||| ガイヤールと反転聖女
ああ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。神様、私は懺悔せねばなりません。ならないのです。
何に懺悔しなければならないのか、だなんて悲しいことを聞かないでくださいまし。私ですら何が罪なのか一つも理解出来ていないのですから。
ああ、存在するかも分からない神様、どうか我々をお救いください。この世界に救いという物が存在すると、どうか愚かな我々にお教えください。
世界が壊れてしまおうと、私が壊れてしまおうと、どうか彼だけは救って欲しいのです。
私が反転しようとどうか彼だけは、私の大切な家族だけは守っていただきたいのです。どうかお願いです、神様、私は彼のことが大切で大切で――。
「ナマエ!」
「ああガイヤール、どうされたのですか?それ程慌てた顔をして…教会の中を走るのは神父様から禁じられているでしょう?」
「すまない、君の安否が心配でつい…。そうだ急ごう、此処にも大勢の人が押し掛けてくる」
「嫌ですねガイヤール、神聖な教会に人がやってくるのは当然のことでしょう。何を焦っているのですか?」
「君は外を見ていないのかい?あの黒輪が…」
「ガイヤール、貴方本当に如何されたのですか?少しおやすみになった方が…」
「っ、ナマエ!」
後ろを振り向けば、彼はすぐそこに立っていた。
光のない曇った瞳、泣き腫らしたとは思えない赤色の紋様。薄い微笑みを浮かべて神に祈る私の姿。
ああ何ということでしょう、彼のとても傷付いたような顔は酷く美しい。私がこんな姿になってしまっても貴方は私を救おうと思ってくれるのでしょうか。
今の私は酷く惨めで寂しい存在、貴方を傷つけまいと此処まで逃げてきたというのになんて悲劇的な。もしも此処で貴方とファイトをすれば私は元に戻るでしょう、けれどそれはそれすら戸惑っている。私と命のやり取りをすることを拒絶する。
何故、如何して?私は貴方と命をかけた戦いをしたいというのに、貴方に殺されるなら本望だというのに。悔しそうな表情の貴方を見れて私はとても幸せよ、このまま私が死んでしまえば貴方はもっと素敵な顔をするのかしら、ああそれなら私は死んでしまっても構わない!
「ガイヤール、貴方は」
「僕は、君とファイトをする」
「駄目ですよガイヤール、貴方は直ぐに逃げなさい」
「君を置いて行くことは出来ない!」
「貴方が反転する姿を見たくはありません、早くお行きなさい」
「ナマエ!」
「早く行きなさいと言っているのです、私とて何時迄もこの状態で居られるとは限らないのですから」
「なら僕は君を!」
「オリビエ!!」
「――貴方が女性の泣き顔を好んで見たがるような人間だとは思ってもいませんでした」
そう言って、私は彼を拒絶する。
何ということ、酷く傷付いた顔をする彼の可愛らしいこと!きっと私と同じく"Я"すれば彼はきっともっと素敵になれる筈なのに!
私の中で叫ぶ本能と、必死で彼を逃がそうとする理性が争いを続けている。
ぐるぐると回り続ける二つの欲求に吐き気が止まらない。けれど彼に心配をかける訳には、ああしかし私を心配する彼が、彼を早く逃がさねば、何処か遠くへ、いえ寧ろ私と共に、いいえ違う。
彼と共に居たいのは確かに事実、けれど私は彼を大切に思っている、だからこそ彼を逃がさねばならない。
絶えず微笑みを浮かべる私を、貴方は軽蔑の目で見るのでしょう。何故私が"Я"したのか、何故貴方を置いてこの場にいるのか、きっと貴方は沢山の疑問を私に抱くに違いない。
「オリビエ、貴方は強いのかしら」
「ああ、僕は強い。君よりずっと強い。だから僕は君を元に戻す」
「……無理よ、無理なの。だからお願い、早く」
こんな私を見ないでほしい。
「"Я"した人間はファイトで勝てば元に戻る、なら僕が勝てば良いだけの話だ」
貴方は何も分かっていない。
「――無理なのよ」
私の苦しみも、涙も、貴方を思う気持ちすら分かっていない。
貴方は、酷い人よ。
「だからどうか、泣かないでくれ」
泣かせているのは貴方なのに。
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