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血を吸われた翌日。僕は、案の定貧血になり、やけに気怠いわ体が重いわで……もうなにもしたくない。
生憎、今日は休日で仕事がなかったから良かったものの。こんなのが毎日続くと思うと、先が思いやられる。
「ね、ねぇ……、毎日こんなに血を吸われる訳じゃないよね?」
「先日言ったように、"少量"ですわ。今日は久し振りのことだったので、多少多かったかもしれませんが」
多少、でこの量はやばい。僕ホントに失血死の心配をした方が良い気がするぞ……。
ぐったりとミニテーブルに頭を預ける。食欲もないし、ホントに動きたくない。なんだか体のエネルギーを最大限省エネしたい気分だ。
「ちなみに数字にするとどんぐらいなんですかね……。」
アリスは思い出すようにして、
「だいたい1L弱ぐらいでしょうか。……毎日4分の1ほど分けていただければ。」
いやもうどれぐらいまでなら普段と変わらなく過ごせるのか、っていうのだけが重要なんだけど。僕だって毎日仕事あるんだからね?
「まあまあ。そんなに悲観しないでくださいな。渚の血、とても美味しかったです。ゲームで言うとSRですわ」
「そんなこと褒められてもぜんっぜん嬉しくないです!しかもなんで今ゲームで例えたんですか?!」
ガタッと音を立てて、ミニテーブルに預けていた頭を起こす。全く動じないアリス。肝座ってますね、お嬢さん。
「あら、ゲームお好きでしょう?……あ、いえ、昨日血を頂いたあと、渚が動けなかった時に渚の着替えやタオルを探そうと幾つか棚を見たんですわ。そのときに、たまたま発見したので、てっきり」
ああ、確かに。昨日僕が動けなかったときに、アリスが持ってきてくれた気がする。そのときは意識も朦朧としてて、気にしてなかったけど……そうか。
「まぁ、好きだけど。でもあれはほぼ友達とか姉ちゃんの。遊びにきた時に置いてくからさ。僕が自分で買ったのは数個ぐらい、かな」
「ん、渚はお姉様がいるんですの?」
「2歳上のが1人ね。尻に敷かれっぱなしであんまり良い思い出ないけど」
今思い返してみても、あの人にはこき使われてばっかだった気がする。
文月華凛。名前の通りの人間だと思う。キューティクルの半端ない黒髪を顎の高さに切り揃えて。真っ白な肌に、厚めに塗られた口紅が映える。……文句無しの見た目。
まぁ性格の方に難があるのは確かなんだけど。黙ってれば美人だから、昔っから引切り無しに彼氏がいる。いつも姉ちゃんが「私には釣り合わなかった」とかなんとかで別れちゃうけど。
僕とはゲームの話でしか話が合わないからそれぐらいしか接点がない。ゲームが僕のところにあるのは、単に邪魔だから置いといてくれと押し付けられただけだ。仲良くもなんともない。
「まぁ、正直どうでもいいのですけれど。私と関わることは恐らくないでしょうし」
「……まあ、確かに」
ため息をついて、なんともなしにふと時計を見るといつのまにか短針は12を指していた。もうお昼か。
「ところで、ヴァンパイアって何食べるんです?普通にお腹とか減るんですか?」
「何でも食べますわよ。でも人間ほど必要とはしませんわね。1日1食でも十分足りますし」
「あれ、でもニンニクってダメなんじゃ…」
「ああ、ヴァンパイアの弱点でお馴染みの。ダメではないですけれど、少し苦手ですわね。でも食べても問題ないですわ」
何故か得意げに話す。
ってことは、実際ヴァンパイアがダメなものってなんなんだ。
「弱点を教えろと言うんですの?……これからお世話になる身ですから、特別教えてあげますけれど。」
アリスが言うには、いわゆるヴァンパイアの特性というか、弱点みたいなのは割と誤解が多いらしい。
アリスが言ったことを箇条書きにすると、こんな感じだ。
・聖水、十字架は別になんともない
・ニンニクは苦手なだけ
・太陽の光は長時間浴びるとバテるってだけ
・基本的な傷は治せるが、火傷は一週間ぐらいかかる。
ここまで聞いて、僕の感想。
「え、無敵じゃないですか」
「いえいえ。そんなことありませんわよ。」
真顔で首を振られた。
「回復力は高いですが、空は飛べませんから高いところから落ちれば死にますわ。それに、血を吸えなければ死にますから、その点では人間よりも不便ですわよ」
昔読んだ絵本とは全然違う。僕が知っているのは、日を浴びて灰になってしまったり、ニンニクを見せるだけで逃げるようなそんな少しチャーミングなヴァンパイアだった。この際だから気になっていることも全て確かめてみよう。
「質問してもいいですか?あの、血を吸われた人間もヴァンパイアになるっていうのは、あれはどういう…」
「ああ、言ってませんでしたわね。単刀直入に言えば、そんなこと起こりませんわ」
サラッと大事なことを。それもっと早く聞きたかったです。
「性行為をすれば、産まれる子供はヴァンパイアとのハーフですけれど。あとは私の血を輸血したときぐらいですわ」
性行為、という言葉が聞き慣れないせいかドキッとしてしまったが。そんなもんなのか。一安心。
まぁ、血を吸うたびに相手もヴァンパイアになってしまうのであれば、そうやすやすと血を吸わせろだなんて言えないか。
「あとは大丈夫なんですの?今のうちに聞きたいことがあるならどうぞ」
珍しく大人しい。こんな子だったけか。毒気を抜いたらただの美少女なんだからやめて欲しい。僕が好意を持ったらどうすんだよ。
「うーん、今は特にないかな?」
「ふうん?そんなものなんですの。では私は少し失礼して」
「え、どっか行くの?」
急に立ち上がってかしこまった礼をするもんだから、こちらも身構えてしまう。
「ええまぁ。この辺の偵察を少し。追手に出会った時の逃げ道を確保しなくてはいけないので」
「あぁ、なるほど。じゃあお供しましょうか?」
「渚は暇なんですの?……いえ、お願いしますわ」
少し嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。僕もほんの少し可愛いなと思ってしまった。このまま恋愛に発展するなんてほど、現実は甘くはないんだろうけど、僕はしばらくこの子と甘い時間を楽しめたらなぁと、そう思った。


ついに3話。今のところすごい楽しい。

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