text | ナノ
 ||| 病んでるキリくん


僕には好きな子がいるんだ。ナマエさんっていう、とっても優しくて可愛い同い年の女の子。
僕みたいな弱い人間にも笑いかけてくれて、いっぱい仲良くしてくれて、バディファイトだっていっぱいいっぱいしてくれた凄く素敵な人なんだ。
僕はナマエさんが凄く好きで、大好きで、一緒にいるとドキドキする。だからナマエさんのことをずっと見てることは出来ないし、恥ずかしいからこの気持ちだって伝えることはない。
僕は弱い人間だ、僕にはナマエさんの笑顔を守ることはできない。そういう、誰かを守るっていう大切なことは僕よりもっと強い人がやるべきなんだって僕もなんとなく分かってた。
優しい人には優しい人が一緒にいるべき。僕が一緒にいても、ナマエさんは多分一番の笑顔を見せてくれないんだろう。
ナマエさんは好きな人がいるんだって僕にこっそり教えてくれた。あのときの笑顔は本当に綺麗で、ああ、ナマエさんに好きって思われてる人はとっても幸せなんだなあってただのなんとなく思ってたんだ。
もしもナマエさんを守れる力が僕にもあったら、なんて時々思う。けどそれは思い上がりだって僕の中の誰かがすぐに怒るんだ。だから僕は弱いままの僕でいなくちゃいけない。僕は怒られるのが少しだけ嫌だから。
色んな学校に転校して、色んな人を見てきた。けどみんな僕のことを忘れちゃうんだ。
だからナマエさんを守れる力を手に入れたって、ナマエさんに好きだと伝えたって、忘れられちゃうなら意味がないっていつも言う。僕の中の誰かはいつだって僕に、辛く当たる。
僕に好きな人ができたって伝えたらら父さんはどんな顔をするんだろうなんて僕は時々思う。もしかしたら転校を止めてくれるかも、だなんて僕は夢を見る。
けど実際はそんな事なくて、父さんはいつでも僕よりお仕事が大切で、僕はいつも少しだけ寂しくなる。けど僕の中の誰かはいつも言うんだ、「ほら、またそうなるんだから」知ってる、知ってるから僕はこんなに悲しい思いをする。
牙王くんたちチームバルソレイユのメンバーは僕のお友達だ、けどどうせみんな僕のことを忘れていく。ナマエさんだって例に漏れず、結局僕は誰の記憶にも残らない寂しいやつなんだ。
寂しい、僕は忘れられたくない。そう思ってもなにも結果は残せなくて、ただ僕は誰にも伝えられずみんなの知らない場所に行くんだ。
力のない僕は如何することもできない。父さんに反抗することも、ナマエさんに伝えることも、友達である証を残すことも、なに一つすることができない。
僕は、自分の好きなものを好きと言うことが出来ない。
力の弱いものが奪われるのは当然のこと、神話の神様と同じようにそれは僕にも言えること。何千年と経った今でも変わらない事実。
携帯に残ったままの、僕の友達のアドレス。メールを送ることがなければ、送られたメールを開くこともない。
僕はこの場で立ち止まったままの状態だ。恐らくこの先もずっとずっと動けないままなんだと自分でも思うほど。
もしかしたら僕は寂しいのかもしれない。抗えない自分を弱いからと無理やり押さえつけて、仕方ないと納得させる。
どれだけ息が詰まっても、苦しいとは決して言わない。言っても助けてくれる人はいないんだから。
僕の中の誰かはずっと僕を見つめてる。そう、君が言う通り僕はずっと弱いままだ。君のような真っ直ぐな強い意志を持つことはできない。
僕は君のような強い人になりたいんだ。父さんに全て奪われるような人生を、ナマエさんに何も言えない自分を、誰かとの友達で有る証拠を、何もかも自分で形作れるような人間に、力のある人間になりたくて仕方がない。
僕には力が必要だ、どんな形であろうと僕は力を手にしなきゃいけない。何を失うのを黙って見ているような人間にはなりたくない。

そう、だから僕はいけないものにだって手を出すんだ。その黒いデッキケースは、僕が欲しい力を全て与えてくれるから。
それを手に入れれば僕は弱い自分を捨てられる、君のような強い意志を持つことだって可能になる。僕はもう弱くない、誰かに弱いと言われることはなくなるんだ!
牙王くんが選んでくれたフェンリルを、宇木さんと爆くんが褒めてくれた僕の戦術を、ナマエさんが教えてくれた僕の実力を、僕の全てを取り返す為に僕は力を手に入れた。
僕は僕自身の力で僕の望むものを手に入れなければならない。それは力を手にした以上必然のこと。
必要なんだ、ナマエさんを守る為に。手に入れなければならないものだったんだ、僕がナマエさんに全てを伝える為に。
だって僕もう自分で選べるんだもの、奪われたものを取り返せるんだもの、ナマエさんは僕に優しい人だって言ってくれたんだもの。
僕はナマエさんを守れるくらい強くなった、ナマエさんに相応しい人間になれたんだ。
僕は全てを手に入れて、全てやり直して、誰からも忘れられる事のない人間にもならなければならない。
不完全な僕は、今までの不確定要素を排除して完全にならなければならない。

――拝啓牙王くん、ナマエさん、並びにチームバルソレイユのみなさん。


僕は強くなった。
だから伝えなければならない。僕は完全になると。
僕の中の誰かは、気付けば何処にも存在しない。
あれは誰だったんだろう、そう思えば口元には薄い笑みが浮かんでいた。


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