華やかなる君と


なんてことだ。
なんてことだ!

「なんでみんな先にお参り行っちゃうの?!」

いや、寝てた俺も俺なんだけど!!
新年、みんながいつも通りに我が家に集まってくれて、けれど、なかなか起きない俺に痺れを切らしたリボーンの一言の元、みんな先にお参りに行ってしまったらしい。
それを母さんから聞いた俺はバタバタと慌てながら支度をして、あらあら、と頬に手を当てながら俺を見ている母さんを尻目に、くぅ、と僅かに鳴いた腹を無視してみんなを追いかけようと家を出た。

「――――――あっ」
「え? あれ、綱吉」
「静玖」

家を出て、一目。
鮮やかな振り袖を来た静玖と目が合った。
いつもはリコリスで結われている髪は簪で綺麗にまとめ上げられているし、そのリコリスはちょこりと静玖の肩に座っている。
薄くお化粧もしているみたいで、いつもとちょっと印象が違った。

「あけましておめでとう、綱吉」
「あ、うん。あけましておめでとう、静玖」

ぺこり、なんて頭を下げる静玖に、慌てて俺も頭を下げる。
見慣れた静玖の、見慣れない姿にちょっとだけドキっとしたのは秘密だ。

「一人なの珍しいね」
「寝てたら置いていかれた………」
「それは綱吉が悪いのでは?」
「あ、やっぱり」

こちらを気遣うことなくキッパリと言ってくることに救われていることが多い。特に今回みたいに、明らかに俺が悪い場合とか、遠慮せずにはっきりと言ってもらった方がこちらもすっきりする。
はい、悪いのは間違いなく俺です。なんてちょっとしょぼくれてみた。
そんな俺に、静玖が楽しそうに笑いながら、そっと手を差し出してくる。

「行こう」
「え? 静玖、行って帰ってきたんじゃないの?」
「うん? 私もこれからだよ」

だから行こう、なんて、手を差し出しながら誘う静玖に、俺は笑いながら静玖の手に手を重ねた。
かちゃり、俺の指に嵌められているリングが重々しい音を立てて、静玖のピンキーリングと重なる音がする。

「握りにくくなったなぁ」
「えぇ、そう? 私は嫌いじゃないよ」
「え、本当? こんなにリングごっついのに」
「でも、その分綱吉の手がわかるから」
「………俺の手、情けない?」
「そんなこと言ってないでしょ」

指を絡めて手を握りあい、みんなが先に言っただろう神社を目指す。
柔らかい音を立てながら静玖が歩いていく。隣を歩く俺の足音は、普段のスニーカーだからか少しだけ情緒がない。
そう言えば、なんで静玖は今からお参りなんだろうか。
深琴のことを考えれば、もっと早くに行っていただろうに。

「なに?」
「ん? 何が?」
「綱吉のその視線は何かなって」
「あー………………」

無言で静玖を見ていたのに気が付かれたみたいだった。いやまぁ、彼女なら気付くだろうけれど。
たぶんさらっと答えてくれるんだろうけど、聞いて良いのだろうか。うーん、いいや、聞いちゃえ。

「なんで静玖はこの時間なの?」
「うん? あぁ、これだよ、これ」
「振り袖?」
「うん。私達の炎って綺麗に色分けされてるじゃない? だから、護衛のみんながねぇ」
「あー、それぞれの炎の振り袖着てほしいって?」
「うん」

深琴ちゃんの振り袖はさっさと決まったのになぁ、なんて呟く静玖は、ちょっと疲れたような声を出している。
九代目の守護者たちのご子息ご息女である静玖の護衛たちは、兎にも角にも静玖が大好きで、静玖の身に纏うものに己の属性の色を入れたいと躍起になっているらしい。これは深琴から聞いたことだった。
そんなわけで今日の静玖が身に纏うのは、地の色は青と言うか、藍と言うか、そっちの系統の色だ。なるほど、『雨』か『霧』の護衛が勝ったのだろう。

「女の子は華やかだよな」
「男の子だって華やかなの着て良いと思うんだけど」
「って言っても、今の俺が着たら着られてる感凄そう」
「綱吉って自己評価低いよね」

それは静玖に言われたくはないかな!

「あー………」
「ん?」

まぁ、静玖の自己評価が低いのは、そのうち誰かがなんとかしてくれるだろう。
俺のこれは………………みんなといれば、少しは改善されるだろうか。されるといいな。
変な声を上げたまま黙ってしまった俺に首を傾げつつ、あ、そうだ、と静玖が持っていた巾着を片手で器用に開けた。

「はい、綱吉」
「………えっ、今年も?」
「うん、お年玉」
「毎年ありがとうございます」

俺が一人っ子であること、父さんが家にいないということ、さらには静玖と同い年、という諸々が重なって毎年俺にもお年玉をくれる。とてもありがたいことだ。
深々と頭を下げてそれを受け取って、申し訳ないけれどポケットへと突っ込む。
………あれ?

「静玖の両親、海外じゃなかった?」
「そうそう。まだ帰ってきてはないよ」
「え、じゃあなんで」
「『今年もツナ君にあげてね』って国際電話来た」
「ありがとうございます」

また頭を下げる。そんなこと言われたら、下げるしかない。わざわざ海外にいるのに、他人の家の子にまで気を使って頂いて、有り難い限りだ。

「あ、静玖」
「うん?」
「今年の抱負は?」

神社の境内へ向かう階段のところ、みんなが待っている姿が見えた。
獄寺君が「十代目ー!」と大きな声を上げながらぶんぶんと手を振っているのがわかる。
恥ずかしいけれど、ちょっとだけ嬉しい。

「うぅん、今年の抱負かぁ………………」

俺の問いかけに、足を止めて、目を閉じてまで唸ってしまった静玖に合わせて足を止める。
ぎゅっと俺の手を握り直した静玖は、ゆっくりと瞼を持ち上げた。

「兎にも角にも、君たちの賑やかさと華やかさに慣れることかなぁ」
「まだそこかよ?!」
「まだそこだよ?! 君たちは自分たちのアレソレを自覚した方が良いよ」
「お前も最近大概だからね?!」
「嘘でしょ?!」

私は賑やかでも華やかでもないよ?!
なんて慌てる静玖は、今日、とても華やかに着飾られていることをわかっていないようだった。

「う、うーん。じゃあ、それもおいおいね」
「それも? 待って? それもってなに?」
「ほら、行こ………………静玖」
「うん? なあに?」
「今年もよろしく!」
「―――こちらこそ、宜しくね、綱吉!」

手を握りあったまま、参拝せずに俺たちを待っていてくれたみんなのところへと走るのだった。




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