週末になったが叔父はまだ家に帰ってきていない。今日も予定が無くて暇だ
そして思い出すのはつい先日の出来事。あまりネウロさんとお話できずに帰ってきてしまったし、弥子とも学校で会いはするが話していない。弥子もネウロさんも事務所にまた来て良いと言っていたし行ってみようかな
連絡はとくにせず突撃訪問!!弥子の事だ、怒りはしないだろう。
手土産にお勧めのお菓子を買い電車に乗ってのんびりと向かう。3人分しか買ってないから弥子は満足できないかもしれないが、弥子のために何十個も買うと私の懐が厳しい事になるので仕方ない。
それよりネウロさんってお菓子とか食べるのかな?
ビルのエレベータに乗ってギシギシと古い音に急に止まらないかと不安になりながら弥子の事務所のある階で降りた。弥子の驚いた顔が目に浮かぶ、さぁドアをノックして開けてみれば、目が痛くなるような明るい金髪に唇にはピアスをした青年が、ネウロさんの座っていた席でだらーんと項垂れてていた
「あ?誰だテメェ」
「すみません、間違えました」
バタン。と笑顔でドアを閉めてドアを見るが矢張り此処は弥子の事務所
今の人は誰だ?何処かで見た事がある気がするが思い出せない。あんな金髪ピアス、見たら忘れないはずなのに・・・とりあえず私は弥子に用があるのだ、今さら引き返せない
再びドアに向かい手を伸ばし、ギギギ・・・と静かにドアを開け中を覗くが弥子もネウロさんもいないようだ。ため息をついてから金髪の人をチラリと見れば目が合ってじーっと此方を見られる。突っ立っているのも気まずいので中に入り彼の前まで行き出来る限りの笑みを浮かべる
「あの・・・弥子とネウロさんは?」
「知らねぇよ」
「そうですか・・・、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねぇよ、腹減った」
「あの・・これ良かったら・・・」
「おう、わりぃな。ありがとよ」
手に持っていたお菓子の入った紙袋を渡せばそれを手に取り開けて中の洋菓子を食べ始めた。甘いものは苦手なのだろうが、そんな事よりも腹が減っていたご様子。無心でバクバクと口に入れるがそんなお菓子でお腹が膨れるのだろうか・・・?これならお弁当でも買ってくれば良かった。だが残念な事に私の財布は小銭しか残っていない
彼は適当にお菓子を食らい尽くしてからボヘーっと再び机に伏せた。それもそうだ、こんなに甘いものばかり食べたら胸焼けするだろうに・・・大丈夫かな?この人。お茶でも持ってきてあげようか
台所でお茶を入れて彼の伏せる机にそっと置けば、顔だけあげて「わりぃな」と言ってから一気にお茶を飲み干した。淹れたてなのに火傷しなかったかな?お菓子のゴミを片付けてお茶を再び注いだ
「お前、あの化け物の知り合いなのか?」
「化け物?えと私は・・・あ、思い出した」
「何をだ?」
「この前、お財布拾ってくれた人!」
「財布・・・あぁ、あん時の」
あの時の彼にこんな場所で会う事になるなんて思いもしなかった、偶然の出会いとはこういう事を言うのだろう。まさか弥子たちの知り合いだったなんて意外だ。て言うか一体何処に接点が!?世界って狭いのだと思う
彼も少しだけ驚いたような顔をして私を見た。でも流石に顔を覚えてはいないだろう
「私、みょうじなまえと言います。お兄さんのお名前は?」
「吾代忍。だー・・・腹減ったぁぁあああ」
「お菓子じゃお腹も膨れませんよね、私なにか買ってき・・・ッすみませ」
「探偵ってのはおまえか?」
「へ?」
お弁当でも買いに行こうとドアを開けて誰かにぶつかった。顔を上げれば黒服を着た複数の男たちが私を見下す、なんか見るからにヤバい方々なのだけど・・・弥子は普段からこんな人たちと付き合ってるのかな?
さして彼らが怖いなどとは思わないのだが警察が絡むのは困るので暴力沙汰はやめて欲しい。私が小さく首を横に振れば彼らの目は吾代さんにいく。吾代さんはぶすっとした顔で「依頼だったら連絡先だけ書いて置いてけや」と言って彼らを睨みつけた。
「・・・・・寒いなここ、あんまり長居はしたくねぇ」
黒服の男共の後ろから姿を現した青年は静かで冷たい目をしてそう言った。まだそれほど寒いわけでもないこの季節には不釣合いな厚着のコート、雪のような銀色とも白ともいえぬ髪が動くたびサラサラと揺れて思わず目を奪われてしまう
「・・・雪、みたい」
「・・・・あんた・・・ここの人間なんだよな?」
彼は私の呟きに一度は此方を向いたものの無視して視線を吾代さんに戻した。それからは2人の言い争い。変わらず落ち着いた口調の彼と苛々する吾代さん。私は口出しせずに黙ってソファーに座ってその様子を見つめる
それから吾代さんが暴力を振るうまでに、それほど時間はかからなかった。次々と黒服の男たちを蹴るは殴るはで伏せさせて、にしても弱い気がする。いや吾代さんが強いのかな?
「なァ・・・アンタ、コイツの女?」
「違います。私は弥子の、ここの探偵さんの同級生です」
「・・・こういうの慣れてんの?」
厚着のコートを着た彼はそう言って吾代さんの方をクイッと向いた。こういうの、それが何なのかはすぐに分かった。そうだよね、普通の女の子はこんな暴力シーン見たらキャアキャア騒いだり助け呼ぼうとしたりするもの。これを恐怖に感じないのも「シックス」と言う存在故だな、関わっただけで自分が壊されるような、そんな感じ
「慣れてはいません、でもこの程度なら平気です」
「珍しい奴もいんだな、まだ高校生だのに」
「死んだ両親の代わりに育ててくれた叔父の影響だと思います」
そんな話をしている内に吾代さんはあの人たちを片付け終わったようで、でも最後の決めの灰皿で頭を殴るのは少し卑怯だと思ったがそんな事を言ってる場合じゃないよね。攻められたのは此方のほうなのだから
顔に青筋が出るほどピキピキする吾代さんは雪みたいなお兄さんに殴りかからんばかりの勢いだったが一瞬。たった一瞬、彼が動いただけで吾代さんは肌から血を出して床に伏せてしまった
起き上がれない吾代さんを踏んで「今のあんたずいぶん寒いよ」そう言って嘲笑った。吾代さんにとってみれば屈辱以外の何ものでもないのだろう、気まずくて顔向けできないが怪我してるんだ、手当てしないと
そう思い台所へタオルを濡らしに行こうとしたのを先ほどまで話していた男の声に止められた
「なァ、あんたの名前教えてくれないか?」
「・・・みょうじ、なまえです」
「みょうじ・・・な、またな」
それだけ言って彼らはゾロゾロと事務所を出て行った。私は急いでタオルで怪我した所をふき取ろうとしたが、吾代さんの手に撥ね退けられた。叩かれた手がじんじんと痛むが気にはならない、それよりも彼の心理が心配だ
どうしたら良いのか分からない、弥子みたいに気の利いた言葉一つ言えたらいいのにと思うが私にはそんな事できなくて、私に出来るのはそっぽを向く吾代さんを無視して血を拭くことぐらい
「痛かったら言って下さ―――」
「帰ーれ」
「でも・・・怪我してるから・・・」
「いいから帰ーれ!!!」
「・・・吾代、さん」
どうしたら良いのか分からなくて、そんな情けない言葉しかかけられないが今の彼に同情してはいけないと思う。それは彼のプライドを傷つける行為以外の何物でもないのだから、だから、私は
「ごはんでも買ってきますね、待っててください」
それだけ言って無言の彼を置き去りに事務所を出た。
だけど戻ってきた時には当たり前のように吾代さんは消えていて、代わりに弥子とネウロさんがいた。弥子は吾代さんを探しに行くと言っていたけれど、付いて行く気にもなれなくて事務所を後にし私は家へと足を速めた
最後はいつも1人ぼっちだ