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クリスマス当日
久実にクリスマスパーティー誘われたけど断ってしまった。
何せ今日は千隼くんと出かけるから…
あのときのお店での出来事(キス)を思い出すと顔が赤くなる。ふつうに千隼くんと会話できるのかな…
「おい。…真希」
『ち…千隼くん!お早う!』
「悪い、待たせて。」
『え?待ってない、よね?』
時計をみると少しだけ待合せ時間がすぎていた。
『気がつかなかった…』
「…ははっ。行くぞ。」
千隼くんは笑って歩きだした。よかった。ふつうに出来てる。
小鳩さんにもらったブッフェは本当に美味しくて幸せな時間だった。
「さて、どうする?」
『えーと、千隼くん今日まだ時間ある?』
「予定はないけど。」
『じゃあ、来て欲しいところあるんだ!少し遠出するけど大丈夫?』
「あぁ」
『じゃあ、いこ!』
駅に向い電車で揺られついた場所はなにもない駅だった。
「この駅。」
『千隼くん“∞2”が好きって言ってくれてたからアトリエ見せたかったんだ。前にここにあるって話ちらっとしたの覚えてるかな?』
「覚えてる。いいの?見て。」
『うん!祖父も喜んでたし、是非って。』
見せる許可は前々からもらってたし、今日行くねと言うのも一応朝伝えてあった。
アトリエにつくと祖父が出迎えてくれた。千隼くんは緊張してるみたいだったけど、会話するにつれ、くだけてきたみたいでよかった。
お茶を入れるついでに用意してた千隼くんのクリスマスプレゼントを取りにいった。
白のトータルネックニットに黒のスキニーパンツ、あとはブラウンのチェスターコート
全部“∞2”で揃えたけど、気に入ってくれるといいな。
外も暗くなり帰る用意をしていると祖父に外は寒いからと暖かそうなふわふわのストールをもらった。また来なさいと言われると千隼くんもお辞儀して「はい」と答えてくれていた。
海辺を千隼くんと歩く。
思い返しても素敵なクリスマスだった。
だからか、なんだか寂しくもなった。
『今日はありがとうね。付き合ってくれて。』
「俺こそ。連れて来てくれてありがとうな。」
『あのね、』
「あっ…」
『え?』
千隼くんは海の方をみて声をあげた。
「クマ女…」
千隼くんが見ている先には久実がうずくまっていた。ソレをみる表情は切ない。
私が今出来ることは、笑顔で送り出すこと。
精一杯の笑顔を浮かべ千隼くんを呼んだ。
『千隼くん…メリークリスマス!私からお礼と感謝のプレゼント。帰ってから渡そうと思ってたけど…今貰って。』
「え?」
『あと…私、千隼くんが好き。好きだからこそわかってる。だから、行って。久実のとこ。』
「真希…」
『行って。』
「わかった。プレゼントありがとう。」
千隼くんは袋を受けとると久実の方へ走り出した。
私ちゃんと笑えてましたか?
『ばいばい。千隼くん。』
瞳から落ちる涙を拭いもせず駅まで歩いた。