怪我がどんなに治っても学校に行けば嫌でも生傷が増えてゆく。まぁ時々気絶してるところを雲雀さんに拾われて草壁さんに処置してもらったりするけど、それでも彼らはあくまで学校のためであり、私に加担する気はない。まあかえってその方が気は楽だからいいのだけれど
今日も学校に行き、罵声と苛めを受けて帰ってきた自室。そこで何故か私の部屋のベッドの上で規則正しく揺れる金髪は今まで見た事がないほど美しかった
「てか不法侵入・・・」
瀬川さんの送り込んだ刺客で、とうとう私も死ぬのかな、それにしては無防備な人。一体誰なのだろうか、その美しい容姿故か悪い気はしないただ美しいと心から思う。彼の眠る横にコロンと落ちているティアラが視界に入る、もしかしたら童話の中の王子様なんじゃないだろうか、私を助けに来てくれたんじゃないだろうか
そんな幼い思考を巡らせていれば「うー・・・ん、」と小さな声を出して彼は目を覚ましたようだ
「・・・誰だよ」
「それ私の質問です」
お伽の国の王子様
王子様は日本語がとても上手で「日本語とても上手」と思わず言葉を零した私に「王子のこと馬鹿にしてんの?」とムスッとした顔で言ってきた。ベルフェゴールと名乗った男の子は余程お腹が空いていたのか、私が余りモノで作った夕飯をガツガツと食べてくれる。それにしても良く入る胃袋だ
じーっと見つめていれば可愛くも意地悪に笑って「何?王子に惚れちゃった?」なんて言って私をからかって満更でもない私は無意識に顔を赤く染めてしまうのだった
それから彼は唐突に話を始める
「オレ人殺しに来たんだよねー」
「それは・・・ご苦労様です」
「うししアンタの事だよみょうじなまえ」
「あー、では一思いにどうぞ」
「つまんねー、泣いて助けをこうとかしねぇーの?」
「命乞いなんて醜いことは嫌いですから」
口をへの字に曲げて王子様は手に持っているナイフを投げて遊んだ
つまらないと言われても困るのだ、もう私に元気に笑顔で生きる力なんてないのだから。だからと言って自ら命を絶ったりはしない
それに彼が、いや殺し屋と呼ばれるものが、今晩私の家に来ることは分かっていた。予告通り瀬川知佳が「明日はいっぱい泣いてあげるね?」とか、そんなような事をいつもの笑みで言ってきたから
「これ、仕事なんでしょう?殺さないと怒られるんじゃないですか?」
「まぁね、てかこんな任務の為にオレ使うとかありえねーお前とか一瞬で殺せんじゃん、でも来たのがオレで良かったんじゃね?」
「・・・何故ですか」
「だってオレ、王子だもん」
そんな意味不明な事を言いながら王子様はニヤリと笑って私の頬にキスをした。された頬に一瞬の熱、ああもしかして恋させて裏切って殺すつもりなのかな
「裏切られるのは怪我よりも痛いからいりません、さっさと殺して」
「王子に命令とか何様ー?ししし、だーめ。なまえはオレが守ってやるし」
「意味、分からない」
「恋に理由なんていらないんじゃね?ただビビッてきた、それだけ」
理解不能な発言に何とも言い返せない私を王子様はぎゅっと抱きしめてうししと笑う、何処から何処までが本当で嘘は一体何処までか、化かされているような騙されているような、彼はまるでチェシャ猫のようだ
「じゃあ私は・・、貴方に裏切られたら死ぬ事にします」
「その前に裏切ったらサボテンな」
裏切る?私が?ありえない、もう一目あなたを見たときから私は魅入られているのだから。王子様に殺されるなら本望かもね
―――ズキリ、いつぞやのバッドで殴られた傷が私をあざ笑うかのように痛んだ