text | ナノ
 ||| 臥炎くんとお人形


気付けばそれはそこにありました。金色の髪をくるりと巻いて、青を基調とした可愛らしいドレスを身に纏ったお人形。
青い目が私にそっくりだとあのお方は笑いました。けれど私はどうもあのお人形が好きになれません。
陶器によって作られた白い肌のお人形。石のようなガラスのような冷たい感触が私は嫌いで仕方がありません。
じとりと私のなかを何かが這い回るのです、それはまるで蛇のような感覚。
あのお方は言うのです、青い目が私のようだと。私はそれにどうも納得できません。何故私と人形を同じに見るのですか、私の方がずっと綺麗だというのに。
人形にはない柔らかな肌も、あのお方に伝わる体温も、あのお方の為に動ける脳も、何を比較しても私の方が数段優れている筈なのに何故!
私は青色が嫌いです、あのお人形を彷彿とさせるから。
あのお方の褒めてくださった私の眼球も、私はもう好きになれません。こんな眼、抉り取るのが可能ならばどれ程幸せなものか。

「成る程、ナマエは人形に嫉妬していたんだね」
「キョウヤ様、何を仰られるのですか。私が嫉妬などというつまらない感情に支配されるなど在り得ません」
「そうかい?僕にはそうにしか見えなかったけれど」

くすりと笑ってそう仰る私の恋人に少しだけ悲しみが生まれました。私が嫉妬だなんてそんな、そんな気持ちを抱いてしまえば貴方様が困ってしまうではありせんか。
心なしか下がる眉を自覚しながら、上品に笑われるキョウヤ様に一つ問いかけをします。ただ簡単な、「嫉妬する私はお嫌いでしょうか」などと重い事。
笑いを止め、驚いたようにぱちりと瞬きをされるキョウヤ様の反応は純粋に珍しく、今度は私に笑いがうつってしまいます。困ったものね、と苦笑いに近い形で笑みを浮かべて。
「その程度で嫌う程酷い人間だと思うのかい?」そう言って温かな紅茶に口を付ける貴方様がまるで絵画のように美しく、思わず目を奪われてしまいました。
透き通った茶色に胸が高鳴ります。同じ紅茶だというのに、何故これ程まで緊張するのでしょう。貴方様が口を付けたという事実だけでこれ程視界が変わるだなんて。
ナマエ、と私の名前を呼ぶ声が聞こえます。ああ、何と美しいお声なのでしょうか。胸の高鳴りを無理に抑え短い返事を返します。私の青い眼を見つめながらキョウヤ様は仰られるのです。

「――ナマエの瞳は本当に綺麗だね、まるであの人形のようだ」
「……そうですか」
「おや、ナマエ、どうかしたのかい?」
「……いえ、なんでもありません」

何てこと、何てことを。顔が歪む自覚をしながら少しだけ俯きます。キョウヤ様の御前だというのに何てこと。
私は貴方様の何なのでしょう、そんな気持ち悪い言葉を吐きそうに成る程私は苦しいのです。何故、何故私を優先してくださらないのでしょう。
やはり私はあの人形が嫌いで仕方がありません。オリジナルの私の姿を見て頂けないだなんてそんな、そんなもの!
これが嫉妬だというのならもうそれで構いません、つまらない感情に支配されるつまらない娘で構いません。
ええ、そんな感情に支配されてしまえばあの人形が壊れてしまうというのなら私は喜んで嫉妬心に身を委ねるでしょう。それ程までに私はあの人形が嫌いで仕方が無いのです。
それを言葉にすれば貴方様に嫌われてしまうのは知っております。なんという苦悩、試練、神は私を如何されたいのでしょう。
貴方様の指と私の指が少しだけ触れるのです、其れさえも幸せで愛しくて堪らない筈なのに何故これ程恐怖を感じるのでしょう。貴方様の冷たい指が火照った身体に丁度良い、矢張り貴方様は本当にお優しいお方です。
陶器のように白くない肌、硬くない身体、私に足りない物は幾つあるのでしょう。其れらを全て手に入れればキョウヤ様は私だけを見てくださるのでしょうか。
歪んだ顔を元に戻し言葉を発します。何時もと変わらない声、言葉、表情すら始めに戻して。

「キョウヤ様、今日の空は青いですね」
「ああそうだね、まるでナマエの瞳のようだ」


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