||| Vくんと欠番
「数字とは」
「物を数える時に便利な物ですね」
「家族は、物かな」
「さあ、分かりません」
そう言って紅茶に口をつける双子の弟は女性的な魅力を漂わせていた。
細い指だとか白い肌だとか、羨ましいと思うことはよくある事だ。けれど僕はそれを口に出すことはない。思えば、父さんはよく母さんそっくりだと僕を褒めていた記憶がある。
母さんの記憶は僕には殆どない。その理由はわからないけれど、寂しいとも思えなかった。
カップの中に注がれた、お砂糖が少し多めのミルクティー。ミハエルは僕の好みをよく知っている。
口に含めばどろりとした甘さと紅茶の渋さが混ざり妙な感覚。これが一番僕好みなのだ。
「ナマエ兄様。兄様は数字がお嫌いですか?」
「クリス兄さんの数字やトーマス兄さんの数字、ミハエルの数字はちゃんと好きだよ」
「ナマエ兄様、貴方の数字は」
「僕に数字なんてないじゃないか。ミハエルは変なことを言うよね」
「……兄様」
そう言ってミハエルは眉を下げた。そんな顔しないで、僕はミハエルの悲しんでいる顔が一番嫌いだよ。
ふわふわとしたミハエルの癖毛を撫でれば少しづつ普段の表情へと戻ってゆく。けれど前のような可愛らしい笑顔には、どう頑張っても戻らない。
父さんは昔よく言っていた。僕は母さんにそっくりだと。けれどぼくはそれが理解できない。僕は男だ、どう足掻こうと母にはなれない。
だから僕は数字を嫌った。TとUは欠番、誰も数えられない数字。僕にその数を背負う権利はない。
Tは父の、Uは母の、Vは末の子、Wは次男、Xは長男。じゃあ僕は何処へ?その言葉に対する答えは、恐らく見つからないのだろう。
いいんだよ、僕に数字は必要ない。僕のせいで母さんが居なくなるのなら、僕は数を背負いたくない。
父さんは、僕は母さんにそっくりだとよく褒めてくれた。
けれどトロンはそんな事一度も言わない。僕はなんとなく理解していた。トロンの中の母さんの影は僕に残っているんだと、無意識の内に理解していた。
だから二番目の数字を僕に被せたんだろう、僕に母さんの姿を合わせて。
僕は自分の数字が嫌いだ、僕は自分自身が好きじゃない。けれど、僕は母さんがどうしようもなく好きだった。
僕たち家族は六つの数字で完成する、けど僕たちに数字は五つしか充てがわれていない。
存在しない母さんを忘れろと、きっとトロンはそう言いたかったんだと思う。トロンにとっての妻は…いや、これ以上を考えるのはやめた方がいいのかもしれない。
いつの時代も近親相姦とはあるものだ、しかしその対象が男とは奇妙な話。
「ナマエ兄様、兄様はご自身を好いていらっしゃるのですか?」
「……どうだろう、僕が女性だったら自分のことを愛せたのかもしれないね」
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