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スカルくんが家に来て───私の部屋に来て?───三日経った頃、雲が学校で雲雀先輩と鬼ごっこをしているのを見るのも慣れた。
雲雀先輩は気絶させられたことをやっぱり根に持っているらしく、とりあえず雲を追いかけ回してる。
話しかける暇が全くなくて、少し寂しい。
そんなわけでお昼は、内藤君と食べている。

「ねぇ、柚木ちゃん、あの噂聞いた?」
「あのって、どれ?」
「なんか並中生が襲われてるってヤツ」
「………詳しく聞いても?」

箸を止めて内藤君を見れば、彼はぱちんとウィンクして事細かく説明をしてくれた。
なんでも、並中生が黒曜の生徒にボコボコにされているらしい。
その被害は、一般人───並盛の秩序たる雲雀先輩率いる風紀委員以外にも出ていて、今、外出するのは実に危険だということだ。
今回ばかりは関係ないとは言えない。
だって私は並盛の生徒だから。
まぁ、私には子雨とか雲とかスカルくんとかという、たいそう立派な護衛がいるから心配しなくても大丈夫だと思うけど。
………ん?

「あれ?」
「柚木ちゃん、どうしたの?」
「いや、うん。勘違いなら良いんだけど、その」

この間駄菓子屋でぶつかった人達、黒曜の生徒じゃなかった………?
それに、スカルくんが「血の臭い」がするって………。

「まさか、ねぇ」
「柚木ちゃん?」
「あ、ううん。何でもないよ、内藤君。ただちょっと、怖いなぁって」
「大丈夫っしょー! だって柚木ちゃんには沢田ちゃんが居るんだし」
「………? 綱吉?」
「そ、沢田ちゃん」

どうしてそこに綱吉が出て来るんだろう。
思わず首を傾げると、にゅっと後ろから手が伸びてきてそのまま私に抱き付いた。

「雪ちゃん」
「雲」
「あれ、柚木ちゃん、彼氏?」
「お友達、だよ。雲、雲雀先輩は?」
「知らない。そんなことより雪ちゃん」

手が離れ、身体も離れて、私の前にやってきた雲は、丸い目をついっと細めて私の頬に手を伸ばした。
私が怖がらないように、と安心させるように親指で撫でる。

「笹川了平、怪我したみたいだよ」
「っ! そんな、了平先輩が?!」
「うん、狙われたみたい」
「柚木ちゃん、大丈夫?」

そっと肩を掴んでくれた内藤くんにありがとう、と呟いて、頬に触れたままの雲の手を握りしめた。
了平先輩が、怪我をした………? そんな、京子ちゃんは大丈夫なのかな。
それに、深琴ちゃんも。
私より了平先輩と仲良しなわけだし、あぁもう、心配だっ。
お昼なんて食べてる場合じゃないっ!

「私、帰る。雲、帰ろう。内藤くん、ごめん、私───」
「静玖!」

………誰。
振り返ったところに居たのはヤマモト君だ。
ヤマモト君もナチュラルに私を呼び捨てにするんだね。
自己紹介してないのに。

「あっれー。柚木ちゃん達友達だったの? だったら言ってよー」
「違うよ、内藤君。知り合いなだけ」
「………手厳しいのな、静玖」
「なんで君はあっさり呼び捨てにするかな、しかも名前を。私、君に名前を教えた覚えないんだけど」

思わずじとりと目を据わらせてそう言えば、ヤマモト君は何とも言えない表情で後頭部をがりがりと掻いた。
何とも言えない表情をしたいのは私だよ、ヤマモト君っ。

「今更だろ、静玖?」
「───チッ。で、何か用?」
「ツナ知らね? 朝から姿見てねぇんだけど」
「あぁ、私も見てないよ? ───綱吉に何かあった?」
「いや、そうじゃねぇけど」

がりがりとさらに頭を掻いた彼はそのままじぃ、と私を見て、それから私の隣に居る雲を見た。
雲はぱちぱちと目を瞬いてから、首を傾げてにこっと笑った。

「僕に何か用、山本武?」
「いや、別に」
「ふぅん?」

口元にそっと手を添えてからくすっと笑った雲から目を背けて、ヤマモト君に向き合う。
ヤマモト君はすっと私に手を伸ばして、手を掴んだ。

「なぁに、」
「帰ろうぜ、静玖」
「は、私も?! なんで、え、え?!」
「雪ちゃん、先帰ってていーよ? ソレが居るなら僕が居なくても大丈夫でしょ」
「まったねー、柚木ちゃん!」

ひらひらと手を振って我関せずを決め込んだ雲と内藤君を恨めがましく睨んだところで、あの二人は表情を全く変えなかった。
く、くそぅ。
私は生け贄かっ!

「ヤ、ヤマモト君っ」
「あぁ、そうだ。───静玖」
「な、に………?」
「俺、山本武。宜しくな」

足を止めてにかっと笑う彼に毒気を抜かれたのは間違いなくて、私は肩から力を抜いた。
やっと本人の口からフルネーム聞いたよ。
彼と知り合ったのは綱吉と屋上ダイブした時ぐらいだから、あれから一年ぐらいか。長かったなぁ。

「私は柚木静玖だよ、山本君。これから、改めて宜しくね」
「あぁ」

離れたはずの手を再び握られて、また引っ張られる。
ちょ、山本君、速いっ!
山本君は運動部でも、私は帰宅部なんだからその辺り考慮して欲しいンだけど、ってそんなことまで考えてくれないよね。あぁ、そうですか、諦めます。
はっと息を吐けば、思い出したように山本君が振り返った。

「わりぃ、速いか?」
「とてつも、なく。ちょ、っとは、手加減、して」
「大丈夫か?」

聞かれて、息も絶え絶え首を横に振る。
帰宅部兼ひきこもりを舐めるなよ、青春球児。君たちみたくグラウンドを走るなんて素晴らしいこと出来ないんだからっ!
肩で息をしてゆっくりと呼吸を整えていけば、山本君が背中をさすってくれた。
そんな優しさをくれるなら、初めから走るペース考えてよっ。今更要らないよ………!!

「と、ところで山本君。どこ行くの?」
「あー、適当に? とりあえずツナと獄寺を探そうかなって」
「そう。で、なんで私までつれてきたの? 私、必要だった?」
「んー。なんとなく?」

ダメだ、この子………!
思わず頭を抱えれば、山本君はからからと元気良く笑った。
笑ってる場合じゃないんだけど、私からしたらっ。

「とりあえず商店街回るか」
「それもやっぱり私も行くの?」
「駄目か?」
「………わかったよぅ。最後まで付き合えば良いんでしょ」

抵抗を諦めてそう言えば、山本君はにかっと笑った。
爽やか球児め………。

「………あ!」
「ん? ───あれは、」
「ツナ!」

山本君の視線を辿ると、血まみれで倒れるゴクデラ君がいた。
それを確かめた後、一歩踏み出した山本君は早かった。
綱吉の肩を抱いてヨーヨーをよけて、地面に滑り込む。
綱吉、と彼の名前を呼びながら傍に寄ろうとして、足を止めた。
ぽたり、ぽたり。
滴る血を拭うことなくそこに立っていたのは、スカル君に近付くなと言われた帽子の少年がそこに居る。

縁は確かに、私の知らないところで絡みはじめているのだった。



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