袖触れ合うも

※ 大学生ぐらい
※ 季節は無視でお願いします




「え、着付け?」
『うん、そう。静玖ちゃん、出来る?』
「出来なくはないけど、それ、正一くんの?」
『いや、僕の友人の。日本大好きなイタリア人が友人に居てね、是非とも浴衣で夏祭りに行きたいって』
「あー………、浴衣はそっちが準備してくれるのであれば大丈夫だよ?」
『本当?! 助かるよ、静玖ちゃん。僕、自分の着付けは出来ても他人のはちょっと………』
「私はその逆かな。他人を着付けること出来るけど、自分は無理」

電話の向こう、くすくすと正一くんが笑う。
相変わらず『他校』だけれど、正一くんとの友情は今もなお続いていた。
日本大好きなイタリア人、ねぇ。
まぁ、友人が困っているのなら手を差し伸べないと。
そんな安易な考えで私は今回のことを承諾したのだった。




☆ ☆ ☆ ☆




耳の辺りで髪が渦巻いているのを除けばわりかし普通のイタリア人だと思う。うん。
どこかきらきらと輝くその目は、正一くんの手元にある浴衣しか写していなかった。
「彼が僕の友人でスパナって言うんだ。まぁ、うん、普通のロボット工学好き、だよ」
「正一くんとの繋がりはそこなんだね」
「うん」

未だにスパナさんの視線が浴衣から外れない辺り、相当気になるんだろう。
スパナ、と正一くんに呼ばれて、ようやく浴衣から視線が外れた。
………う、さすが外人。背が高い。

「今日着付けをしてくれる柚木静玖ちゃん」
「よろしく」
「ん」

こくん、と頭が上下に動く。
さて、と、

「とりあえずどこまで脱ぎます? Tシャツ着たままで浴衣着か、それとも下着の上に着るか………」
「正一は?」
「僕はもう慣れてるから下着かな」
「じゃあウチも」

と、言って服に手を掛ける。
私はそんなスパナさんから視線を外して正一くんの手の内にある浴衣を手に取った。
うーん、裾足りるかな。まぁ、今の浴衣は外人も着れるよう所謂規格外もあるけれど。

「じゃあ、僕も着替えてくるね。………スパナ、静玖ちゃんに迷惑掛けるなよ」
「あぁ」

そう言って正一くんは別室に行ったけれど、スパナさんに何一つ迷惑も面倒も掛けられることなく彼を着付けることが出来た。
寸足らずにならなかったから、大きいのを買ってきたんだろう。
うーん、正一くんは心配性なのかな。

「日本(ジャッポーネ)はいい」
「え?」
「ロボット工学が進んでいるし、漢字もカタカナもクールだ。緑茶の香りも神秘的」
「はぁ」

相変わらずきらきらとその目は輝いている。………無表情にも見えるけれど。
そんな彼が、すっと私に手を伸ばしてきた。

「名前の漢字は、どう書くんだ?」
「え? あぁ、私の名前は」

スパナさんの大きな掌に自身の名を書き記す。
静玖、と初めてゆっくりと、そう刻むように名前を口にした。

「綺麗」
「っ、」
「綺麗で、美しい名だ」

ただ指で書いただけだから本当に書いてあるわけではないのに、掌を持ち上げてまじまじと眺めるものだから本当に恥ずかしい。

「今度、」
「?」
「今度また、ウチと会ってほしい」
「………あ、はい」

良いですよ、と返せばスパナさんは嬉しそうに口端を吊り上げた。
………後日、着付けのお礼にミニモスカを貰ったことは2人だけのヒミツだ。












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『正一繋がりで知り合い、何故か気に入られ仲良しに』・『ほのぼの』
今回まとめさせて頂きました。
主人公が着付け出来るのは子雨の影響です。
ジャッポネーゼが好きだ、はあえて省いてみましたがどうでしょうか。
アンケ投票、ありがとうございました!



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