人間って怖いと思う。周りの異常に染まってしまうと自分がそうなっても気づけないのだから、だから恐ろしい事ができるんだ。ベルくんの場合は本質的な問題だと思うけど
「ベルくん、私・・・吐くかもしれません」
「まぢで?王子よゆー」
「慣れてる人と一緒にしないで」
教室に戻って来て見れば、私の机の上には猫の生首。机の中にはぐちゃぐちゃの体、滴り落ちる血肉が椅子を汚して床にたれ落ちていた。
教室を出るとき、嫌に気持ち悪く笑っている奴がいるかと思えばそういう事か、納得できる。でも余りにも非情じゃないか、よくもまぁこんなぐちゃぐちゃに出来るものだと関心さえ起きる
人の顔した悪魔達
クスクスと聞こえる笑い声、なんて耳障りな。こんな奴らと同じ、自分が人間だなんて信じられない、信じたくない。先生もいるのに座れない状態、困った。どうするべきか
いや先生も敵だからこの際、別に授業放棄は構わないんだけどね
「おいみょうじ、席に座りなさい」
「そーだよ!授業はじめらんないじゃん」
「あれ?みょうじもしかして生理?」
下らない。悔しい。
今の気持ちを一言で表すならばそれだ。そして許せない、関係のないものの命を巻き込むなんて自分は神だとでも思っているのだろうか、もしそうなら中二病らしくて笑えるが笑っている間もない
不意に机の上の猫の頭にベルくんが手を伸ばしてその小さな頭を掴みあげると上に投げて、猫めがけてナイフを飛ばした。そして、びちゃり、そんな音と同時にある男子の机の上に刺さってまだ残っていた猫の血が男子生徒の顔に飛んだ
静まりかえる教室、また再び、ベルが恐怖で支配した
「な、何するんだよ!」
「何って返しただけじゃね?」
「は、はぁ?意味わかんねぇし!大体お前なんなんだよ!こんな風紀乱して、雲雀さんに噛み殺されても知ら」
「僕が何だって?」
「ーーーっ?!」
意外な彼の登場に更に教室の温度は下がる。先生も黙って震えていた。雲雀さんがトンファーを騒いでいた男子生徒の首下にぐりっと押し付けると涙が流れたのが見えた。
男のくせに弱い奴、大口たたくならそれ相応の覚悟を用意しとけっていうんだ。って、私の言えたセリフではないか
「すみません、申し訳ありま・・・」
「お、おい、雲雀!その辺にしといてやれって」
「じゃあ君が相手するって言うの?山本武」
「今は授業中だから、それは」
「ねぇ、こんな机で授業できるの?」
山本くんの言葉を無視して雲雀さんは私の机を見ながら私に声をかけた。ニヤリと笑い喜ぶ奴らがむかつく。だが私には雲雀さんは私を噛み殺さないと言う根拠のない自信があった。
「誰かにやられて困ってたんです」
「そう・・・いま代えさせてあげるよ」
「それは助かります」
「別にいいよ、この机は彼が使えばいい」
そう言う雲雀さんの目線先には関わりのないと思われていた男子生徒、その目は恐怖で染まっていた。雲雀さんは彼の前に歩いて行き、「これ忘れ物だよ」そう言って血に染まったカッターを彼に手渡して「早く机かえなよ」そう言った。これは最早脅しだ
震える体でその生徒は立ち上がると自分の机の中身を出して、私の前に置いた。そして血にまみれた私の机だったものを持ち上げた瞬間、べちゃ、中に入っていた臓器が音を立てて床に落ちた
「これ、ちゃんと掃除しといてよ?じゃないと噛み殺すから」
「は、はいいい!!!」
悲鳴のような返事をして、その男子生徒は机を自分の席まで運んだ。それを見て雲雀さんは満足したのか「じゃあね、放課後に確認しに来るから」そう言って出て行った
クラスメイトは私が噛み殺されなかった事が不服なようで睨んで文句を言って来たが、今の私に利くものか。どうでも良い奴らの発言なんかに一々胸は痛まない
「なまえ、オレ授業聞かねぇし教科書使えよ」
「ありがとう、ベルくん」
今の私には守ってくれる人がいる。もしそれが偽りだとしても、彼に殺されるのなら構わないから今は馬鹿なクラスメイト共を嘲笑ってやろう
そう思う私もまた、このクラスの異常の感染者なのだろうか