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真っ白な空を見上げれば頭の中は段々と透明になって、更にその静寂は心をも澄ましていく。誰にも見つからない所で、つまりは自分だけの領域で僕はただ空を見上げた。ー個々は学校の屋上、更にそこの入り口部分に当たる所の真上にいる。つまり一番高い位置に、だ。

普段真面目な僕は偶にこんな行動をとったりもする。ーこの空間が好きだ、“なにも考えなくて良い”から。

昼休みのチャイムが鳴れば屋上に誰かがやってきたようでーきっとお昼ご飯を食べに来たのだろうー、先ほどまでの空間が急に変化する。この、相手は自分が此処に居ると知らなくて、相手は気を許した人に本心を話すような空間。ー僕には良い意味でも、はたまた皮肉的な意味でもこれが好きだった。

「――英智くんってさ、」

突如自分の名前が呼ばれればさっきまでの好き、が歪む。自分が関わればこんなにも人は弱いのかと実感させられる。ーというのも今まで聞いた僕のことは碌なことは無かったから。

「葎と仲良いよねー」

また、関係のある名前。それを聞いた途端更に息を潜める。

「え?そうかな?」

と、同時に聞き慣れた、あまりにも間抜けな声がした。さっきまでの緊張感返せ。

「ねっ、そう思う?ひーくん?」
―呼ぶなその呼び方で。というかバラすなとは言わないが、普通に話しかけてくるな。

「知らないよ。」

しかし声をかけられたからには返事をするのが例と言うものでありだな………

「英智くん居たの?気がつかなかった。ーなんで葎は気がついたの?」
「んー、感かな?!」

―嘘をつけ、お前にだけは言ってあるんだよ。ここが僕のお気に入りの場所だって。けど敢えて言わないよな、まぁそういうやつだからこそー。何を考えてるんだ僕は、一気に思考が生まれたじゃないか。

「さすがだね、じゃあ私たちはこれで。」

葎の友達は多い、会う度に人が違う。

「ね、私もそっちに言って良いかな?」
「来れるのかよ、その運動神経で。」
「酷いっ、お話があるのにっ。」

話?なんだこいつ。そんなに改まって。

「あのね、」

―結局あがって来ないんかい。

「『泣いても良いんだよ』って、言いたい。」
「―は?」

―何が、とか、誰に、とか言う前に葎は続ける。

「でもね、言えないの。“泣いても良いんだよ”って言葉と、“泣かないで”って言葉あるじゃん?二つともなんだか優しい言葉に聞こえるけど、それじゃあ理由は?泣かないでって言ってることは、相手が泣いてるからで、泣いても良いんだよって言うってことは相手が泣きたいからでしょ?それじゃあ矛盾が起きちゃうよね?」

見えない角度で―しかし腕組をしたのはわかる―うーんと唸る葎。またくだらないことで悩んでいるな、こいつは。

「そんなの他人が関与することじゃ無いんじゃないの、泣きたきゃ泣けばいいし、笑いたきゃ笑えばいい。」

僕が他人事のように言うと、いつの間にかよじり上ってきた相手が顔をのぞき込んでいた。

「そんな単純なことが出来たら、優しい言葉は、ましてや泣くなんて事無いよひーくん。」

憂いを帯びたその顔は、何かを僕に訴えかけていた。

優しい言葉のアンティノミー

(―その言葉の向けられた相手を認められるほど)
(―僕は単純に出来ていない。)

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釘を刺せない少女と、本心に目を向けられない少年と。


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