人を好きになっちゃいけない。
だから、そう、だから許せないんだ。ダビデくんがお姉ちゃんのことを知ってるのを、お姉ちゃんが病気なのを知っているのを。
お姉ちゃんの事を他の人に知られたくない、お姉ちゃんには僕以外必要ないんだから。
それなのに、それなのにどうして!?
「どうして、どうして君がそんな事!」
「知りたいべ?」
「そんなの、当然…」
「――なら受け取れよ」
差し出されたケースは、僕をじっと睨み続ける。
違う、僕は力を手に入れたいわけじゃない。お姉ちゃんを悲しませない為にやっているだけで、バディファイトだって僕は…僕は、本気でやってるわけじゃないのに。
「嘘つけ」
嘘じゃない、嘘じゃない!僕は嘘なんか吐いてない!
僕はバディファイトで本気になったりしないもの。僕はただ、お姉ちゃんを悲しませない為に一生懸命で…。
「お姉さんの為に?頑張って?その結果がこれじゃあ笑えねーよなあ」
違う、違う違う違う違う!!僕はお姉ちゃんの為にずっとずっと、全部お姉ちゃんが喜ぶ証拠作りで!僕にはお姉ちゃん以外必要ない、そんな力持ったってお姉ちゃんは喜ばない!
息が苦しくなって、ゆっくりと僕はその場にへたり込む。
どうして僕はこんなに苦しんでいるんだろう?酸欠でぼんやりとする頭のまま必至で考える。
目の前の彼はニヤニヤした顔のまま、僕の嫌いな顔のまま。どうして、という言葉しか出てこない程僕は混乱しきっている。どうしよう、僕、こんなことしている場合じゃないのに。
「な?氷竜キリくん。お姉さんの名前なんだっけなー?んーと、あー……」
「お姉ちゃんの……お姉ちゃんの名前、呼ばないで!」
「ええー?もったいない、キレーなお名前なのになあ?」
「煩い!お姉ちゃんは、僕のお姉ちゃんは君なんかが」
「氷竜ナマエ、だっけェ」
「知ってるよ。今の医学じゃ誰も治せないんだっけ?いやあ残念だね!オトーサンも必至で色んなところ連れてってるみたいだけど…君もさあ、巻き込まれちゃって可哀想に――」
なに、それ。
頭に上がっていた熱がゆっくりと冷めてゆく。何を言っているの?お姉ちゃんが治らない?可哀想?そんなわけないのに、お姉ちゃんが嘘を吐くわけないのに。
身体が弱いから病院にいるってお姉ちゃんはいつも言ってるもの。それが事実、それ以外僕は認めたりしない。
握りしめていた拳から力がどんどん抜けてゆく。分かってない、なにも分かってない。
ただ喋り続けているダビデくんは、僕のことをみてずっと笑ってる。お姉ちゃんの名前を口に出しては、その度に僕の嫌いな顔をして。
許せない、どうして僕以外の人がお姉ちゃんの名前を呼ぶの?父さんですらお姉ちゃんの名前を滅多に呼ばないのに、どうしてお姉ちゃんと面識のない人がそんな風にお姉ちゃんを呼べるの?
許せない、今僕は何よりも彼が許せない。もう僕には、彼がお姉ちゃんを侮辱してるようにしか聞こえない。
「なあ?君の大好きなお姉さんも」
「やめて」
「ハァ?」
「やめて…お姉ちゃんが僕に嘘を吐くわけがない……」
「ッハハ!そんなの信じてんの!?君の大好きなお姉さん本気で嘘吐いてないと思ってんの!?」
「お姉ちゃんが、お姉ちゃんが僕を不幸にするはずない……!」
「めんどくせェな、お前の為に嘘吐いてるって言ってんだべ?」
嘘だ、お姉ちゃんが僕に嘘をつくなんてありえない。僕を不幸にするわけがない。お姉ちゃんは僕のお姉ちゃんで、僕はお姉ちゃんの物だもの。
嘘だ、僕は信じない。お姉ちゃんはすぐよくなるんだ。父さんの転勤だって仕方のないことで、お姉ちゃんと僕はただ巻き込まれているだけで……嘘だ、お姉ちゃんの病気が治らないなんてそんなの嘘に決まってる。
優しそうに笑うお姉ちゃんが、僕の名前を呼ぶお姉ちゃんが、お姉ちゃんが……!
――けど待って、もしダビデくんの言うことが本当だったら?
僕はお姉ちゃんを助ける手段を失うの?お姉ちゃんを苦しめたままになっちゃうの?
僕はお姉ちゃんの言葉を疑うの?けどもしも本当だったらそれはとっても怖いことだ。
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