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泣きたい夜には


「ねぇ、君。どうしたの?」
人気ひとけ のない道端で見つけたのは、よわい 16ぐらいのふわふわな金髪のそれはとても綺麗な女の子。その女の子は道に座り込んで、肩を震わせて泣いていた。静かに、でもそれはとても悲しそうに。
もう日も沈んでるし、こんな夜道に女の子一人じゃ危ないし。というか、それよりもこんな道端で何かあったのか。
「大丈夫?」
僕が言葉を繋げても、女の子は全く反応しなかった。まるで、僕の存在に気づいていないかのよう。
「ねぇ、」
さすがに我慢できなくなって、女の子の肩に手を伸ばした。瞬間。
「痛っ、」
軽い痛みが僕の手に残る。女の子の方をまじまじと2度見すると、信じられないほど怖い顔でこちらを睨んでいた。いつのまにか涙も引っ込んでるし。え、嘘でしょ。てか今僕は手をはね除けられた……?
「わたくしに触らないで戴ける?……この、汚らわしいけだものめ」
「え、あ、あのごめんっ、……別に君をどうにかしようとかそういう意味で触ろうとしたんじゃなくて、」
「わたくしに向かって気安く喋り掛けないでくださる?とても気分を害しますわ、……ぐすっ」
「……すみませんでした」
涙目で強気なのはちょっと可愛い……けど、なんでこんなに僕はボロクソに言われなきゃいけないんだ。初対面だぞ?あ、むしろ初対面だから?
「おい、けだもの。あんたの家、ここから近くにあるの?」
どんなに質素でも狭くてもなんでもよろしいんですの。そう続ける彼女に少しイラッともしたけど。ここは紳士。こんな(多少口が悪くても)可憐な彼女に嘘を言うなんてそんな非道な真似はできません。
「ええ、ここから5分弱ぐらいでしょうかね。質素であなた様には大変見劣りするであろう……あなた様からしたら豚小屋のようなわたくしめの家がありますよ。まぁ勿論独り暮らしなので一軒家ではなく、マンションですけれど」
嘘は言ってないよ。ただ、大分謙遜して謙遜しまくっただけです。お嬢様があまりにも僕のことを卑下するから。
「……分かりやすく根に持ってるじゃないの。ごめんなさいね。少し態度がなってなかったわ。それは謝るわ」
目元に残った涙を自分で拭き取ると、すくっと立ち上がった。
「わたくし、……アリス、と言いますの」
「あ、あ、えっと、僕は文月渚、と申します」
ふーん。そうつまらなそうに頷いてみせる彼女に名前を教えた意味はあるのか。絶対この人興味ない。でも可愛いからそんなことは許そう。そう!可愛いは正義!こんなに言われても尚、助けてあげようと思えているのは彼女の"可愛さ"があるからだ。
そして今から僕の豚小屋……もといい自宅に迎える。あれ、これはいいのか?独身男性(25)の自宅にいたいけな少女を連れ込むってこれはアウトなんじゃないか?いやでもほら、帰るところがないみたいな雰囲気醸し出してるし。僕が何もしなきゃ大丈夫。そう、大丈夫!
「なに、どうしたのよ?ほら早く連れて行きなさいよ」
自分を説得してる間にどうやら正味2、3分僕は突っ立ってたらしい。そりゃあ悪かった。
「ごめんごめん。じゃ、行きますか」
「……頼んだわよ」


「マンション、ね「何か文句でも?」
食い気味に、にこやかに返答すると「なんでもない」。いやいや、言いたいことはよく分かってますよ?僕だって思ってます。
つまりは、超ボロい、と。そう言いたいんでしょ?マンションって言っていいのか、それってちょっと詐欺じゃないかって。
でもほら、よく考えてみて欲しい。部屋数はあるし、エレベーターだって(たまに動かないときもあるけど)あるし。アパートよりはマンション寄り……だと僕は思っている。
「で?部屋どこなのよ」
「123」
「早く案内してくださる?」
「へいへい、すみませんね」
鍵を取り出して、ドアを開ける。
「お見苦しいかと思いますがどうぞ」
「お邪魔しますわ」
上品かつ丁寧に入っていった。礼儀作法がしっかりしているところを見ると、きっとお嬢様なんだろう。ま、だって金髪碧眼の超美少女で、着ている服なんか真っ白なレースがたくさんあしらわれているワンピースだぞ。ただ、こんな日本の森ばっかあるド田舎にいるのが不思議で仕方ないだけで。日本に遊びに来ているのかな?いや、それにしては日本語ぺらぺらすぎだよな。
一晩泊めるだけだ。別に素性なんて僕がわざわざ知ることでもないだろう。
「渚、きれい好きなんですの?」
ソファーにちょこんと座りながら、物珍しげに回りを見渡している。
「え、まぁ。人並みには掃除してるし……」
「見くびっていましたわ。てっきり男の人の部屋って、ごちゃごちゃしているものという偏見を持っていましたし」
特に趣味とかもないし、多分普通の人よりもシンプルなんだとは思うけど。白と茶色とクリーム色で統一された部屋は悪く言えば地味だった。こんなことなら、観葉植物でも置いとけば良かったな。


「あの、渚を"良い人"だと見込んで少しお話がありますの」
お茶も出して、まったりとまどろんでいると不意に真剣な顔で尋ねてきた。なんだろうと思いながらも、「良い人」だと言われて嫌な気分はしないので話を聞いてみようと思う。
「なに?そんな真剣な顔して」
「2度は言いませんわよ」
「う、うん」
まじまじと顔を見られて少し照れる。真剣なアリスに対して悪いが、こんな可愛い女の子に見つめられたら照れない訳がない。それが日本男児だと僕は思うよ?
「わたくし、ヴァンパイアなんですの」
「……は?」
突然なんの冗談だ。それでも真剣なアリスの顔は全く崩れない。
「日本で言うところの吸血鬼というやつですわ。さすがに渚でもご存知でしょう?」
「え、え、ちょっ…と待ってくれない?」
「わたくしは至って真面目ですわ。冗談ではありませんわよ?」
眉間にシワを寄せて首を傾げる。いや、首を傾げたいのは僕の方なんだけどな。
「えーっと、まぁ…うん。分かった。君は吸血鬼なんだね?うん。分かった分かった」
「信じてないようにしか見えませんが……。まぁいいですわ。要件はこれからなんですのよ」
「……はあ」
「しばらく匿って貰えませんこと?」
「……は?」
「家事なら一通り出来ますし。言うこともきちんと聞きますわ」
「……はー…え、うん?」
「それと、わたくし先程申し上げた通り、吸血鬼という身なので、1日少量で全然構わないので吸わせて頂きたいのですが……、あの、話ついてこれてませんわよね?」
血吸わせてって言われた瞬間にちょっとなにそれ美少女に首噛まれんのかよ俺得すぎたろなにこの設定とは思いましたが。もちろん話がぶっ飛びすぎなので全然理解は出来ていません。
「いやいやいやいや。年頃の女の子がこんな独身男性のところに泊まるのはまずいんじゃないの?っていうか、何から匿うわけ?あと、「ちょ、ちょっとお待ちなさいませ!質問には答えますので、あの、1つずつ申し上げてくださいません?」
あたふたとストップをかける。まあ確かに。そりゃあ僕が悪かったな。
「えっと、何でしたっけ?独身男性のところに泊まるのはまずい、と?」
「うん、まぁ」
「別に問題ないと思いますわ。16のいたいけな少女にあなたが手を出すとも思えませんし。というか、問題ないと思ったから頼んでいるんですのよ?」
平然と言ってのける。え、なに、そんな僕買い被られているの?
あとは?と急かされたので動揺をなんとか抑え、
「えっとさ、何から匿えばいいんだ?僕は別に武術なんか使えないし、守るとかそういうのは……」
「それは見れば分かりますわよ。渚の体、ほっそいじゃありませんの。そういうことではないんですのよ。さすがにそんな無理なお願いはしませんわ」
いやいや、もうすでに無理なお願いばっかりではないのか。というか失礼なことを…!
「そうではなくて。わたくし、とある事情で異界へ帰れなくなってしまいましたのよ。次の異界と常界が繋がるのは8月。今2月ですから、あと6ヶ月の間ですね、それまで泊めて頂きたいのですわ」
6ヶ月……。思った以上に長い期間を提案されて驚くどころじゃないんだが……。
「匿って、と申し上げたのにはちゃんと意味がありましてよ。わたくしのような未熟な吸血鬼は人身売買にとても遭いやすいんですの。その人身売買を生業としている連中に先程、……あなたにお会いする前に出くわしてしまいまして。だから匿って頂きたいのですわ」
「その連中ってなに、人間なわけ?」
「違いますわよ。今の時代、人間は人身売買というものをしてはいけない決まりなのでしょう?それに吸血鬼なんかを信じる人なんてそういませんわよ。異界に住んでいる方々に決まっていますわ」
「僕にどうしろと」
無理だよ、それ。無理無理。
「もう質問はよろしくて?」
唖然としている僕に彼女は、それはもうにこやかに。

「これからよろしくお願いしますわ、渚」


何気にこのキャラ好きです。もうシリーズ化したいぐらいには好きです二(:3 × )二 =З

題名はこちらのサイト様から
秋桜


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