負けない!

今日は、凪ちゃんが泊まりに来る日。
凪ちゃんは普段、麦チョコが主食らしいから、今日はまともにご飯を食べてもらおうと、一緒にスーパーマーケットへ。
まだまだ教えてもらっているところだからそんなに凝った料理は作れないけれど、まぁ、簡単なものなら、ね。
そんなわけで、嵐ちゃんや子霧、雷には家を空けてもらった。
凪ちゃんの性格を考えると、みんなが居ると委縮しちゃうから。
幸い私は、凪ちゃんに好かれているみたいだし、私も凪ちゃんを好いてるし、それなら二人で、と思って。
千種さん達には嵐ちゃんにお弁当を届けてくれるよう頼んである。
1日お嬢さんをお借りするから、なんて言ったら物凄く微妙な顔をされたんだよね、千種さんに。
う、でも、でもねぇ。

「静玖ちゃん?」
「あ、うん。何かな、凪ちゃん」

カートを押しながらうんうん唸っていたら、凪ちゃんが首を傾げながら私の名を呼んできた。
あぁ、ちょっと気持ち悪かったよね。
いけない、いけない。気をつけないと。

「あの、」
「なあに、凪ちゃん」
「どうして静玖ちゃんは、私にそんなに優しいの?」
「………あぁ、うん。えぇと、」

ぽりぽりと頬をかいて足を止める。
私に倣って足を止めた凪ちゃんの、私よりほんの少し低いその視線を受け止めた。

「特別、凪ちゃんに優しくしようとか、そうやって気を付けて何かしてるわけじゃないよ」
「………、」
「私がしたいから、してるだけ。それで凪ちゃんが何か感じてくれるなら、私には有り難いことなだけだよ」
「………うん」
「だから今日はね、凪ちゃんに美味しいものを食べさせてあげたらな、っていう、私のワガママなんだ」

凪ちゃんには、ちゃんと説明しよう。
友達として、遠慮しないでほしいから。

「静玖ちゃんは、私にとって、『特別』なの」
「………?」
「『凪』で見付けた、『特別』なの」

ふんわりと、幸せそうに笑う凪ちゃんに、私も一緒になって笑った。

「さぁ、今日の夕飯は何にしようか。あ、難しいのは作れないから避けてね」
「………静玖ちゃん、私、」
「うん?」

オムライスが食べたい、と、消え入りそうな声で呟いた凪ちゃんに、私はうん、と頷き返した。




☆ ☆ ☆ ☆




卵を半熟に焼き上げようとして、ぴた、と手を止めた。
あぁ、そうだ。人によっては半熟嫌いな人も居るんだよね。
ダイニングテーブルにちょん、と座って身体を固くしている凪ちゃんにキッチンから声を掛けると、凪ちゃんは慌てたように顔を上げて私に声を返してきた。
な、凪ちゃん、可愛い………!

「オムライスの卵、しっかり焼く? 半熟にする?」
「あ、え、」

あわあわと慌てる凪ちゃんを見ながら、しゃかしゃかとボールに入れた卵をかき混ぜる。
どっちにするのかなー。

「───僕は半熟が良いです、静玖さん」
「んっ?」
「半熟が良い、です」

凪ちゃんがふんわりと笑う。
だけどそれは『凪ちゃん』じゃない。
クフフ、と小さく笑った凪ちゃんは、ゆっくりと目を閉じてその姿を変える。
眼帯が姿を消して、赤い瞳を表した。

「骸くん」
「お久しぶりですね」
「う、うん。お久しぶりです。えと、凪ちゃんは………?」
「今は少し眠ってもらっています」

ついつい敬語になりながら、骸くんを見た。
黒曜中の制服を来たままの骸くんはうっすらと弧を描かせている。

「骸くんが食べてしまったら、凪ちゃんの夕飯は? 三人分作った方が良いですか?」
「そうですね。お願いしても?」
「大丈夫ですよ」

あれ、でも骸くんってどれぐらい食べるのかな。
綱吉を基準にしたら問題だよね。骸くん、綱吉よりずっと大きいし。
えっと、どうしようかな。
………まぁ、少し多目にすれば良いか。
そうして、長い間かき混ぜた卵を、油を入れて熱したフライパンにゆっくりと注いだ。




☆ ☆ ☆ ☆




出来上がったばかりのオムライスをつつくと、早く、と内から急かされる。
凪にしては本当に珍しいことなので、思わずくすりと笑ってしまった。
急に笑い出した僕を見て、静玖さんはきょと、と目を丸くして、それから首を傾げる。
絆されているな、と思いつつも、この『通常』に満足して笑みを浮かべた。
───そう、だから。
甘やかされる凪を見ていられなかった。
僕が、そう、この六道骸が、なんと煩わしい感情を抱いたのだろう。
凪に嫉妬、だなんて。
甘やかしてほしいわけではない。
凪と同じように、など、決して有り得ない。
ただ、

「静玖さん、質問なんですが」
「はい」
「今日、僕が親子丼食べたいって言ったら作ってくれますか?」
「え、足りませんか?」
「いえ、そうではなくて」

もし、例えば。
僕に肉体があって、今日のお泊まりが凪1人ではなかった場合、彼女は僕にも凪と同じ質問をしてくれただろうか。
そして僕のために、その腕を奮ってくれただろうか。
すべて、『例えば』の話だけれど。
そう言い繕えば、静玖さんはパチッと目を瞬かせてから、首を傾げる。

「え、骸くん、身体ないんですか? と、言うか、どういう意味で身体がないんです?」
「………そうでした。君にはそこからでしたねぇ」
「ちょ、なんで骸くん、そんなに呆れた声を出すんですか!」

思わずスプーンから手を離して頭を抱えた。
そうだ。彼女は『本当に知らない部分』を持っている。
僕と凪の関係を含め、僕の肉体がどうなっているかなんて、彼女は知らないのだ。

「まぁ、詳しくは置いておきましょう」

こくん、と彼女が頷いたのを見て、それで、と答えを促す。
静玖さんはぽりぽりと頬をかいて、えっと、と小さく呟いた。

「骸くんがどんな答えを望んでるかわからないんですけど、」
「はい」
「作っちゃう、かな」
「はい?」
「だから、作っちゃうんですってば。オムライスも親子丼も、材料は変わらないし、」

さほど手間じゃないですし、と言ってしまう静玖さんに声を上げて笑ってしまった。

「む、骸くん?」
「クフフ。ありがとうございます、静玖さん。───満足しました」
「???」

最後の一口を口に入れて、僕はゆっくりと能力(ちから)を解いた。




☆ ☆ ☆ ☆




「あ、」

からん、とスプーンがテーブルに落ちる。
そうして、帰ってきた私に、ふわりと静玖ちゃんが笑った。

「お帰り、凪ちゃん」
「………、た、」

からからと喉が乾く。
静玖ちゃんからしたら当たり前の言葉を、どうにも口に出来ない。
膝の上に置かれた手を握りしめる。
あぁ、どうしよう。
はくはくと口を動かして、それからきゅっと噛み締めた。
凪ちゃん、と今はもう骸様と静玖ちゃんだけが呼ぶそれを口にされる前に、私は意気込んで口を開ける。

「ただ、いま………」
「───うん、お帰り」

ふわふわと笑う静玖ちゃんはわかっていないのだ。
今の私がどれだけ幸せで、そう、これ以上の幸せなんてないと思っているぐらいなのに、静玖ちゃんは全く分かっていない。
私の名を呼んでくれるだけでも、充分なのに。

「静玖ちゃん」
「うん、なに? あ、オムライスすぐ食べる? ちゃんと取っといてあるよ」

骸様と一緒に食べないで居てくれたのは、私への優しさだと信じたい。

「どうしよう」
「凪ちゃん?」

欲張りになりそうなの、と呟いた私に、静玖ちゃんは相変わらず笑うだけだった。
想いもすべて、伝われば良いのに。
そう、私だって、

「骸様には負けない」

ぐっ、と改めて握り拳を今度はテーブルの上で作れば、静玖ちゃんはちょっとだけ首を傾げるのだった。












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『骸:買い物後、クロームにやきもち。主人公に甘える』・『凪ちゃんとほのぼのした所が好きです。』・『骸・クローム:ほのぼの』
一括させて頂きました。
ほの暗いのは気のせいではありませんよね、これ。ほのぼのがない。
でも霧組ってわりとこんなものかな、と思って書かせて頂きました。
しかし骸の「親子丼」はない。
あ、凪ちゃんのお泊まりの話はまた別口で書く予定ですので。
アンケ投票、ありがとうございました!



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