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二日ぶりのご飯は、胃に負担をかけないようにと軽めのもの。
寝ていただけなので、京子ちゃんたちに作ってもらうのはとても心苦しいけれど、有り難いことなのできちんと礼をしてそれを頂くことにした。そして凪ちゃんはお風呂に行ってしまった。寂しい。
………………それにしても、

(まだいる……………)

ちらりと目の前に視線を向ける。
何が楽しいのか、頬杖付いて、にこにこ、ずっと笑顔のままのディーノさんがそこにいる。
まだいる、とはとても失礼なものだとはわかっているのだけれど、ついついそう思ってしまった。
もともと、目立つ人は苦手だ。ディーノさんみたくキラキラしいのは苦手なのだ。
それに、未来の私がこの人とどういう付き合いをしていたかわからないから、どう対応していいかわからない。

(綱吉が居てくれると楽なんだけれど)

何せ大元は綱吉の知り合い………えぇと、兄弟子、だっけ? とにかく親密度は絶対にあちらの方が上だろう。
だと言うのに、何故彼は、まだここにいるのか。
とはいえ、綱吉は今は修行中らしいので、何か負担を掛けるような真似は出来ないのも事実。夕飯時というか、修行の時間以外にまで師が傍にいるのはちょっと辛いだろう。うん、やっぱりわがままは言えないかな。

(でもなぁ)

それでも、ずぅっと見られながらの食事はやりにくいったらない。
ごちそうさまでした、と両手を揃えれば、ディーノさんからオソマツサマデシタ、と少し片言で返ってきた。
いや、これ用意したのディーノさんじゃないから。ディーノさんが言うべき台詞ではないから。
本当になんで、ディーノさん、こんなに私に構うのかな。
………もしかして、仲良し、なのかな。ディーノさんと。
『今』の私にそれを望まれても、困る。

「オメーら黙って見つめあって何してんだ?」
「うわっ」
「リボーン?!」

ぽこんっとテーブルの上にやって来たリボ先生は、私の顔とディーノさんの顔とを見てそう言った。
見つめあう? ディーノさんと? いや、そういうつもりはこれっぽっちもなかったのだけれど。
ふるふると首を振って否定する私の視界にちらりと映ったのは、口元を抑え、何故か頬を赤くしているディーノさんだった。
………? なにか、赤面するようなことでもあっただろうか。

「ふっ、甘っちょろいな、ディーノ」
「おいおい、いじめないでくれよ、リボーン」

困ったようなディーノさんの声に応えることなく、リボ先生が私の前までやってきた。
ついと手を伸ばして来たので私も手を伸ばそうとすれば、その手をスルーして顔の方に手が伸びてきた。
なんだろう。
思わずリボ先生に向けて首を伸ばす。
するりと撫でられたのは頬で、小さな手が宥めるように動いた。

「リボ先生?」
「悪いな」
「何がです?」
「わからねぇなら良いんだ」

すりすりと私の頬を撫でる手をそのままにしていると、突き刺すような視線を感じた。
ちらっと視線を向ければ、じとりと目を据わらせたディーノさんが目に入る。
そりゃあまぁ、ここには私とリボ先生、ディーノさんしかいないから視線を感じれば彼からの視線他ならないのどけれど。
なんか拗ねてる? なんだろう、わからん。

「静玖、いる?」

妙な空気の中、食堂のドアを開けたのは綱吉だった。
リボ先生に撫でられつつディーノさんに睨まれるという変な感じの私を見て、ぱちぱちと目を瞬かせた後、何も見なかったかのようににこりと笑って私の名を改めて呼んだ。
するりと離れていくリボ先生の手を無視して、どうしたの、と聞けば軽やかな足取りで私の傍らに来た。

「綱吉?」
「んー………………」

じぃい、と綱吉が私を見てくる。
その頃にはディーノさんの突き刺さるような視線はもう無くて、微笑ましいものを見るものに変わっている。
何だったんだろう、あの視線。
いや、それよりも。

「ん、うん」
「何?」
「いや、クロームが静玖の様子見てって言ってきたから来てみたけど、まだ大丈夫そうだなって」
「ん、」

綱吉がまだ、と言ったのが気になるけれど、そこは突っ込まない。
綱吉の方が私のことをよくわかってることが多々ある。綱吉がまだと言うなら私はまだ大丈夫な方なんだろう。

「一緒に寝る?」
「ツナ?!」
「寝る!」
「静玖?!」
「おいおいお前ら………」

慌てたようなディーノさんの声と、呆れたようなリボ先生の声。
それらが聞こえたところで、判断は変わらないのだけれど。

「ツナ、それで静玖は『大丈夫』になるのか」
「それはわかんないけど、多分?」
「多分って………」

リボ先生はそれはそれは深ぁいため息を吐いて綱吉を見て、ディーノさんは何故か頭を抱えてぼそぼそと何か言っていた。むぅ、聞こえない。

「そこは自信持って言わねぇと男として廃るゾ?」
「男としてどうこうじゃないから」

リボ先生にそう言った綱吉は私に視線を向け直して、

「後でこっちに来てね」

とだけ言って部屋を出て行った。

要注意人物はツナじゃねぇか、なんてディーノさんの呟きは聞こえなかったことにした。



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