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喜ぶ、怒る、泣く、笑う。
―こんな喜怒哀楽がはっきりとした彼女を、誰が飄々としているなんて思うだろうか。

「もう帰っちゃうの?寂しいなぁ。」

その言葉の裏に、何かが隠されているとはだれも思わずに。

「また遊びに来てねぇ?」

彼女はまた、笑顔を生みだしている。

騒々しさが抜けた部屋、そこには先ほどまでの笑顔からは想像できないような、真剣な面立ちの少女が一人。彼女は白桐刹、掃除屋の一人だ。何をするというわけでもなく部屋の真ん中辺りに佇んで居る。暫く何かを考えていたようだが急に顔を両手で叩いて、掃除をし始めた。これは彼女の仕事の一環。遺された財産である家を綺麗に保ち続けることが彼女に依頼されたものだった。真剣な面立ちは無くなり柔らかな表情で手際よく大きな家全体を綺麗にしていく。それが終わるころには日はすっかり暮れてしまい、電気をつけるのも忘れて掃除をしていた彼女の目は暗順応していた。

小さいころから家に一人育った彼女、一年間の自由を知る旅は幕を閉じ、守られた命を義務的に生かしているようにも見える。同世代の友達にも囲まれたことはない。人と一緒に居ても大きな衝突も無い、相手が怒りそうなことは避けて、避けて、避け続けた。結果彼女に残ったのは空虚そのものでしか無かったのか。本当は触れ合えてないかもしれない、そのような相手に寂しいと思えない、それが彼女には寂しかったのだと、気がつく人は――

急に明りがつき、少女は驚いた。

「――明りをつけて掃除しないと駄目ですよ、刹っちゃん。」
「なんだぁ、ナツメだったのぉ?」

とっさに笑顔を取り繕うと、急に表れた橙色の髪の青年は、微笑を浮かべて

「驚かせてしまってすみません。でも刹っちゃんが呼んだのですよ?」
「――えぇ?」

呼びだした覚えが無い、という表情を見せる彼女に、呼ばれましたよ?とでも言いたげに驚くナツメという青年。暫くの沈黙が続いたあと

「――あれ、確かに聴こえたような気がするんですけど……?」
「え?何が聴こえたのぉ?」
「だから、刹っちゃんが俺の名前を呼んだ声が―」

まるで自意識過剰な発言、しかし超人的な能力をもった彼には実際成せる技だったのかもしれない、実際それは真実だった。少女は先ほどの掃除の最中に、自然と彼の名をつぶやいていたのだ。

少女は嬉しいのか、驚いているのか、はたまた珍しく恥ずかしいような顔をして

「うん、来てくれてありがとうねぇ?すぐにお茶を入れるねぇ?」

キッチンへぱたぱたと急ぎ足で向かった。彼は本当に呼んだのかどうかわからないまま、ありがとうございますと一例をした。


表裏一体一喜一憂

唯一本当の自分を向けられる相手。
彼女が本心と向き合える日は、そう遠くも無いかもしれない。

「ナツメぇ、今日だけ泊ってってぇ?」
「えっ。」

―――――――――――――――――――
哉宅のナツメ借りました。
おい、刹。


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