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存在意義


いつも最善の選択をしてきた。みんなに良く思われるか、より先生や大人達の評価を優先した。これやれ、あれやれ、に忠実に従ってきた。人一倍話を聞いて真っ先に行動して、つまらない話でも相槌うって。
私のなかに意思なんて存在しない。
夢も希望もなにもない。私は空っぽの操り人形。周りの顔色を伺って恐る恐る生きてきただけのつまらない人間。きらきら輝く個性も特技も別に無い。でも他人より怒られたことは少ないし、成績も全て最高評価。
それが親や友達に誇れるただ1つの私の個性。

───なのになんで私は今怒られているの?
いじめ?馬鹿馬鹿しい。8割が本人が自分のやることをやれていないのが悪い。何で私にそれを怒るの?理解できない。

今日の家庭科の時間は2時間使っての調理実習だった。私の班は他の班より1人多い6人班。普通なら有利なはずの班。
けれどその1人が足を引っ張った。
先生の話は全く聞かない。頼んだことはやってくれない。始終自分の持ち物の手入れや爪をいじっていた。その行いに対して一言二言注意しただけじゃないか。
注意しても聞いてくれないからと、同じ班の子に愚痴をこぼされた。私は文句1つ言わずに言われたことをやり続けただけなのに、その子の少しの愚痴で班全体が何もやってくれないその子に対して、嫌がらせを行っているかのように先生に勘違いされた。
『最後の調理実習なんだから楽しく終わって欲しかった』
失望、という思いがこもった目で見つめられ、家庭科の先生にそう言われた。まるで私たちが楽しく終わることを拒んだ、とでも言いたげに。
それは違う。調理実習開始数分までは少なくともみんな笑っていた。分担どうするだの材料持ってくるの誰だのと話していたのに。
全部何もやってくれないあの子が悪いんだ。あの子がいるせいで調理実習が楽しくなくなった。あの子がいるせいで先生に怒られた。失望された。あの子さえ私の班にいなければ普通に楽しく過ごせたはずだし、いじめだのなんだの面倒なことに関わらずに済んだんだ。
全部、全部あの子のせい。

『あなたはとても強い意思を持って行動してる。自分の中で許容範囲もしっかりしてるし、何より自分の"正義"を持ってる』
そうだよ。そんなの知ってる。だからこそあの子のこと許せないし、怒られる意味がわからないの。
『でもいじめは違うよね。止めなきゃいけないことで、やっちゃいけないことだ』
だから。いじめなんてしてないってば。たった少しの愚痴だけでそれがいじめだと言うのなら、この世界はいじめだらけだ。今お説教中の先生だってきっと愚痴の1つや2つくらい言うのに。
心の中でどんなに主張しても意味がない。でも先生から失望され、怒られたことなんか今まで一度もなかった私は怖くて何も言い返せなかった。何が怖いとかじゃない。ただひたすらに怖かった。
何より今まで築いてきた信頼を、努力を、傷1つ付いてない綺麗な汚れなき評価を失いたくなかった。それを失ったら私なんている意味も価値もない。たった1つの個性が失われるんだ。
怖いよ。周りから必要とされなくなるのがたまらなく怖い。初めてだ。こんなに怖い思いをしたのは。ああ、涙が止まらない。
『泣いたってしょうがないよ。違うなら否定すればいい。言葉にして。』
違うの。泣きたくて泣いてる訳じゃないの。私だってはっきり違うと否定したい。だけど、言葉にしようとするたびに声は掠れて、涙に消える。息が、苦しい。涙で視界がぐちゃぐちゃだ。何も見えない。
こんなボロボロの私をまだ先生はくだらないあの子のことで怒るの?
もう離して。解放して。私を放っておいて。

最善だと思っていたのは最悪だったのかもしれない。先生の評価を何より気にして優先してきたけれど、もっと他に優先すべきことがあったはずだ。周りの子と同じように叶わないと思っている夢や希望も持っていれば良かった。
いつから間違えてしまったんだろう。間違いなんて私が最も嫌う最低最悪の行為なのに。ああ嫌だ。こんな私を誰が必要とするのか。必要とされてないなんて言わないで。
教えてよ。誰か私に正解を教えて。

───うそでもいい。おねがいだからわたしをひつようだといって。



……あとがき……

優等生見てるとホント何か抱えてるんだろうなぁ、とか辛いんじゃないかな、とは思わずにはいられません。


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