――これは、ずっと、そう、ずっと昔の話だけど。
ただ一緒に居ることが当たり前で、お互いなんとなく気が合う気がした。彼女は敏感な故にいつも何かで頭を悩ましていた。そこまで敏感でもなんでもないごく普通の僕にとっては、なんでそんなことで、他人のことで悩むのかわからなかった。
「昴は、恋ってしたことある?」
彼女が持ってくる悩み事は基本友達関係だったり、恋愛関係だったり。恋愛の方は本人ではなく彼女の友達がしているみたいで、相談相手になっているらしいけど。そんな彼女の口から投げつけられた疑問に咄嗟に対応できなかった僕に、相手は「――あはは、戸惑ってる」と余裕の笑みを返してきた。
「したこと無いんだね。うん、まぁ普通か。」 「私はね、わかんないんだ。いつも他人の事には敏感な癖に、自分の事になるとどーもね。」 「でもね、それって普通だよね?」
全て彼女のターン。僕に順番を回す気も無いマシンガントークが始まった。これもいつものことだった。その後自分のクラスをみていてわかったことをスラスラと話していく、まるで決めつけるかのようにやれあそこの二人はもう終わっているとか、誰と誰が仲悪くなった原因はああだとか。勿論、最後に多分をつけて濁してはいるけれど、彼女は何か確信を持った口振りで話すから、ある意味聞いてるこっちもそこまで気持ち悪くなく聞くことが出来た。そして彼女の言うことの真実を確かめるのは僕の役目。別に約束してたわけではないけれど、ただ、これもなんとなく。
――数日後。
「確かに合ってたね。まぁ僕は興味ないけれど。」 「興味無ければ調べたりしないんじゃない?」 「これは性格的なもので中途半端は嫌いなんだよ。」 「変わらないねぇ、アンタも。」
その事柄に興味があるんじゃない。彼女の言うことがどこまで合っているのか、そっちに興味があっただけ。そんなこと言うわけないけれど。
そんな他愛もない会話の中にそれは突然やってきた。
「私ね、好きな人が出来たの。」 「それでね、告白したら付き合ってくれるって。」
あまりにも自然に彼女の口から発せられたから、そちらを見るわけでもなく「そう、良かったじゃん。」と祝福の言葉を返した。正直それは本心ではないけれど。
「あのさ、アンタ――いや、昴。」
アンタで別に良いのに、急に改まって何。真剣な目でこっち見て、何、何なの。
「私のこと、好きだったでしょ?」
直球な質問に、頭が沸騰しそうになる。恥ずかしいとか、悔しいとか、多分そんな感情が混ざって。でもそれは決して顔に出ることはなく、そっちをみることなく僕は言い放った。
「嫌いではないけれど。」
恋愛感情的な意味で。彼女はそう言いたかったのだと、さすがの僕にだってわかっていた。けどそれを認めるのはあまりにも怖かった。
「―――そ、あのさ。」 「私は好きだったよ。―――もちろん、友情的な意味で。」 「これからも、ずっと。」 「だけど、今までみたいに一緒にはいれなくなる。」 「――だから今日はさよならを、言いに来たのよ。」
ここは屋上で、僕ら以外誰も居なくて、寝っ転がって居た僕は彼女に背を向けるようにして。
「そう、さようなら。」
ただそれだけを言って、もうそれから彼女に会って居ない。その場から去る彼女は何度か振り返っては何か言いたげにしていたようだけど、背中越しにそう感じることができたけど。結局いつものストレートな発言が出てくること無く消えていった。
見透かすようなその瞳が
(――大っきらいだったよ、なんて)
昴の初恋のお話。認めることは結局できなかったんだろうね。ちなみにお相手は巳鐘のお姉さん。
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