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 ||| 臥炎くんと連想ゲーム


「赤いはりんご、りんごは丸い、丸いはボール、ボールは…」
「何をしているんだい?」
「まじかるばななというやつです!」
「ふむ、林檎なのにバナナなのかい?」
「じゃあまじかるりんごでしょうか?」

こて、と小首を傾げながら問う妹に思わず笑みが零れた。
恐らくソフィアから教えてもらったのだろう、日本古来の言葉遊びだ。うーん、と唸りながら頭のなかの辞書を捲り続ける。
顎に手をあてて立派なポーズをしながら考える彼女は本当、唯でさえ低い年齢を更に下げるように幼く可愛らしい。
悩む妹に助言も兼ねて、僕は一つ言葉を呟いた。

「ボールは跳ねる」
「跳ねる!じゃあえっと…跳ねるはお魚?」
「魚は海」
「うみはあおい!」
「青いは空」
「お空は…龍炎寺くん!」

キラキラしながらそんな事を言う妹に苦笑いを浮かべてしまった。この子が楽しそうなら何よりだ、だがある意味敵対する存在の人間の名をそう簡単に上げるとは…まあ元々あまり頭は良くないのだし仕方が無いのだけれど。
「次はにいさまの番ですよ!」と笑顔で言い放つ妹に出そうになったため息も引っ込んでしまう。それ程うちの妹は可愛らしいのだから仕方がない。
それにしても何故空から龍炎寺タスクの名前が出てくるのだろう、確かに彼の髪は空と同じ色をしているが…子供の考えはどうも分からない。
期待に揺れる眼差しに答えるよう頭を回転させる、そして出た結論は。

「龍炎寺タスクは…弱い、かな」
「龍炎寺くんはにいさまより弱いですか?」
「戦ってみなければ分からないけれどね。それよりナマエ、連想ゲームはいいのかい?」
「あっそうだ!えっと…弱い……」
「ナマエより弱い人は誰か居たかな?」
「えっと…あっ、しどーくん!」

変わらぬ満面の笑みに返す言葉が見つからなかった。肯定すれば何か申し訳ないし否定すればナマエが可哀想で仕方がない。何方かを天秤にかければ間違いなく妹のほうに傾くのは分かっているが、瞬時に言葉が出なかったのは僅かな良心の影響だろうか。
きょとんとしたまま僕の方を見つめるこの子に笑いと困惑が止まらない。熟々うちの妹は頭が良くないと感じさせられる。
柔らかい頬をそっと摘まむと不思議な声と共に目をぎゅうと閉じる。これでさっきまで話していた内容は殆ど忘れてしまうのだから単純だ、けれど便利でもある。

「にいさまにいさま、だっこ!」
「はいはい、お姫様は何処へ行きたいのかな?」
「にいさまのパイプオルガンの音が聞きたいです!」
「ほう、それは嬉しいね。それならナマエには特等席で聞いてもらわなければ」
「ほんとうですか!」

そう言って満面の笑みを浮かべる妹の頬をそっと撫でる。十分にその頬の柔らかさを堪能した後、ナマエの膝に腕を回し背中に手を添えそっと持ち上げる。
ぎゅう、と首に手を回し抱きついてくる妹は実に可愛らしい。にこにこと幸せそうな笑みを浮かべるオプション付きだ、これを可愛いと言わずして何を可愛いと言うのか。
林檎色に染まった頬をつつきたい衝動を抑える。ここで手を離したらナマエがびっくりしてしまう。
林檎といえば先程までしていた連想ゲーム、結局ナマエはあれで良かったのだろうか。まあ今更思うことではないが――弱い、か。

「ある意味でなら僕もナマエには弱いかもしれないね」
「にいさま弱いですか?」
「ナマエにだけだよ」
「ナマエがにいさまを弱くしてるんですか?」
「そんなことないさ、ナマエが居るからこそ強くなれる事もあるよ」
「にいさまのお役に立ててるなら嬉しいです!」


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