※リク05::承太郎か花京院/男主/主に片思いしている花京院や承太郎が何とかポッキーゲームを行おうとする話

※あまりリクに添えませんでした




 それはエジプトへの道中でとあるホテルに泊まったときのことである。DIOの手先に足止めを食らった承太郎たちは近場の街で一泊しなければならなくなり、慌てて宿屋へ駆け込んだ。しかし急なこともあって空き部屋が足りず、二つの部屋に三人ずつすし詰めになって泊まることになってしまったのだ。ジョセフ、アブドゥル、ポルナレフの成人組と、承太郎、名前、花京院の学生組である。なぜこの組み合わせかというと、空いているツインベッドルームのうち、足りない一人のためのベッド代わりになりそうなソファが置いてある部屋は片方だけだったという都合だ。
 寝床が一つ足りない部屋にはどちらの組が泊まるのか?学生組だった。
 「年寄り同士が雑魚寝はきつい!お前らは若いし花京院と名前は細身だからベッドをくっつければ三人で寝られるじゃろ」とはジョセフの言ったことで、颯爽とソファのある部屋のキーを掴んだ彼はハハハと誤魔化し笑いをしながら瞬く間に逃げていったのである。
 残りの部屋のルームキーと共にロビーに置き去りにされた花京院は呆然とその背中を見送り、承太郎は「クソジジイが」と舌打ちをした。さらにそこへロビーの片隅にあった売店にふらふら立ち寄っていた名前が「見ろよこれ!日本のお菓子売ってたぜ!」と暢気に帰ってきたのを見て、承太郎は「やれやれだぜ」と肩をすくめたのであった。

 そんな事情でこの三人が同じ部屋で寝ることになったのだが、ジョセフの言った「ベッドをくっつけて三人で寝る」ということが果たして可能だろうか?できないことはないだろうがやりなくない。それが三人の総意だった。
 提案者の言った「細身」などというのはあくまでジョセフ自身や他のがたいのいい二人、それに同年代では突出して体のできあがっている承太郎と比較してのことであって、名前や花京院も決して「小柄」なわけではない。百七十センチをゆうに超える三人の男がシングルベッドを二つ並べたところでぐっすり眠れるわけもないし、第一川の字の真ん中になったらベッドとベッドの間の隙間の上という甚だ寝心地の悪いところで寝るはめになるではないか。ベッドの二人が掛け布団を譲るから一人が床で寝る。そう取り決めがなされるのに五分とかからなかった。
 しかし長かったのはそこからである。

「……で、誰が床で寝るんだ?」

 名前の問いかけに二人分の沈黙が帰ってきた。いつもなら誰かしらが気を遣って名乗り出るところなのだが、そのときは運悪く野宿や車内泊が続いたあとで三人全員が疲労を抱えていた。できればベッドで寝たい。たとえ掛け布団がなくとも、柔らかいところに身体を横たえたい。

「……こういうこと言うのズルイかなって思うんだけど……オレ今日かなり戦ったと思うんだよね」

 相手の動きを窺ったまま沈黙を守る二人に対し、名前は正当性を主張する作戦に出た。働かざるものベッドで寝るべからしである。つまり働いたんだからベッドで寝たい。

「今日の敵手ごわかったよなあ……トドメさすのすげー辛かった!本当辛かった!あれでかなり体力使ったんだよねオレ。さすがに今日はベッドで寝ないと身体が持たな……」

「でも名前はトドメ刺しただけだろ?」

 名前が口を動かしながらベッドへと片足をかけたところで花京院が待ったをかけた。ぴたりと動きを止めて振り返ると花京院が緊張した面持ちで唇を開く。

「あいつが弱るまで体力を削ったのは僕だ。そりゃあ確かに名前、君の功績は認めるけど、僕の働きだって考慮されて然るべきじゃあないか?ぼくの攻撃あっての君のトドメだろ?」

「そ……そうだな!じゃあベッドはおれと花京院ってことで」

「待ちな!」ずっと黙っていた承太郎がここへ来て鋭く切り込んだ。「名前、お前昨日のことを忘れてんじゃあねえのか?」

「昨日……?」

 承太郎のぎらりとした視線に射抜かれながら名前は必死に記憶を手繰り寄せた。昨日といえば夕食は香草臭い民族料理、昼食は露店で売っていたケバブと甘ったるい揚げパン、朝食は列車の中で売っていたサンドイッチとオレンジジュースだった。

「な、なんだっけ?ケバブおごってもらったやつ?でもあれは今朝返したろ……」

「違え!食べ物のことばっかりだなおめーはよ」

「じゃあなんなんだよ」

「列車の中でだ。お前が上の寝台は落っこちそうで怖いっつーから場所を代わってやっただろうが」

「あ!」

 思い出した。名前は確かに昨夜の寝台列車で承太郎に場所を代わってもらっていたのだ。二段ベッドのようになっている寝台はちゃんとした柵などが全くなく、壁からマットつきの板が生えているような印象で、畳に布団を敷いて生きてきた名前からしたら不安定に見えて仕方がなかったのだ。

「あれはお前の指定席だった……それを代わってやったんだぜ。恩返しをしようって言う気はねえのか?」

「あ、あんなの!ジョセフのじいさんがまとめて連番で取ったチケットだろ!たまたまおれの名前が上の台になっただけで……」

「たまたまだろうと何だろうと、あのときお前が困ってておれが助けてやったことには変わりねえ」

 うぐっと名前は口を引っ込める。まさかあのときの些細な出来事がここで持ち出されることになろうとは。言われてみれば、昨夜十分な睡眠を取れたのも寝台から落っこちずにすんだのも承太郎のおかげだ。彼には恩がある。しかも今争っているのは同じ寝床のことなのである。名前は引くしかない。
 しかしそれでも床で寝るのは嫌だった。掛け布団を一枚敷布団の代わりにしたところで、あるいは二枚とも敷いてその上に寝てみたところで、掛け布団はやっぱり掛け布団だ。しかもこのホテル、中途半端にグレードのいいところで布団が羽毛布団なのである。こんなフカフカで軽い布団を敷いたところで床の硬さは誤魔化せない。
 名前は詰め寄る矛先を花京院に変えた。

「か、花京院!お前は昨日ぐっすり寝てたし、それに一昨日の野宿じゃあ一人だけ夜の見張り番なかったよな!?」

「ぐっすり寝てたのは僕がどこでもぐっすり寝れるからだし、それに見張り番はみんなそれで納得してただろ?代わりに僕はテントを張って食材調達やごみの片づけをやった」

「でも、見張り番の方が大変なのは知ってるよな?」

「……い、いやだね。僕は譲らないよ名前。今日だけは嫌だ。疲れてるんだ」

「そんなのオレだってそうだよ!オレら今日散々戦ったんだぜ!?」

 名前が悲鳴まじりに叫ぶと、花京院が承太郎へすっと視線を流した。

「……戦ってない人がここに一人いるね……」

「おい、その話はさっきしただろ」

「してないよ。名前と承太郎の間では承太郎が優位に立ってるけど、僕と承太郎の間ではそんなの関係ないしね」

「……お前とオレの間で、仮にオレが負けたとして、それでもオレよりは名前が負けるんだから結局床は名前じゃねえか」

「そうだね。でも僕は安泰だ」

「あってめえ花京院!自分の保身だけかよ卑怯だぞ!!」

「君と組んだ覚えはない」

 花京院がぴしゃりと言い放ち名前がまたぐぬぬと歯軋りを鳴らす。承太郎とて一歩も譲る気がないのはその表情からして明らかで、三者は完全に膠着状態だった。

「おい、どうするんだ?このままだとろくに眠れねえぞ」

「君が折れてくれれば解決するんじゃあないか?承太郎」

「てめーが降りろ」

「嫌だね」

「………………」

「おいやめろこっち見んな!オレだって嫌だからな!!」

「じゃあどうすんだってんだよ」

 承太郎がズボンのポケットに両手を突っ込み、花京院は腕を組んで断固とした姿勢を表に滲ませる。名前も腰に両手を当てて仁王立ちをしてみるが、二人を前にするとどうにも勝てる気がしなかった。
 承太郎にはもう負けを認めたも同然だし、残る花京院には口で勝てたことがない。もしこのまま理詰めに発展したら?名前には敗北あるのみだ。流れを変えなければならなかった。

「ポ、ポッキーゲームで決めよう!!」

 熱気の立ち上りはじめていた室内が一気にしんと静まり返った。なに言ってんだこいつ、という二人の冷めた視線が名前に突き刺さる。名前は一瞬怯んだものの、しかしここで機を逃してはならないと強引に話を展開する。

「さっき売店で買ってきたんだ……ほら!ポッキー!正真正銘日本で売ってるやつ!!これで決めれば後腐れないし、スタンド使えないし、何より勝敗が早く決まるだろ!」

「じゃんけんとかでいいじゃあないか」

「じゃ、……んけんだと承太郎が勝つだろ。スタープラチナ使われる。あいつ目がいいから何出すかバレる」

「使わねえ」

「ダメ。ダメだ。ダメダメダメ。絶対使う」

 子供じみた名前の言葉に承太郎がむっと眉を寄せた。若干声を落として「使わねえ」と繰り返す。

「口だけなら何とでも言えるだろ」

「んだとこのやろう……やるか?」

「二人とも、喧嘩はよしなよ」

「お前も当事者だろ!」

「そうだぜ。傍観者みてえな口聞きやがって」

 名前と承太郎に突っ込まれて花京院が肩をすくめる。そして名前の手からポッキーの箱をひょいと取り上げると、その包装をしげしげ眺めてから「これでいいんじゃないか」と落ち着いた口調で零した。

「承太郎、君のことを疑っているわけじゃあないが名前の言うことにも一理ある。でもこの……ポッキーゲーム?は、手は使わないんだろう?いかさまのしようがないし、それにポーカーや腕相撲と違って得手不得手もそれほど差がないはずだ」

「うん!うんうんうん!そうだろ!な!」

 名前は大げさに頷いて必死に花京院の後押しをする。口喧嘩になったら負けることが必須の相手花京院典明が、名前に勝ち目のある勝負へ同意したのだ。まさに天の助け、鶴の一声である。

「……分かった。それでいい」

「さっすが承太郎話が分かるゥ!」

「で、どうやってやるんだ?そのポッキーゲームってのは」

「そりゃあポッキーの両端咥えて食べてって、先に口離した方が……」

 負け、と言おうとして名前ははっとある事実に思い当たった。ポッキーゲーム。そう、ポッキーゲームである。巷のカップルや合コンに浮かれた男女が親交を深め乳繰り合うために行うさぶいぼの立つような甘ったるい試みである。それを同年代の、しかもむさくるしい男二人とやろうとしている。なんということだろう。
 その恐ろしい現状に気づいたときにはもう遅く、今さら他のことにしようとは言い出せない空気になっていた。とんでもないことをしてしまった。名前は自分の額を冷や汗が伝い落ちていくのを感じ、静かに頬を引きつらせた。

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