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バレンタインは男二人で


※注!BL気味

甘い甘いチョコレート。少し触っただけでも溶けてしまうそんなお菓子。なんて洒落た前ふりを考えてみたけれど、僕はどうせ義理チョコも貰えないし。
幽霊部員だらけの文芸部の部室内で秘かに溜め息をつく。幸せ逃げちゃうぞーなんて無精髭伸びまくりの顧問に言われるが、そんなこと気にしない。そんな溜め息で逃げてしまうような幸せなんかたいしたもんじゃないよ、きっと。
「なんだよ、元気ねぇなー。チョコ貰えないから落ち込んでんのか?っざまあ」
思いっきり馬鹿にしてくる先生だけど、先生も多分ていうか絶対に女子から貰えてないだろう。女子じゃなくて誰からも、が正解か。
ジト目で見つめると、先生は降参ですという風に机に突っ伏した。ほらね。
「ざまあなんて言ってごめんなさい。俺も大概ざまあです」
なんだそれ。まぁそれにしても独身男性一人と年齢=彼女いない歴の学生一人っていうこの二人はなんなんだよ。惨めになってくる。泣きたい。え、好きな子?はあ?僕に?そんな子が?いると?
……いるよもちろん!!いるけど先日その子に彼氏ができましてね!!ついでのついでに先生もこの前大失恋したらしいよ!なんか同棲までしてたのに、盛大な浮気っていうか八股かけられたらしい。うーんやっぱり惨めだ。
「お前なんかバレンタインの話でも書いてろよ。文の中だけでもそういう幸せな思いしとけよ」
「いや構いませんけど、それはかなーり惨めですよ。独身男性に恋愛シミレーションゲームして満足しとけ、って言うのと大差ないぐらいには惨めです」
「それは思った、俺も」
死んだ目をしながら言う先生に、一応原稿用紙くださいと手を出す。
「それはそうとお前こういう気はねぇのかよ」
ぐいっと腕を引っ張られて先生に前のめりに突っ込みそうになる。意外と逞しい腕ですね、ってそうじゃないか。え?こういう気はねぇかって。
「先生愛に飢えるのもほどほどにしてください。僕は完全にノンケです。で、原稿用紙ください」
表情一つ変えずにそう返すと、先生は呆れたように僕を突き返した。
「お前はそんなだからそんななんだよぉー!今もう鼻付くか付かないかぐらいのウハウハのドキドキのシチュだったでしょうよぉー!!」
「先生もそんなだからそんななんですよ。ウハウハだのドキドキだの言うシチュならキスぐらいかませば良かったのに」
原稿用紙を片手で受け取ってさっきまでいた席に戻ろうとする。
「え、お前そっちの気、実はあんの?」
うわあーとドン引きしだした先生に原稿用紙全部を投げつける。あとついでに筆記用具も。
「んだッ!!!?」
「ないですッ!!言葉のアヤでしょうがバァカ!!!」
「何をそんな焦ってんだよ……ってか地味に痛ぇのなこれ……」
侮れない、と何故か変に悔しがる先生を尻目に原稿用紙を拾い集める。
「ホモなわけないじゃないですか。しかも先生相手ってイマドキベタな少女漫画でも控えますよそんなネタ」
「ネタじゃなかったらありなのか?」
「っだーもう先生こそ、そっちの気あるんですか?さっきからくどいっていうかめんどくさいっていうか!」
わけがわからん。軽く睨むと先生はやっぱりというかなんというか。ヘラヘラと笑っただけで何も言わなかった。え、その反応はホモなの。なんなの。ノンケじゃないってそれはそれでこの状況まずいんじゃないですか。
「そういやお前の好きだった子ってあれだよな、アキバにいそうな感じの子だよな」
「変に好きだったって過去形に言い回す感じが嫌いです。死ねばいいのに」
「え〜俺は100歳越えても行き続けてギネスに載るんだから駄目だよここで死ねない!」
真顔で拳を握る先生はバカなんだろうか。まぁバカなんだろうな。
「ところで何書こうかな。先生何かネタないですかネタ」
「んな、お前そこらじゅうに転がってんだろ。リア充もネト充も片想い野郎共も廊下やら教室やらにわらわらいるよ!」
「捻りがないつまらないッッッ!!!」
バァンと机を叩くと先生はビクッとビビる。
「ネト充は割りと捻ったつもりだぞ?」
「捻り足りないッッッ!!!」
またしても机バァン。あ、壁ドンの次に流行らないかな。机バァン。
「なんかバレンタインに満ち足りてるカップルの話書いてもなーつまんなくないですか?ひたすら惨めですよ」
「じゃあ百合百合しいのでも書いとけば?あ、逆にホモでもいいぞ。先生は百合でもノーマルでも薔薇でもイケちゃうからな♥ 」
「死ね無精髭」
「酷いぃッ!!!死ねは言っちゃ駄目だし、無精髭は時間ないから剃れないだけなんですッ」
何故か乙女チックに肩を抱えて、ぷいッとそっぽを向く先生。それは可愛い女の子がやるから様になるんであって、無精髭生えたおっさんがやったって誰得なのか分からないですよー。気持ち悪いだけだし、正直。
「まぁじゃあホモでも書いてますよ。先生と男子生徒にでもするかな」
「えッ?!書くの?しかも先生と男子生徒?」
「さっき先生が提案してんでしょーが」
「ジョークだし、ノンケでもそれはさすがに意識しちゃうよ?」
「ノンケなら意識しませんよね気持ち悪い」
「時々光るその毒舌が憎いよ、先生は」
ノンケならノンケならと繰り返し言うけど、本当にこいつは大丈夫なのか。とても怪しい。その気でも起こして僕食べられたらどうしよう。いや、どうしようじゃなくて撃退してやろう。物理的に。
例え僕が犯されても、こんなふ無精髭生えまくってるおっさん教師には到底恋心なんか芽生えないから大丈夫。体から始まる恋なんて信じてないから。黙って撃退してやればいいんだ。
あれ、ていうか何してるんだ僕。



……あとがき……
バレンタインですね。ハッピーバレンタイン!
でもあまあまの男女ものはちょっと苦手なので、むさ苦しい男二人でホモ練習。ホモじゃないよ。ホモ気味なだけ(頑固)
この話、意外と気に入ってたりする。


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