ある日、私は悪者になった。
それは学校のマドンナとも呼ばれていた笹川京子が死んだ、いや殺された次の日からの事。学校に行けば当たり前のような顔をしたクラスメイト達からの冷たい視線。
「ねぇ、やっと京子が死んでくれたと思ったら今度はあんた?」
「何で意味もなくこんな事するのよ!」
訳のわからないクラスメイトの発言に私は強張った表情を返すことしか出来ずに突っ立ていれば、急激な頬の痛み、反射的に顔を上げれば山本くんが私の事を殴ったようだった。痛い、意味が分からない
「そんな奴だとは思わなかったのな」
「酷いよみょうじさん、なんで京子ちゃんと同じこと・・・」
「関わるだけ無駄です、十代目」
今まで赤の他人だった私にそう言う仲良しトリオの目はいつにもなく冷たくて、笹川さんもこんな思いをしていたのかと思うと、無実である事を知りながら関わるまいとそっぽを向いていた自分への罰かと、今更ながら心底胸が痛んだ
だが私がこんな目にあう理由は何だ?
「わ、わたし大丈夫だから、武くんも殴ったりしちゃ駄目だよ・・・痛いよね、なまえちゃん、でも私も痛くてね?ごめんね、隠そうと思ったんだけど、みんなに痛いのばれちゃって」
「知佳・・・んな奴に構う必要ねぇよ、てめぇ笹川とグルだったんだろ?本当は前から隠れて二人で瀬川のこと苛めてたんだろ?」
ああ、話がつながった。要はこの女、瀬川知佳の一人劇って訳か、笹川京子の時と全く同じ手口に何だかあほらしくて笑いさえ起きた。と言っても痛いのは嫌いだから殴られたくないし黙って彼らの会話を聞いていたが
撃ち殺された野兎
あの日から3日たった。日に日に増えていく身体の傷。私の体は痣と擦り傷と切り傷と打撲と、ぎりぎり骨折はしていないのが奇跡のようだ、きっと笹川京子もこんな思いだったのだろう
しかし義務教育中の私に逃げ道などない。こんな事で学校に行かなくなってニートなんてそれこそ世間の笑いもの、元々人といるのが苦手なため友達などいない。別に欲しいとも思わない。でも
「げほっ、げほっ・・・っ」
「なんで謝んねぇーんだよ!あいつはもっと痛い思いしてんだぞ?」
「山本の球の腕前、披露してやれよ」
「おっ!それいいのな」
痛いのは、本当に勘弁してほしい。
体育館裏の放課後のこの時間、助けてくれる人がいないのは分かっていても無意識に助けを求めて痛みにより生理的涙が零れる。それにしてもヤバい、山本くんの球なんて食らったら骨折は間逃れない
「―――ッあ゛あ゛あ゛!!!!!」
「骨折は確実だな、もう暫く動けねぇーだろうし今日は帰ろうぜ」
「そーだな!みょうじ、謝らねぇーからこうなるんだぜ」
何が謝らないからだ、ふざけんじゃねぇ。この悔しさは誰にぶつけたら良い?確信犯の瀬川知佳にぶつけるべきなの?それともクラスの奴ら全員?いや、さっき私を殴った奴の中には他の学年の人もいた。ああ・・・もはや学校が私の敵なんだ
「ねぇ、なまえちゃん?」
「・・・ーっ・・・せ、瀬川、さん?」
みんな帰ったかと思われたがまだ人はいたらしく、主犯の瀬川知佳はニコリと笑って現れて、痛みに唸る私の前にしゃがんでポツリと喋り始めた
「なんで、って顔してるね。それもそうだよね、だってなまえちゃんは無自覚だもんね、いつも1人で行動して、他人なんか興味なさそうで、そんな私が、なんで、って」
当たり前だ。
無関心とはいえ誰かを無視していたわけでも冷たくあしらった事もない。ただ楽だから、人を信じるのが嫌だから一人でいただけなのに
「先週の理科の実験の日。なまえちゃん、手ぇ切ったでしょ?獄寺くんにすっごく心配してもらってたね、羨ましかったな」
「ま、さか・・・?」
「それが理由、かな。獄寺くん女の子の事とかどーでもいい風にしてるのに、なんでなまえちゃんには優しくしてるの?って。京子ちゃんは、ただ邪魔だっただけだから、飽きたし最後はパパにお願いして消してもらったけど」
「・・・・・・は?」
「これ聞いちゃったって事は、なまえちゃん死んじゃうのも時間の問題かな?まぁその時は教えてあげるね。ばいばい」
にこやかな彼女の笑みに、痛みで流れていた汗は冷えてゾクリと一瞬の恐怖に鳥肌がたった
「死んでたまるもんか、絶対に生きて・・・」
そこからは何があったのか覚えていない、ただ目覚めた時は病室で傍には無表情な雲雀さんがいて、「あんな所に倒れられてたら風紀が乱れる」そう言ってお礼を言う暇も無く彼は出て行った
骨折がある程度直ったのは2週間後。あぁ、また地獄の学校生活が始まる