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あまりにも真剣な顔で呟かれた言葉にぱちぱちと目を瞬く。
え、え、『友達』………?

「駄目、ですか?」
「いや、駄目というより、」

『友達』になるのに、許可って必要かな。
六道さんを見上げれば、不安そうに色の違う瞳を揺らしているようにも感じられて、う、と言葉に詰まった。
別に断る理由はないけれど、でもそれって『友達』?
『友達』の定義なんて基本的にはないし、『知り合い』と『友達』の境目だって曖昧だ。

「あのですね、六道さん。『友達』って、相手から許可をもらってなるものではないと思うんです」
「はい」
「だから、えと、六道さんは私と友達になりたいんですよね?」
「えぇ、まぁ、」
「ならもう、『友達』で良いじゃないですか」

投げやりな回答だけれど、私にはそれ以上に言いようがない。

「私、凪ちゃんとだって今日で会うの3回目です。でも、会ってから、お別れしたその時から彼女のことを『友達』だと認識してます。それぐらい『友達になる』って曖昧なことだから、その、六道さんが私を『友達』だと思ってくれるのなら、私達はもう『友達』です」

なんか物凄く恥ずかしいことを口走ってる気がする───いや、気じゃない。確かにしてる。ナニコレ、恥ずかしい!

「クフフ」
「ろ、六道さん?」
「先ほどまでの『苛立ち』はどこへ行きました?」
「六道さんが突拍子もないこと言うから吹き飛びました」
「それはそれは」

良かったですねぇ、と頭を撫でられる。
良かったのか、悪かったのか。

「それよりも」
「なんですか?」
「呼び方と敬語を取り捨ててもらえませんか? 貴方は犬や千種、凪とは違うのですから」
「え、えー」

呼び方、呼び方ねぇ。

「他のご友人はどのように呼んでます?」
「名前に敬称付けで………かな。呼び捨てにしてる相手は綱吉だけだし」

スペルビは『友人』に当てはまらないので除外。
子雨達もその部類だ。
うーん、

「あ、じゃあ、骸くん?」
「………はい、それで」
「いや、嫌なら嫌と言って下さい………」
「クフフ。こちらから頼んだことですからお好きにどうぞ」

本来ならば年上であろう人だけど敬語を遣わない相手───スカルくんのと同様に、って思ったんだけどな。
だ、駄目だったかな。

「骸しゃん、俺らいつまでここにいるんれすか?」
「まだ時間ではないでしょう?」
「………?」

黙っていた城島さんの突然の問いも、彼はすんなりと返し、彼独特であろう「クフフ」と笑う。
何か約束事でもあるのかな。
だったら私、帰ろうかな。
そう思って一歩引けば、とん、と靴の踵を鳴らして柿本さんが隣に立った。

「骸様の口から『友達』なんて言葉、でるとは思わなかった」
「え………?」
「利用されるか、利用するか。俺達が生きてきた世界はこんなに甘くなかったから」
「………なんだ、答えは簡単じゃないですか」

すらりと身長の高い柿本さんを見上げる。
彼は眼鏡を指の腹で押し上げながら私の言葉を待った。

「傍に置いたところで、私が彼を利用するなんてことがない、ってことですよ」
「は?」
「あの人がどんな能力(ちから)を持っているかを知らないし、興味もありません。それに、例えば強靭な能力を持っていたとしても、私が生きていく中でそんな強靭なる能力なんて必要ない」

護衛と言う大層立派なものが傍にいるけれど、私は彼らが武器を取ったのを見たのはチェルベッロ機関に連れて行かれた時だけ。
それ以外は買い物行ったりなんだりと、『武器』を必要としない生活をしている。
つまりそれが、私の『普通』だ。

「そんな私が彼を利用するはずがない。………綱吉と何があったかは知りませんけど、綱吉に対して何かをする『人質』ならば、なにも『私』である必要はない。だって綱吉にとって大切なのは『私』だけじゃない。そして幼なじみも私1人じゃなく、深琴ちゃん───姉がいる。利用価値も低いから、逆に傍に置いても邪魔にならない場合があるってことじゃないですか?」

そもそも『利用価値』がある人間の方が少ないし。
そこまで呟いて、3人の目が私を見ていることに気が付いた。
はっとして一歩引く。

「え、偉そうにすみません………っ」

恥ずかしい。照れくさい。そしてなんか目立ってる!!
火照る頬に片手を添えながら逃げるようにさらに一歩退いた。
そんな私に、骸くんの声が降りかかる。

「強い人ですね、貴方は」
「………え、いや、そんなことは、」
「心の問題ですよ。いや、あり方と言った方が正しいでしょうか」
「心の、あり方………?」

楽しそうに口端を緩めた骸くんはその長い足で2歩歩き、私の前に立った。

「自身の『普通』をよくわかっているなんて、珍しいことですよ」
「そう、ですか………?」
「人は自らの『普通』から目を背けようしますからね」
「?」
「目を背けているからこそ、失ってから『大切』だと気付くんですよ」

失ってから『大切』だと気付く。
当たり前に存在している『幸せ』を気付かない。
『幸せ』って、なに。ってことだ。
でも、

「私、『普通』は変わっていくものだと思います」
「おや」
「だって、日々何かと出会っているんだから変わっていかなきゃ変ですよ」

骸くんの手をつかみ、柿本さんの手もつかむ。
残念ながら城島さんは遠くにいるから、その手はつかめないけれど。

「そうじゃなきゃ、新しい友達なんか出来ないじゃないですか」
「──────」
「私の『普通』は凪ちゃんに会って一度変わって、柿本さんや城島さんと駄菓子屋で会った時にまた変わって、今、君に会ったことでまた変わったんです。『知り合いが増えた』・『友達が増えた』って小さいようで大きな変化だと思うんです」

なら、私は、それを含めて私の『普通』をしていたい。
そう、骸くんを見上げて言えば、こつ、と肩に彼の額を当てられる。
肩がかすかに揺れている辺り、笑っているんだろう。

「本当に、面白い方だ」
「私が?」
「ええ。───凪のこと、宜しくお願いします」

しゅうう、と霧が霧散する。
きゅうと抱き付いてきた腕は細く、密着する身体が柔らかい。

「凪ちゃん?」
「静玖ちゃん………」

すっと凪ちゃんが身体を離す。
そこでようやく、彼女が眼帯をしていることに気が付いた。
………だけど、いい。聞かない。
その代わり、凪ちゃんの手をぎゅうっと握り締めた。

「久しぶり、凪ちゃん」
「………久しぶり」
「あ、凪ちゃん。ちょっと待って」

鞄からルーズリーフとシャーペンを取り出して、住所と電話番号、簡単な地図を書く。
きょとん、と隠していない片目を丸くした凪ちゃんに手渡すと、彼女はその中身を認識して、バッと私の顔を見た。

「連絡先。携帯持ってないからさ、これが一番簡単かなって、」
「静玖ちゃん」
「あー、うん。凪ちゃんに持っていて欲しいんだけど、駄目、かな」

ぶんぶんっと勢い良く首を横に振った凪ちゃんははぁ、っと息を吐いてからとろけた笑みを浮かべた。
う、可愛い………!

「大切に、するね」
「うん」
「お家、行ってもいいの………?」
「泊まりにおいでよ、凪ちゃん。で、夜中までいっぱいお喋りしよう?」
「………!」

顔を赤くして押し黙った凪ちゃんの頭を撫でる。
あぁもう、なんて可愛いんだろう。

「聞か、ないの?」
「何を?」
「骸様の、こと」
「うーん、」

そりゃあ興味がないわけじゃない。
だけど、骸くんも凪ちゃんも『聞かないのか』と聞いてくる。………それってあまり言いたくないんじゃないのかなぁ。
あぁ、でもなぁ、

「私さ、別に凪ちゃんと骸くんの関係を知らなくても2人とは友達としてやっていけると思うんだ」
「………………」
「だから、別にいいかなって。柿本さんや城島さん達のことも。聞かなきゃいけないわけじゃないし、凪ちゃん達だって言わなきゃいけないわけじゃない」
「………うん」
「だから、いいよ」

そう言って笑えば、凪ちゃんはゆっくりとこくん、と頷いた。
その瞬間、ぼすっと左右から頭を叩かれる。

「………千種」
「犬だっつの」
「………っ、はい!」
「静玖ちゃん、『はい』じゃなくて、」
「うん、だね?」
「───うん」

ふわっと笑った凪ちゃんに笑みを返す。
人の善し悪しは伝聞では推し量れない。
それだけは、忘れないでおこう。

そう誓って、凪ちゃん達と別れた。



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