君に捧げる祝言

※ 時間軸は無視して下さい




「柚木。これ、やる」

ふぁさ、と黄色チューリップの小さな花束を、学校に行く前、家の玄関で獄寺君から渡された。
え、え………?

「十代目から、誕生日って聞いてな」
「あ、ありがとう」
「あぁ」

煙草をくわえたまま、彼はそっと目を細めた。
うぅ、なんか様になるなぁ、獄寺君。

「静玖、俺からのプレゼントは家に帰ってからな。親父に寿司盛り頼んどいたから」
「えええ!」
「俺は夜ね。取りに来て?」
「ん? うん、わかった」

山本君に続いてそう言ったのは綱吉で、なんかちょっと納得いかないけれど、こくんと頷いた。
わざわざ取りにいかなきゃいけないぐらい、大きいのかな。
………あ、私がリボ先生にあげたものみたいに大きいのかも。
獄寺君からもらった花束を子霧に預け、私は珍しく3人と一緒に学校へ足を向けた。
誕生日、かぁ。
すっかり忘れてたなぁ、と心の中で小さく呟いて、軽い足取りで学校に行ったのだった。




☆ ☆ ☆ ☆




「ハッピーバースデートゥユー、」
「ふぇっ、」
「ハッピーバースディ、」
「ヒバード?」
「トゥユー♪♪」

放課後、ぽとん、と私の両手に包装されたそれを落としたのはヒバードだった。
え、あれ、もしかしてこれ。

「雲雀先輩、から?」
「タンジョウビ、オメデトウ」

変な調子の、片言の言葉。
それをヒバードに教えたのが雲雀先輩だと思うとなんだかとても面白い。

「ありがとう、ヒバード。雲雀先輩にもお礼を伝えてくれる?」
「リョウカイ」
「ふふふ、ありがとう」

黄色い頭を撫でて、ぱたぱたと飛んでいくその姿を見送った。
それから、ゆっくりと手の内のプレゼントを見る。
赤いリボンで包装された、長細いものだった。

「なんだろ………」

行儀の悪さを承知でバリバリと包装を外す。
そこにはベルベット生地の箱が入っていた。
んん?
ぱかり、と開けるとそこにはシンプルなネックレスが収まっていた。
………いやいやいや、ちょっと待とうか。

「中学生が持つにはちょっと高価過ぎやしませんか、雲雀先輩」

本人が聞いたら怒られそうなそれを思わず呟いた。
だ、だって素人が見ても高価そうなんだもん。
いや、嬉しくない訳じゃない。もちろん嬉しい。
だけど私がつけるにはちょっと、と言う代物。

「まぁ、いっか」

雲雀先輩がくれたこれは、いつか必ず付けよう。雲雀先輩と会うときにでも、そう、必ず。
そっとカバンの中にしまい込み、ゆっくりと歩み始めた。
校門まで歩いていけば、特徴的な髪型のシルエットが2つ。
………あれ、

「凪ちゃんに、骸くん………?」

名前を呟けば、2人は揃ってこちらを向いた。
うわ、何、なにっ。

「静玖ちゃん」
「静玖さん」

こいこいと手招かれる。
ぱたぱたと傍に寄れば、くっと両方から腕を引かれた。
ちゅうっと可愛らしい音が頬から響いて、温もりが離れていく。
───ふぇ?!

「「Buon compleanno!」」
「っ!」
「じゃあまた、静玖さん」
「またね、静玖ちゃん」

ひらひらと手を振って2人は私の前から姿を消した。
え、えっ………!

「こっ、校門前でなんたることを………!!」

目立つじゃないかっ、と叫びそうになって慌てて口を閉じた。
叫んだらさらに目立つ。それこそ私が望まない状態になる。

「帰ろ………」
「ん? もう帰るのか、柚木静玖」
「っ?!」

後ろから響いた大声に肩を震わせて驚き、慌てて振り返る。
そこにいたのは部活途中の了平先輩で、その手には先輩には似合わない可愛い袋を持っていた。

「極限勿体無いぞ! 俺と京子からのプレゼントを受け取らんとはっ」
「了平先輩………」

にかっと輝く笑みを浮かべた了平先輩にぱちくりと目を瞬く。
え、了平先輩も、祝ってくれるの………?

「柚木妹、誕生日おめでとう」
「あ、ありがとうございます、了平先輩………」

手渡されたそれは軽い。
なんだろう、と気にしつつ、だけど本人の目の前でそれを開くわけにはいかないので、きゅうっと両手でそれを抱いた。

「うむ。では俺は部活に戻る。柚木妹、気を付けて帰れ」
「はいっ。了平先輩、部活、頑張って下さいね」

元気良く走り去っていった了平先輩の背を見送って、私は家に帰ったのだった。




☆ ☆ ☆ ☆




今日の夕飯は実に豪勢で、嵐ちゃん達の手料理に、メインは山本君からのプレゼントであるお刺身だった。
生魚を扱う商売だけあって、どれもこれも新鮮で美味しくて、わざわざ私の誕生日に捌いてもらったなんてホントに豪華。
美味しかったなぁ、本当………。
そんな感想を抱きながら沢田家に行くと、リボ先生に促されるままに綱吉の部屋へと足を向けた。

「綱吉、入るよ?」
「うん、静玖、いらっしゃい」

ベッドに座っていたらしい綱吉は一度立ち上がって、ひょこりと扉を開けて顔を覗かせた私を手招いた。
断る理由もないので、とてとてと歩いて彼の隣に腰掛ける。

「左手出して」
「………ん」

すっと左手を綱吉に差し出す。
すると綱吉はポケットを漁って、何か取り出して私の親指に嵌めた。
………指輪………?
華奢なそれではなく、幅があってしっかりしたもの。………獄寺君がつけるような、あんな感じのものだった。

「誕生日おめでとう、静玖」
「ありがとう、綱吉」

でもなんで指輪?
思わず首を傾げる。すると綱吉は困ったように笑ってから、あのね、と口を開いた。

「九代目に、対抗してみた」
「へ?」
「九代目が小指だから、俺は親指」
「………………ははっ、」
「笑うなよ」

頬を紅くしてぺちんと軽く肩を叩いてきた綱吉の背に腕を回して、ありがとう、とまた呟いた。
今年の誕生日は、とても暖かかった。










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主人公の誕生日祝い、並盛orヴァリアーだったのですが、並盛を選ばせて頂きました。
リクエスト、ありがとうございました!



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