罪な人、私を許して


生まれて初めて、今までに出会ったことのない感情と出会った。それは所謂、初恋、恋心、という感情で、こんなに胸が締め付けられるのかとか一言話せただけでもこんなに嬉しいのかとか、本当に言葉で表せないくらいの感情だ。恋だと気付いたというよりは、ある瞬間ビビッときた。直感であ、好きだなと思った。
特別な理由なんてないけど、この気持ちだけは本物なんだ。

後ろの席の一氏くんは、手先が器用で憧れる。あとはテニスとお笑いもやっていて、どれもトップクラスの実力があるのだからすごい。手先だけじゃなく人間として器用なのかもしれない。
振り向いて見てみると、今日は何だか可愛らしい布をチクチク縫っていた。
放課後になると、彼はたまにこうして教室に残りなにか小道具を製作している。バンダナを前髪ごと持ち上げて、真剣な目を見られるのはこのときしかない。

昨日は覆面は縫っていたなあ。あれはもう完成したんだろうか。

「一氏くん、」
「……あー?」

少し間があって手を休めることもなく私の方を見ようともしないけど、返事だけはしてくれた。その間に椅子ごと一氏くんの席に向けてみた。こっち見ないし、良いよね。

「今日は何作ってんの?」
「これはーあれや、衣装」

衣装、コント用かな、テニス用かな。一氏くんが着るわけじゃなさそうなデザインで、とっても

「…可愛い」
「…あ?」

心の声が最後で漏れた。それと同時に、やっと顔をあげてくれた一氏くんとの顔の距離は、拳ひとつ分。

「アホか!か、かかか顔!近いねん!!!!ドアホ!!!」

無意識に近づきすぎていた。目の前の顔が真っ赤になって、こちらを睨みつけている。怒鳴られた事にもびっくりしたけど、顔を真っ赤にする一氏くんにもびっくりした。

「あ…ごめん!私、いつも友達に顔近いって怒られるんよ、ほんまごめんな」
「や、そんな謝らんでもええけど、」

針持っとんやし、危ないやろ、一氏くんは針から手を離して、私からも目を逸らした。あたりに視線を迷わせた末にハッとした顔をして、自分のバックを漁り始めた。
どきどきしながら一連の動作をじっと見ていても、一瞬目が合ったけどすぐに逸らされる。そんな見てんじゃねーとか思われてるかな。

「ん、」
「……ん?」

暫くして、またこちらを向いて体制を戻した一氏くんから何か差し出された。それはさっきの可愛らしい小道具の布と同じ柄のシュシュだった。
複雑に縫い寄せられた花柄の刺繍。そのまわりには小さなビーズが散りばめられていて、日の光にあたるときらきらと輝いてみせた。
彼の大きい手のひらに乗せられたそれは余りにも不釣り合いで、少しおかしかった。

「可愛い、言うてたやん…やる」
「…有難う、嬉しいなぁ」

彼が俯くと、窓から流れてきた風が、真っ赤な耳を隠そうとするみたいに髪を揺らす。空いてるほうの手がまたそれをかき乱して、赤らんだ頬はそのままに少し笑った。
この笑顔が、どうしようもないくらい私の恋心を加速させて、握りつぶされるかと思うほど心臓が苦しくなる。
これは、いつ、何のために作ったのだろう。小春ちゃんではないだろうし。

「もう、ズルいわ」

わざと大きな手のひらに触れる様に、初めてのプレゼントを受け取った。触れた途端はねる肩。一度交わった視線は逸らされて、彷徨ったかと思うとまた私だけを瞳に写した。
もう、好きだと言ってしまいたい。でも、この距離も楽しむ私は、少しだけ悪い子だ。
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