||| コーリンちゃんと罪
目の中で塒を巻く蛇、体内に這い回る虚無と罪。
金色の髪が綺麗なあの子は何時だって優しい人だ、青色の髪が可愛いあの子は何時だって全てを一人で背追い込む。
リンクジョーカーの力を身体に宿した二人は、いつだってとっても苦しそうな顔をしている。
わたしは何もできないまま、カトルナイツとして選ばれた彼らよりも下の、其処に居る意味のない存在。
水色の髪の彼はいつも言っている、「ナマエさんは其処に存在するだけでいい」。
褐色の肌のあの子はいつも言っている、「ナマエはアイチくんとコーリンのためにそこに居てあげて」。
茶色の髪の彼はいつも言っている、「ナマエ殿はお二人の心の拠り所になってあげてください」。
紫色の髪のあの人は、何も言わない。
白を基調としたカトルナイツの衣装を見に纏い、ただアイチくんとコーリンちゃんのそばに居るだけ。
何故私が此処に居るのか、何故私なのか、もはや何もわからない。何もかも考えることすら放棄しそうになる。
私の腕を引くコーリンちゃんはいつだって優しく微笑んで言うのだ、「我儘でごめんなさい、けど貴方がそばに居てくれると言ったのよ」だなんて、少しの覚えのない言葉を。
この場所は、月は酷く寂しい場所だ。冷たくて悲しくて、青色の地球が恋しくなる。
リンクジョーカーの侵攻さえなければ、みんな揃ってカードファイト部で沢山遊んで、笑って、ヴァンガード甲子園に出て、それで――。
「ナマエ」
そうやってコーリンちゃんが私の名前を呼ぶ。
中学生の頃、初めてコーリンちゃんと出会った時もそう。何も変わらない呼び方で、何も変わらない微笑みで私のことを呼んでくれる。
「なあに、コーリンちゃん」だなんて当たり障りのない返事をすれば安心したようなため息が帰ってきた。
彼女は酷く過保護だ、私にリンクジョーカーの手が及ばないよう何時だって私を監視している。
それなら私をこんな所に置かなければ良いのに、なんて少しだけ思うのは秘密だけれど。
アイチくんの一番近く、封印越しの一番。私は此処が大好きだ、アイチくんを一番近くに感じる此処が安心する。
その青色の髪は、目は一切見えないけれど。
「あまりこの近くに来ちゃいけないわ、リンクジョーカーの力が…」
「…うん、分かってるよ。ごめんね」
「……分かってるなら、いいの」
そう言ってコーリンちゃんは悲しそうな顔をする。
やめて、どうしてそんなに寂しい顔をするの?私コーリンちゃんの笑ってる顔が一番好きなのに。
ゆっくりと彼女に手を伸ばせば、びくりと震えて距離を取られる。
いつもそうだ、彼女は私と接触するのを酷く嫌がる。己の中に眠るリンクジョーカーに私が侵食されると思っているのか、それとも。
私だって立派なヴァンガードファイターだ、リンクジョーカーなんかに負けはしない。
負けない、つもりなのだけれど――。
「……貴方とアイチだけは何があっても守ってみせるわ、その為の力なんだもの」
「……自分の為に、使えないの?」
「使う意味なんてないわ」
「もっと自分を大切にして」
「貴方達が最優先なだけよ、アイチとナマエの次に自分は置いているわ」
「……地球もクレイも、どうでもいいんだ」
「………そうよ、私の我儘だもの」
そう言ってコーリンちゃんは目を伏せる。ああ、いけないことを聞いてしまった。踏み入ってはいけない場所に踏み込んでしまった。
惑星クレイの近くに存在していた彼女は、きっと地球もクレイも大切だったんだろう。
けれどそれ以上に大切な物が出来てしまった、ただそれだけの事。私が責められる事ではない、むしろ本来責められるのは私の方だ。
リンクジョーカーの赤黒いそれが、私の身体に手を伸ばす。私の背負うべき罪があるのは知っている、けれどそれが何なのか私は知らない。
コーリンちゃんは、自身の罪に加えて私の罪とアイチくんの罪という全てを背負って今ここにいる。
彼女は、酷く我儘な人間だ。
彼女のデッキの中に吸い込まれる赤黒煙を何と無くで眺めながら、ゆっくりと目を伏せる。
私も大概だ、彼女に罪を背負わせて素知らぬ顔でここに居る。
何故私はここに居るのだろう、私の罪とは何なのだろう。彼女が私を保護する理由は?私はいつ、彼女を肯定したのだろう。
何もかも思い出せないまま、赤黒煙へ手を伸ばす。私の中のそれはきっとその中にあるのだろう。
何も思い出せないのはコーリンちゃんのせいだ、きっとそうだ。
彼女は酷く我儘で、とても優しい人間なのだもの。
きっとそれが幸せなんだろう、それが最善の策なんだろう。
きっと今はそれでいい、私が考える理由は何もない。
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