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君に逢いたい


「はぁ……今年も雨なのね……」
少女は窓を見つめながら呟いた。窓の外ではそんな少女を嘲り笑うかのような土砂降り。それは止むかもしれない、という希望さえ持てないほどに。
窓をちらちらと見ては溜め息をつく少女を見て、さすがに心配になった侍女の朝霧はそっと声を掛けた。
「……姫様、来年はきっと会えますよ」
朝霧だって、気休めにもならない言葉なんて掛けても無駄だと分かっている。が、沈みきっている姫を見ているのは朝霧だって辛い。言わずにはいられなかった。
「朝霧……ありがとう。でも来年も雨かもしれないと思うと……。」
彦星と姫様が離ればなれになってもう何年経つのだうか。もう数年経つが二人の熱は覚めず、今現在もラブラブ。
朝霧からしてみればそれはロマンチックなことであり、同時に羨ましくも感じるのだが、当の本人たちからしてみれば丸々一年間もの間全く連絡も取れず、顔も合わせられていないのだ。やっと会えるという日に大雨じゃ気持ちが沈んでもしょうがないことである。むしろ当たり前だろう。
「カササギに頼んでもよろしいのですが…生憎ここまで雨が酷いとなると断られてしまうかもしれませんね……」
本来ならば雨の日は天の川の水が増え、二人が会うには危険なため、カササギに橋をかけてもらうことになっている。だから雨でも会えることは会えるのだ。
しかし、今年はそうもいかない。
今年のように土砂降りとなるとカササギも手伝ってくれないことがある。頼んでも断られるのだ。それはまた丁寧に。
「そうなのよねぇ……カササギだってこんな土砂降りの中、橋渡しなんかしたくないわよねぇ……」
織姫が我が儘を言わないだけに朝霧はどうにかして会わせてやりたいと考えていた。しかし肝心の方法が思いつかない。これでは二人を会わせることなど不可能に近い。二人を引き離した張本人・天帝に相談するというのも一つの手だが侍女の身分である私が行ったところで聞き入れてくれるはずがない。
……どうしたものか。
あれだこれだと提案しては速攻で却下してを繰り返している朝霧の横で、姫は急に窓の外を指差し叫んだ。
「ああッ!!あれって……ッ!!」
姫の声に驚き朝霧は窓の外を急いで見る。
「ひ、姫様あれは……ッ?!!」
驚きのあまり動けなくなってしまっている中、爽やかな声が聞こえてきた。
それは姫が愛して止まない大好きな彼の声。

「織姫ーッ!!」

窓に勢いよく張り付いた織姫は愛しい彼の名を力一杯呼んだ。

「彦星!!彦星ーッ!!」

そう。土砂降りの中堂々と立っているのは彦星。織姫が会いたいと願い続けていた相手である。
しかし朝霧は不思議に思った。何故この土砂降りで天の川を渡ることができたのか。聞いてみたい好奇心に駆られたが、この状態で聞くのには失礼すぎる。
正門から通すわけにはいかないため、窓から彦星をなんとか入れ、思っていたことを彦星に伝えると、
「ああそのことか……いやな、カササギに頼んでみたんだが」
あぁ。やはりカササギに頼んだのか……。しかしよく聞いてくれたものだ。
「断られたんだよ。この雨だしさ。『てめえらの逢い引きなんかに付き合ってられっかよ』て思いっきり……」
苦笑いで告げる彦星を見てるとなんだか悲しくなってきた。カササギ……もうちょっと言い方無かったのか。一年に一度の逢い引きだというのに……!!……てあれ、結局なにでこの人来たんだ?
「それで泳いできた」
……。
…………。
………………?!!
んん?!!
ちょっと待て。今この男なんて?!
「泳いできた……天の川を?」
「ああ」
「そんなこともできちゃうの?かっこいいわ!いやん、惚れ直しちゃう!!」
えええええええええええええ?!!!いや惚れ直すとかじゃなくて彦星泳いできた?!ていうかそれでいいのか姫様は?!!
道理でずぶ濡れなわけだよ。あれだけ大きな天の川を泳いできたというのだから。変に納得してしまったが、これ嘘だなんてことないだろうな。
「と、とにもかくにも朝霧、二人にしてくれないかしら」
「そうだな、一年ぶりに会えたんだし。君に話したいことは山ほどあるんだ」
二人は仲良く手を繋ぎながら私をじっと見つめる。
本当にこの二人は仲が良い。
「分かりました」
私はにこりと微笑むとそっと二人を邪魔しないように部屋を出る。

「どうかこの短い間だけでもお幸せに」




……あとがき……
朝霧が好きです。このお話のみのキャラクターですけどね(笑)イメージ的にはお節介焼きで明るい侍女です。なんか侍女って良いですね。


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