眠る前にベルくんに聞かれた「あの女、なまえはどうしてぇの?」その言葉に私は間を開けずに「復讐したい」と答えれば「りょーかい。じゃあ後は王子に任せろよ」そう不敵に笑って答えた彼の顔は夢にまで出てきたほど美しくてかっこ良かった
こんなにも素敵な人が私を連れて行ってくれるなんて、嬉しくて不安だ。
「う゛ぉ゛お゛い゛!!もう学校行く時間だぜぇえ!」
「まだ帰ってねぇのかよスクアーロ」
「あったりめぇだ!今日、壊滅に行くからなあ」
そうなんだ。瀬川さん今日終わるんだ、なんだかあっけないね。そんなコトを思いながらスクアーロの作ってくれた朝食を口にしてベルくんと肩を並べて学校に向かった
魔法にかけられて
ベルくんは別に作戦があるらしく教室には私一人で入った。
教室にはもう殆どの生徒がいて誰もが私たちを疎外の目で見てくる。そしてクラスではあまり目立たない見知らぬ男子と山本に守られるように瀬川さんも何とも嫌らしく汚れた目で私を見ていた。
獄寺くんと沢田くんは、ああ2人で何か話をしたのだろうな。2人一緒に何も言えぬ表情で顔を伏せていた。そうなると山本にも恐らく話したのだろうが、あの様子だと好きな人を信じると決め込んだんだ。私と同じね
「瀬川さん、ちょっと話がしたいな」
そう言って一度入った教室をリターンして階段に向かった。これはあくまで作戦の1つ。きっと瀬川さんは周りが止めるのも聞かずに私を追って来てくれるのでしょう?なんていいチャンスだとか心の中で思いながら
屋上のドアを開けて2人だけな事を確認してから私よりも先に瀬川さんが口を開いた
「私の事呼び出して、これで私が傷でも付けて戻ったら、皆またみょうじさんを殴ったり蹴ったり、殺しちゃうかもよ?」
「王子さまが守ってくれるもの」
「ふーん・・・なんかもう、どーでもいいや」
「なにが?」
「獄寺くん最近わたしの事怪しんでるし、ツナくんにはなまえちゃんがバラしちゃったし、残ったのは使えない山本と興味無い男女だけ」
全部気づいていたのかと私は少しだけ驚いた。それから瀬川さんは残念そうに溜息をついて、
「ねぇ、今日当たりなんでしょ?うちのファミリー潰すの」
「なんで・・・」
「弱いくせにパパは意地はるからなあ」そう言いながら楽しそうに笑った。それに引き換え私といえば意外な質問に何も言えず硬直してして、その姿から彼女は「ああやっぱりね」それだけ零してフェンスに近寄って町の景色を眺めていた
だって、どうして自分が死ぬと確信して笑っていられるのか、ただの一般人である私には理解できなかったから
「ねぇ、私となまえちゃん苛めた人たち、どっちが憎い?」
どっちも同じくらい憎い、でも実際は?なんとも答えられなくて、私は再び黙って俯いた
「わたしはね、根っこから腐った人間だから、私に復讐なんて効かないの。でも」
何も答えられない私をよそに彼女はずーっと先の景色を見ながらふぅ、と息をついて
「復讐のお手伝いなら、できるよね?」
「・・・は?」
「何も知らないくせに、正義を語るあいつ等が、憎いでしょう?だからなまえちゃんの、望む素敵なラストを・・・ね?」
「頭、可笑しいんじゃないの?」
「その言葉、小さい頃から言われなれてるわ」
ふふふと笑ってから「で、どうするの?」と彼女は続ける。予想外すぎてどうしようも出来ない、本当に彼女の言うことを信じていいのかも分からないし、そもそも私が彼女が一番に憎かったはずで。
でも、気が付いたら彼女よりもクラスメイト、いや、この学校の人間、私に手を出した奴らの方が憎かった。ああ本当に彼女は悪魔のような女だ
「いんじゃね?その女つかおーぜ」
「べ、ベルくん!」
「オレも準備おーけーだし」
「じゃあ、わたし何したら、いい?」
「んー・・・とりあえずサボテン」
一瞬、だった。ほんの一瞬で血飛沫が上がり血まみれの瀬川さんができあがった。一瞬は顔を歪めた、それでも彼女は笑みを止めないから気持ちが悪い。でもベルくんのナイフが彼女に刺さったときのゾクリと言う初めて味わった快感は何だったんだろう
「この姿で教室に戻れば、良いの?」
「なまえにやられたって言えよ?」
一度ニコリと笑ってから涙目になって、痛い痛いと言いながら彼女は階段に血溜まりを残しながら教室に向かって歩いていった。なんて演技派。思わず心配しそうになった
それより、ベルくんはこれからどうするつもりなんだろう?
「じゃ、オレらも教室いこーぜ?」
「え・・・でも、」
「良いから良いから、さっさと来いよ」
無理やりベルくんに手を引かれて私は教室へと足を向けた