言祝ぎを捧げましょう

※ 4年後のお話
※ 主人公は心身共に成長して『雪』の能力を使えるようになりました




出会った時のように、今居るのは並盛神社。
そっと繋がれた手は、左手だった。

「結婚しようぜぇ」

言われた言葉に、こくりと頷いた。
私達はまだ知らない。
これに関して一騒動起こることを。




☆ ☆ ☆ ☆




「カッ消えろ!」
「]バーナー!!」

本気すぎるだろぉぉお、お前らぁ………!!!
イタリア、ボンゴレの本拠地。
静玖と連れだって所謂『お許し』を頂くために来た。
が、

「お約束って言えば『お約束』だよねぇ」
「お前なぁあ゛!!」
「大丈夫だよ、スペルビ」

すっと首の横から後ろに左手を差し出した静玖は、そのまま静かにリングに炎を灯した。
ぼぅっと音がしたかと思ったら、迫ってきていた熱気が無くなる。

「おまっ、そう簡単に『雪』の能力(ちから)を使うなって言われてんだろうがぁ」
「スペルビの命を守るためならばいいの」

静玖をしっかりと姫抱きにし、ボンゴレの城を掛けていく。
後ろから来る2人は宙を飛んでいる。
正直、勝てる気がしない。
だいたい、ヴァリアーボスとボンゴレボスがこんな時ばっかり手ェ組むんじゃねぇええ゛え!

「静玖、スクアーロ君」
「きゅ、九代目………」
「あ、ティモ」
「私は2人ほど若くないからね。それに、スクアーロ君なら反対しないよ」
「ティモ………」

後少しで城を出る、と言うところでばったりと出くわしたのは九代目だった。
その手には杖が握られているので、こっちも戦闘態勢か、と思ったらそうではないらしい。
静玖を地に降ろせば、彼女は迷わず九代目に抱き付いた。

「幸せにおなり、私の可愛い『雪』」
「ありがとう、ティモ。───大丈夫、私の『空』は、ティモ以外あり得ないから」

きゅうっときつくきつく抱き締めて、それからその身体を離した。

「スペルビ、行こう」
「あ゛ぁ」
「頼んだよ、スクアーロ君。私はどうしても、静玖だけはザンザスにも綱吉君にも譲れないんだ。だからどうか、宜しく頼んだよ」
「───Si」

その刹那、ごうっと炎が弾ける。
反射的に振り向けば、瓦礫と化した壁に囲まれる様にして立っている2人。
嵐の赤を含んだ炎と、純過ぎる夕陽色の炎。
ひく、と口の端が引きつった。

「綱吉、ザンザスさん………!!」

ああもう面倒くさい、と静玖が呟いたのは聞きたくなかった。
ちゃき、と静玖が構えたのはリングではなくおしゃぶり。
いや、ちょっと待て、お前、お前、それ………!!

「フィー、能力借りるよ。………ちょぉぉぉぉっと頭冷やしなさい、大空ズー!」

ぶんっ、とおしゃぶりの鎖を掴んで振り回す。
おしゃぶりから放たれるのは氷柱。
攻撃性のないそれは、人体に触れても怪我をする事はない。
氷柱が触れた部分から、凍っていくだけのもの。

「静玖!」
「大丈夫、今のはフィーのだから。私の炎は使ってない」
「───白雪」

低音の声が響く。
銃を凍らされ、手まで『雪』の氷に包まれたボスは、その赤い目を静玖に向けていた。

「なんですか、ザンザスさん」
「なんでソレなんだ」
「私が彼を好きだから、の理由だけでは足りませんか?」

もう、困ったなぁ、と呟く静玖に、あぁ、コイツは本当に成長したな、と思う。
中学生の頃は、もう少し大人しかったはずだ。
そう、ボスに対してあんな事を言わないぐらいには大人しかったはず。

「私が好きになったのは、貴方の右腕に成り足る人。───私は、好きになった人を間違えてはいません」
「静玖………」
「───カス鮫!」
「なんだぁ、ボス」
「しばらくは休みをくれてやろうか?」

にやり、とボスが口端をつり上げる。
それはつまり、───つまり。

「有り難くもらっておくぜぇえ、『特別休暇』」
「もう、本当、ザンザスさんのそういう気前の良さが大好きです!」
「───静玖、」

どこか呆然とした声が響く。
震えると言うより、どこか病んだ声だ。

「静玖、なんで」
「ふぇ」
「なんで、スクアーロ? ううん、スクアーロが一番マシなのはよくわかる。だけど、なんでもっと早く言ってくれなかったの?」
「綱吉………?」

静玖が沢田に対して首を傾げる。
沢田もボス同様に凍らされた手を放置したまま、てこてこと静玖に向けて歩いてきた。
そうして、ぼすん、と静玖の首もとに額を当てる。
近ぇ!

「綱吉?」
「もっと早く知ってたら、ちゃんとお手伝いしたのに」
「『お手伝い』?」「ヒバリさんとか骸とか、ちゃんと牽制してあげたのに」

沢田の台詞にオレも静玖も固まった。
手伝い?
牽制?
………つまりそれは、

「俺が怒ってるのは、今の今まで静玖が俺にそれを隠していたこと」
「………あ゛?」
「ザンザスみたいにスクアーロが原因なわけじゃなくって、今日、こうした形で暴露された事に怒ってるんだ」

ひょいと顔を上げた沢田はむすりと頬を膨らませて静玖をじぃっと見ていた。
それから、ぷっと吹き出して笑い出す。

「お子ちゃま」
「うるさいな」
「可愛いなぁ、もう。綱吉ったら。ねぇ、スペルビ」
「………それ、オレが肯定したら気持ち悪いだろうかぁあ゛」
「あ、そっか」

それもそうだねぇ、と小さく呟いてから、ぎゅうっと沢田を抱き締める。
いら、としたのは間違いない。
アイツはどうしたって『大空』に弱い。だからああやって、何かあったらすぐに抱き締め、その心を癒す。
今から妬いていたら、今後身が保たないのはわかっている。
だけど、妬くもんは妬く。

「静玖、」
「ん。ごめん、スペルビ」
「───静玖、幸せに」

名を呼べば、静玖はその腕から沢田を離した。
するりと逃げていく腕に、沢田が小さく幸せを願うよう呟く。
淡く小さく微笑んだ静玖はくるりと振り向き、オレに飛びついてきた。
その身体をしっかりと抱き締め、そして抱き上げ、ボンゴレの城を2人揃って出る。
『大空』はもう、追いかけてはこなかった。




☆ ☆ ☆ ☆




「怒ってる?」

たんたん、と階段を私を抱えたままスペルビが降りていく。
その表情がなんだか難しいから思わず聞けば、彼は静かに見下ろしてきた。

「怒ってはねぇけど、」
「『けど』?」
「妬いてはいたぜぇ?」

眉を寄せてそう言うスペルビに、ぱちぱちと目を瞬く。
妬く? 妬くの? スペルビが? 今さっきまでの綱吉達とのやり取りで?
なんで? と首を傾げると、スペルビに抱え直された。

「大空に甘い」
「あー。それはなんて言うか、性質上?」
「だから妬くんだろうがぁあ」
「ぇえ?」
「無意識の行動。それでべったりされたらやってらんねぇぜぇ」

呆れたような声。
む、と口を尖らせてから、よいしょとスペルビの肩に腕を回して、額に額をぶつけた。
至近距離での邂逅。
スペルビがほんの少し眉をつり上げた。

「どうしたぁ」
「どうもこうも。あのですね、スペルビさん」
「おぅ、なんだぁ゛」
「これから私の『唯一』で『特別』の旦那様になるんだから、シャキッとして下さいよ、シャキッと!」

ぴた、とスペルビが固まる。
んん? おやおや?

「スペルビー?」
「………………その地位じゃあ安心出来ないから妬いてんだろうが理解しやがれこの馬鹿がぁあ゛あ!!」
「ええぇえ!」
「テメェ今まで誰を誑し込んで来たと思ってんだ、あぁ゛?!」
「たら、誑し込むってなに、誑し込むって!」
「とりあえず大空は端からホイホイしてんじゃぁねぇか!」

べ、別に好きでホイホイしてるわけじゃないのに!

「誑し込んでないもん、スペルビだけなんだから!」
「………!」

僅かに目を見開いたスペルビは、そのままぐっと顔を近づけてきた。
触れたのは唇で、触れた後にぺろりと舌で舐められる。
ゆっくりと離れていったスペルビから顔を背け、頬を赤く染めた。

「シャキッとしてくれよ、奥さん?」
「………善処しまーす」

きゅうと抱き付いてスペルビの首に額を当てた。
私の『空』からの祝福。
スペルビの『空』からの許可。
幼なじみの『空』からの言祝ぎ。

この人と歩くこれから未来(さき)は、きっと幸せに満ち足りているのだろう。












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大空ズはやっぱり『雪』に甘かったようでした。
綱吉やザンザス、ティモがスクアーロなら良しとしたのは、彼相手なら大きく出れるからです。ザンザスが『雪』が必要な時貸せ、とか言ったらスクアーロは逆らえませんからね。
リクエスト、ありがとうございました!



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