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 ||| 祠堂くんと夏


ジリジリと皮膚の焼ける夏の暑さ。遥かと遠くで光る太陽は手加減というものを知らないのだろうか。地球温暖化なんて本当は嘘で、地球は日々少しづつ太陽に近付いているだけなのではないか。そう真剣に思える程の真夏日だった。
ぽたりと汗が床に落ちる。ロング丈のスカートは確かに蒸れるが風を送るのにとても丁度良く、その微量な風ははしたないと言われようと無視出来る程心地が良い。
風は吹かず、遠くで存在を示す蝉の声がいつも以上に不快感を募らせる。
汗がまた床に落ちる。自身のスカートで扇ぐ事を辞めたくなる程に暑くて仕方が無い。
真夏の生徒会室程最悪なものもない、額の汗を拭いながら一人の少女は不満そうにこう言った。
「暑い、暑すぎる、なんでクーラー付けてないの!クーラー付いてると思ったからこっち来たのに!」
その言葉に顔を上げたもう一人の少年は、不快そうな顔色を隠さずに言い切る。
「この程度を乗り切らずしてどうこの先の夏を乗り切るんですし、太陽の光が届かないだけましと思えですし」
そう言って少年は再び書類へと顔を戻す。不満そうに頬を膨らませる少女の事など居ないもののように、喋る置物のように扱う見事な技術に、置物扱いされていたはずの少女も感嘆の声を上げる。彼女はそれ程までに単純で頭の良くない少女だった。
生徒会室に備えられた応接ソファへと横になり、足をばたつかせる。ロング丈のスカートのお陰か、本来見えてはいけない部分はしっかりとガードされたままだ。小さく顔を上げていた少年は少しだけ安堵した。
ハア、と大げさな程大きなため息をついて少女はソファに顔を伏せる。兎にも角にも暇で仕方がないのだろう、普段手放さないようなスマートフォンすら持たないまま遊びに来たのだから。
「暇だよー、ひまー、ねえ暇だよう、祠堂くん遊んでよーねえー」
「煩いですし、僕は今この書類の山を…」
「書類とわたしどっちが大事なの!」
「少なくとも今は書類の方が大切ですし!?」
「酷いよう、酷いよう、祠堂くんが虐めるよう」泣き真似をしながらそう小さく呟く少女に少年は頭を抱える。虐めたつもりはないし、そもそもこの書類の山の殆どは彼女が原因なのだから、自業自得にも程がある。
蟀谷を抑えながら、少年は苛立ち気味にペンを持つ。好きで構ってやらないわけではないのだ。この幼い後輩を構ってやるのも、ストレス解消術の一つと化しているのもそれなりに自覚はしている。
ぷく、と頬を膨らせたまま大人しくなった少女に小さく安堵して、少年は再び書類に取り掛かる。
――そうだ、この書類が終わったらコンビニでアイスでも買ってやるですし。
可愛らしい後輩のご機嫌取りだ。この時期はかき氷と本人は言うが、アイスクリームの方が手軽だしカラフルで目につきやすい。勿論祭りの最中などは赤色の綺麗な苺かき氷を買ってやるのは恒例のこと。
「祠堂くん祠堂くん、そういえばあしたお祭りがあるんだって」
「今年初めのかき氷は何味ですし?」
「勿論いちごだよ!」
――祠堂くんに初めて買ってもらった味だもんね。
にへ、と笑いながら少年を見つめる少女に少年の頬が赤く染まる。まるで苺のようだ、と少女は小さく思った。
書類にミミズのような線が走るのに目もくれず、少年は耳まで赤くなったまま口をパクパクと動かす。声にならない羞恥と歓喜が直ぐそこまで出かかっているのだ、辛くないわけがない。
「そんな昔のことを覚えてるとは…少々恥ずかしいような気がするですし……」
「祠堂くん顔真っ赤ー、嬉しかったの?」
「そんなわけないですし!?」
赤い顔のまま必死に否定する少年を見て、少女は小さく笑う。
夏の風が大きく吹いて、太陽の光を遮っていたカーテンが揺れた。白い光が部屋を照らして、一瞬目を細める。
――夏だなあ。
そう思い、蝉の鳴き声と馬鹿みたいな暑さに一言叫んだ。


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