※リク09::ジョルノ/女主/ギャングになってもボスになっても変わらない友情
※冒頭でミスタがモブ子と絡む
※夢主に婚約者(名前のみのモブ)がいる
※政治経済の細かいことを気にしてはいけない
※一万リラ=600円くらいだと思ってください
※冒頭でミスタがモブ子と絡む
※夢主に婚約者(名前のみのモブ)がいる
※政治経済の細かいことを気にしてはいけない
※一万リラ=600円くらいだと思ってください
「ああーッ!ミスタ!それ!」
それはミスタが十七のときのことである。地元のカッフェでナンパした女学生の部屋へ行き、思う存分楽しんだあとでふと枕元にぽつんと置かれた飴玉が目についた。小腹も空いてきたしと何の気なしに口へ放り込み、包み紙の方は丸めて部屋の隅のゴミ箱へシュート!したところでバスルームから帰ってきた彼女が血相を変えてそう叫んだのだ。
「ダメよダメ!ああ!信じられない!」
「えっ……そんなに大事な飴だった?マジ?ゴメンな〜〜なんなら口移しで返そうか?」
そう軽口を叩きながら唇を寄せようとしたミスタの頭を、女学生はべしんと叩いて素っ気無くゴミ箱へ直行する。
「飴はあげるわよ。包み紙が大事なの!」
「包み紙?なんで?」
「ほら!ナンバー印刷してあるでしょ」
ゴミ箱から救出した包み紙を、彼女がミスタの眼前へ広げる。ミスタはそれをまじまじと眺めてみたが、どうにも彼女の言う“ナンバー”というのは見つけられなかった。あるのはリボンとか靴とか果物とか、そういうシルエットが一列に並んだ女の子女の子しい模様だけだ。
「だからそれが“ナンバー”なの。私のはりんご、リボン、ハイヒール、貝殻、そしてハートね。一つ一つ模様の種類と並びが違うのよ」
「で、それが?」
「くじなの。宝くじと一緒。違うのはチケットがこの飴の包み紙だってことと、賞金の代わりに人気のブティックで百二十万リラも買い物できるってこと!」
「へえ」
「百二十万リラよ!新しいパンプスとワンピースと、それにバッグも買えるわ!ストッキングとストールも!」
反応の薄いミスタに対し彼女は黄色い声で捲くし立てるが、やはりミスタからしたら普通に宝くじでも買ったらいいじゃあないかといったところだ。女の子というのはどうにも分からない。
「あ、ちなみにこの飴一つ一万リラなの。お金返して」
「ハア!?普通の飴だぞ!?せいぜい五百リラってとこだろ!?」
「チケット代わりだもの。飴の原価じゃあないわ」
「ならその包み紙が九千リラで、この飴自体は千リラってとこじゃあねえの?」
つべこべ言わないでお金ちょうだいよと手を差し出す彼女に、ミスタは渋々床に脱ぎ捨てたズボンからくしゃくしゃの一万リラ紙幣を取り出す。ぼったくるために嘘でもついてんじゃあねえだろうなとは思ったものの、後でブチャラティから聞いたところによると確かにそういう宝くじのようなものは存在するようで、女学生を中心に人気を博しているとのことだった。しかし賞金代わりのブティック買い物権など男のミスタには何の興味もないわけで、その女学生に振られるころには一万リラもする飴のことなどすっかり忘れ去っていたのだった。
それをなぜ今思い出したかというと、かれこれ三十分は待たされて暇そうにしている客人の女の子が高そうなブランド物のバッグから取り出した飴が、その件の飴だったからである。
部下に耳打ちされてもう十分は待ってもらうことになりそうだとミスタが伝えると、少女は涼やかな表情のまま「そう」と答えてその包み紙をかさかさ開き、淡い桃色の飴玉をぽいと口に放り込んだ。ミスタはそれを一部始終じろじろ見ていたわけだが、その不躾な視線にも少女は「なにか?」とだけ言って柔らかな微笑を返した。
「あーいや……その飴が……前見たことあるなあと思って。宝くじみたいになってるやつだろ?」
「そうよ。よくご存知ね」
「あんたは……下町のブティックで買い物したいってタイプには見えねーけど……」
なにしろバッグは誰もが知っているあのハイブランドのものである。鎖骨で輝くネックレスには大きめのダイヤがついているように見えるし、ピアスもネックレスと揃いで買っているのだろう。服だってとても高校生くらいの少女が買うようなものには見えない。とどのつまりは全体的にかなりのお嬢様という雰囲気を醸し出していて、件の飴玉の安っぽさが妙に浮いているのだ。まあ、一万リラの飴玉だということを考えればそこそこ釣り合いが取れているのかもしれなかったが。
少女が「そうかしら」と笑ってミスタの問いをはぐらかすと、さっきの部下がまた戻ってきてこちらへどうぞと扉を開ける。やけに早いなと零すと予定を切り上げられたようですとの答えが返ってきて、ミスタは目を白黒させながら立ち上がり、客人を執務室まで案内し始めた。
ジョルノがボスの座を前任者から奪い取って半年あまり。年端もいかない子供がトップに立ったことに懐疑的だった幹部たちを納得させ、それでも納得しなかった奴らの起こした内乱を鎮め、役員を新生パッショーネに相応しい人材に入れ替え。あまりにも目まぐるしい日々だった。最近になってやっと一息つけるようにはなったものの、ジョルノ自身はまだ休暇という休暇も取らず毎日毎日仕事漬けのままだ。
そんなジョルノが予定を切り上げたというのだから驚くしかない。それもアポイントメントの一つもなく突然現れた少女のためにだ。全く信じられない出来事である。
一体この少女は誰なのだろう?ジョルノと同じくらいの年頃だろうから、元同級生だろうか?真っ赤な絨毯の敷かれた廊下を歩きながら、三歩後ろについてくる少女にそれとなく意識を向ける。しかし全く分からない。同級生が職場まで来るなんてことはないだろうし、敵対マフィアの重鎮にも見えない。となると誰なのだろう?
もしかしてジョルノのコレかあ?なんて思ったりもしたのだが。
「久しぶりね。ジョルノ」
「ああ、久しぶり。会えて嬉しいよ、ナマエ」
「あらそう。私は全然嬉しくないけど」
執務室の扉を閉めていたミスタは思わず振り返って二人を見た。二度見した。“私は全然嬉しくないけど”と、今そんな声が聞こえた気がしたのだ。しかしナマエと呼ばれた少女はうふふと柔和に笑い、対するジョルノも「そうでしょう」と言って朗らかに微笑を返している。何かを聞き間違えたのだろう。そう自分を納得させようとしたものの、続くジョルノの言葉にミスタはまた振り向いて二人を見ることになった。三度見である。
「なら帰ったら?散々待たされて分かったと思うけど、僕は忙しいんだ。なにせこれだけ大きな組織のボスだ、やることが多くってね。正直君に会ってる時間なんてないんだ」
「へえ、こんな腐った組織のボスでも一応やることがあるのね。豚小屋の掃除とかかしら?ところであんた、まさかわざと待たせたんじゃあないでしょうね?」
「まさか!まったく君は厳しいね、何の連絡もなしにやってきた非常識な女のために必死になって時間を作ってやったっていうのに……」
「あらァ〜〜ごめんなさいねえ、客間の一つもないしみったれた組織のボスがそんなにお忙しいだなんて知らなかったんだものォ」
一歩間違えれば暴言になるくらいの……というかもうほとんど暴言の、あからさますぎる嫌味の応酬が目の前で繰り広げられる。どうやら恋人ではなかったようだ。そしてただの同級生にも見えない。じゃあ何だっていうのだこのシニョリーナは!
気にはなるもののここで突っ込んだら嫌味の流れ弾を食らうことになるのは確実である。賢くてハンサムなグイード・ミスタはただ戦況を見守ることにした。あまりに流暢かつ和やかに交わされる口喧嘩に割って入る勇気がなかったとも言う。
「客間くらいありますよ。でも君にはこの椅子を見せたくてね。どうです?広い執務室に、この大きな椅子。見るからにボスって感じでしょう。形から入るのも嫌いじゃあないんだ、僕は……それにこの、ボスの座ってのは実に座り心地がいい!座ってみたいですか?だめですよ。だってこれボスの座ですから」
「あら……ジョルノ・ジョバァーナくんはそんなボロっちい椅子でも満足なのね。幸せそうで羨ましいわあ!育ちが悪いとそんな趣味の悪い安物でも王座みたいに見えてくるのかしら?」
「いやいや。没落した弱小マフィアのご令嬢ほどではありませんよ」
まさに一触即発。二人とも不気味なほどニコニコしたまま、暫しの沈黙が降りる。居心地の悪くなったミスタがごくりと唾を飲み込んだのとほとんど同時に、ナマエが笑顔をすっと消して静かにソファへ腰を下ろした。
「……いいわ。ここまでにしましょう。ちゃんと話があって来たんだもの」
「ええ、いいですよ。何の話です?」
勝った、と言わんばかりの満足げな笑みを見せたジョルノを見てナマエは一瞬口元をひくつかせたものの、ごほんと咳払いをして真面目な口調で話し始める。
「あなた、来年の総選挙で麻薬取締り推進派の議員を当選させようとしてるでしょう」
「……どこで聞いたんです?」
「どこでも。別に隠してたわけでもないでしょ?」
まあそうですけど、と言ってジョルノが肩をすくめる。一方でミスタはさっきと違う意味で目を見開いていた。確かに秘密裏の計画というわけではなかったが、対抗勢力へ圧力をかけたり推進派の議員へ“お願い”したりと、それなりの方法で手を回していることなのだ。表立って宣伝しているわけではないし、ましてや一介の女学生が小耳に挟むようなことでは決してない。
ミスタの訝しげな視線に気づいていないのか、それとも気づいていながら無視しているのか。ナマエは淡々と続ける。
「忠告しに来たのよ。この半年間パッショーネがやってきたことは基本的にネアポリス近郊のことだったから何も言わなかったけど、これは違う。国会なんかでやられたらうちにも余波が来るわ。ネアポリスでは勝手にやればいいわよ、あんたのシマだもの。でもこれはダメ。カラブリアには手出ししないで。いい?」
「……それは、個人的なお願いですか?」
「取り引きしたっていいわよ。組織として」
「……あ、あのー、ジョルノさん?ちょおおっといい?」
じっと睨み合っていた二人の鋭い視線がパッとミスタに向けられる。「このお嬢さん、どなた?」
「ちょっと、なによこの人失礼ねいきなり割って入って。自分が無教養なんだからせめて部下の教育くらいしっかりしなさいよ」
「すみませんねえ僕ギャングのボスの座についたばかりなのでまだ慣れなくって」
“ボスの座”をいやに強調して言ったジョルノの前で、ナマエは心底悔しそうにギリギリと歯を噛み締める。可愛らしい顔が見事なまでに台無しだ。
「ミスタ、紹介します。こちらは僕の同級生のナマエ」
「そうよ。もういい?話の続きをしたいんだけど」
「いやいやいやいやどう考えても久しぶりに会った同級生の会話じゃあなかっただろ!?」
「同級生の会話よ」
「同級生の会話ですよ」
「うそつけェ!」
「やっだ大声出さないでよ。はしたないわねあなた」
わざとらしく耳を手で塞いでナマエが顔を顰めてみせる。それでもまだミスタが「だって!」と食い下がると、ナマエはふうーっと長いため息をついて諦めたように口火を切った。
「……私はカラブリアを拠点にするギャングのボスの息子の婚約者なの。つまり未来の頭領の未来の妻ってこと」
「み、未来の妻が敵対ギャングのボスと取り引き?マジに?妻がァ?」
「なに?女だから引っ込んでろとでも言いたいわけ?随分と時代錯誤の価値観ね。脳みそが六十年代で止まってるんじゃあないの?今は男女平等の時代だし、それに男どもはあてにならないって世界史の授業で学んだの」
世界史の授業!その単語が妙に場違いでミスタは思わず笑いそうになってしまったが、つんけんしたナマエの態度とこの真剣な場の雰囲気に咎められて寸でのところで笑い出すのを堪えた。しかしよくよく考えればナマエはジョルノと同級生、ということはせいぜい十五か十六歳といったところなのだから世界史の授業を受けていてもなんら不自然でない。それでもついさっきまでしていた大人びた話とのギャップがどうにも微笑ましく思えてしまい、ンンッと咳払いをしてミスタは含み笑いを誤魔化す。
「それで、あー……どうしてうちのボスのやることにいちゃもんつけるんだ?もしかしてあんた、麻薬で稼いじゃってるクチ?」
「はあ?やらないわよそんなこと。お金にならないわ」
「……?麻薬が一番儲かるだろ?」
「一時的にはね。でもラリった奴から搾取し続けたって天井見えてるもの。まともな人間を馬車馬みたいに働かせた方がよっぽどお金になるってもんでしょ」
毛先を指でくるくる弄びながら、ナマエはつまらなそうにそう言い切った。あまりに現実的、そして正論ながらも突き放すような冷たさを持った意見にミスタは呆気に取られて「ああ、はい……」と曖昧な相槌を打つ。
「もういい?もういいわよね。ジョルノ、話の続きよ」
「取り引きの話?さっきも言ったけど、うちと取り引きができるほどの持ち合わせがそっちにあるとは思えない」
「……あのね、あんたの麻薬撲滅っていう学級目標には私も賛成してるの。けど何事にも順序ってもんがあるでしょ。スパッと麻薬を断たれたら中毒者はどうする?海外のバイヤーに群がるわ。現にネアポリスもかなり余所の薬が流れてるって話じゃあないの。それなら取り締まらない方が国内にお金が落ちるだけマシよ」
「新規の購入者の増加は完全に抑えました」
「それは分かってるわよ。私が言いたいのは、あんたにあんたの計画があるように、私には私の計画があるってこと。他はどうでもいいけどカラブリアではやめて。いいでしょ、どうせあんたのシマは他にもたくさんあるんだし……なんだったら約束してもいいわ。今見逃してくれたら五年後にはヤク中を三分の一に減らしてみせるって」
「それが取り引きの内容?」
「そうね」
二人の冷たい瞳が互いを覗き込む。瞬きもせずに見つめ合って、何かを通わせているように見えた。
「……いいよ。君にできるんならね」
「で!き!る!わ!よ!あんたと違って!!」
その真剣な空気も束の間。再び執務室に始めのような空気が舞い戻ってきた。熱くなったナマエが一言一言にスタッカートをつけてそう言うと、ジョルノは手を組んで椅子をゆらゆらと左右に揺らしながら片側の眉を吊り上げる。
「僕と違って?僕は宣言通り、パッショーネのボスの座を勝ち取りましたけど、その僕と違ってってことは君にはできないってことかな?」
「なによいい気になって!あんたなんかねえ、うちのアレッサンドロがすぐに追い抜いてやるんだから!」
「アレッサンドロ?……アレッサンドロって、あのアレッサンドロ?あんたの婚約者ってあのこそ泥かよ!」
その名を聞いてミスタが思い浮かべたのは空き巣をやらかしてはその都度仲間に保釈金を積んでもらってすぐに刑務所から出てくるという小物中の小物だったわけで、そんなまさかとは思ったもののああん!?とでも唸りそうなナマエの形相を見てそれがアタリだったということを知った。あの空き巣がギャングのボスの息子だったということにもびっくりだが、今まであれだけ大口叩いておいて肝心の婚約者がそんな小物とは!
「うるっさいわよ贅肉!見てなさい今に名を上げてイタリア一の大物に押し上げてやるんだから!そこで赤ちゃんみたいに親指しゃぶってポカンとしてればいいわ!!」
「ぜ、贅肉!?」
「腹がたぷついてんのよォこの横ッ腹がァ!!」
パアン!とミスタの横腹を思い切りひっぱたくと、「じゃあねジョルノ!チャオ!」と怒鳴ってナマエはずかずか大股で執務室を去っていった。突然のビンタに悶絶するミスタを尻目に、ジョルノがとうとう堪えきれないと言った様子で笑い出す。それはもう気持ちのいい笑い方だ。高笑いと言ってもいい。
「見ました?あの悔しそうな顔!あーあ楽しかった!ミスタ、あなた最高です」
「お、おれは全然楽しくないんだけど……!」
「それは残念。ミスタ、彼女を正門まで送っていってください。タクシーも呼んで」
へいへい、と返事をしてミスタはナマエを追う。そんな丈の短い服なんて着てるからひっぱたかれるんですよ、と背中にかけられた言葉は聞こえないふりをした。
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