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私は生まれもって魔女だった。記憶のあるうちから人間でいう外見年齢18歳前後ぐらいで、育ったという過程の記憶が存在しなかった。

魔女という存在は人間の恐怖から生まれるらしく、私が住んでいる森の近くの村に住む人間達が私を恐れることによって私は成立している。

このことは森にすむ妖精に聞いた。それ以降私は魔女(私)で在るために、一年に一回、村に人間に化けて噂を流しに行くようになった。

森には怖い魔女がいる
会ったら喰われてしまう
気に入られたら仲間にされ、人間としての記憶は無くなってしまう

標的(ターゲット)は子供ばかりにした。子供は影響を受けやすいからだ。
あまりにも簡単に引っかかってくれるものだからこちらもやり易かった。だから、だからこそ。


――寂しかった。

誰も入ってこない孤独の森の奥深く。妖精たちは普段干渉してこないし、私は記憶のある限り、30年の間ずっと独りだった。

だがこの期間だけは違った。脅かしに行くという目的ではあるが少なくとも人間に会えるからだ。話をすれば怖がって逃げていくのだけど。

さて、今年も行くとするか。そう思い森の入り口付近に向かっていると、何やら小さな人影が見えた。

「お姉さん、お姉さんが魔女ですか?」

唐突な状況に声を失う。なぜここに人間が?なぜこの子は私を魔女だと?それを知っていて、なぜ―――

「お前、私が怖くないのか。」
「怖くないよ?」
「―――どうして、」
「だって噂は噂、俺、この目で確かめないと人の話って信じられないんだよね〜。」

驚いた。かつて感情がここまで動いたことはあっただろうか。長年の間で積もった孤独感はあったものの、今まで感じたことのない感情だった。

そう、私はこの状況を楽しんでいたのだった。もしかしたら、孤独という悩みが解決するかもしれない。しかしその期待はすぐに崩れた。

(何をしているの魔女さん)
(早くその人間を苦しめなさい)
(でないとあなたは、消えてしまいますよ)

――そんな。消えたくはない、消えたくないから今まで孤独だったのだから。妖精たちが私を誘導する。子供にこの声は聞こえていないようだった。

(早くその少年を、   ―――殺しなさい。)

どきり、と心臓が跳ねる。確かにこのように噂を信じないものが出てきてしまっているなら、“噂”を“本当”にしなければならない。この少年を殺して村の入り口にでも飾ろうものなら、10年はいちいち噂を流しに行かなくてももつだろう。――しかし。

「でき、ない……」

ぽつりと呟いたその言葉の通り、私にはそんなこと、出来なかった。
そう、噂は噂だったのだ。私になにか出来る力があるわけでもなければ、人を殺すなんてこと、出来るはずもなかった。――その時だった。

(なら、私たちが殺してあげる。)

普段干渉してこない癖に、この時期になるとやたらと干渉してくる。私が消えてしまわない様にと。――そうだ、何故彼らは私をそんなに気にかけるのだろうか。――でも、それでも。例え私が消えてしまおうとも。初めてここを訪ねてきてくれた少年を、ここで死なせたくはなかった。

「やめろ!妖精たち!」

渾身の力でそう叫んだとき、私の中で何かがはじけた音がした。





辺りを見渡せばそこは年に一度私が訪れていたあの村で。周りには沢山の子供が居た。――私は沢山の子供たちと共に笑って遊んで居た。しかしそのあとに、森に――此処に遊びに行こうと私は言いだした。――これは、私の記憶?

子供たちも頷いて、皆森に辿り着く。そこでかくれんぼを始めた。――しかし、隠れたまま私は見つかることなく、先に家に帰ったのかと勘違いをされてその場に残った。そこに聞き覚えのある声が話しかけてきた。

(こんなところに良い獲物が。こいつを利用して私たちは長生きできる……)

当時の私の頭によぎる森の噂。それは今の私に対する噂そのもので。そう、魔女は、いや、森に住む魔物は―――彼ら精霊だったのだ。





意識が現在に引き戻される。全てが分かった今、やることはたった一つ。

私は少年の手を取って、村へと走り出した。



――魔女が消えた日

そうして彼らの噂もうすれていき、今あの孤独の森は、孤独では無くなっていた。

(もう、一人じゃないよ。)



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