07
ぐるぐると此処最近の出来事が頭の中を駆け巡り記憶の保管庫に送られる。
政宗が見える、慶次に攫われる私をただ見つめているだけの政宗。何で助けてくれなかったのよ、私のこと守るって言ったのに。周りが止めるのも聞かず勝手に慶次に話しかけて攫われた私がそんな事を思うのは我侭だろうか
「政宗の馬鹿・・・」
目が覚めて布団の中でもぞもぞしていれば、ストン、と天井から猿飛佐助が降りて着てきた。吃驚して天井を見上げるも降りて来れそうな穴なんて無い。さすが忍。
「おはよ、なまえちゃん」
「おはようございます。佐助は寝ずに私の監視?ご苦労様です」
「ま、仕事だしね〜」
私のちょっとした嫌味をさらりとかわして、佐助はへらへらと笑った。その貼り付けたみたいな笑みは好きじゃないけど、今のこの距離感では仕方ない
「昨日は調子乗って抱きついたりしてすみません」
「別に気にしてないけどさ」
佐助の痛いくらいの視線にも平然な顔で対応するのは結構疲れる。そんなに食い入るように見たって私はただの人間で、ここの人を傷つけるつもりなんて欠片も無いのに。ま、佐助に仕事と言われてしまえば言い返す言葉も無い
「アンタの着物ボロボロだったから捨てたよ、女物じゃなくて悪いけど代わりにこれ着な」
「助かります、ありがとう」
渡された着物を手に取り着替えようと思えば、佐助は部屋から消えていた。気遣いは有難いが、どうせ見てるくせにと、佐助の取って付けたような笑みが頭から離れなくて苛々してしまう自分が嫌になる
着替え終わり、布団を畳んでいるとドドドドドッと馬でも駆けてるんだろうかという騒音が聞こえて来た。その音は徐々にこちらへ近づきスパーンッと襖が開いたと思えば幸村が笑顔で息を切らしている
「なまえ殿おおおおお!!!」
「朝から元気ですね、おはようございます・・・」
「某、一晩考えなまえ殿を娶る事に致した。さあ、契りを交わしましょうぞ!」
「え?いや、意味が分からないです」
「旦那ー、結論だけ言って伝わるわけないでしょ?」
いつの間に現れたのやら佐助がはあ、とため息をついて首を横に振った。それから「なまえちゃんに一生残る傷を付けた責任を取るってさ」と付け加える。成、商品を傷つけたので弁償しますって事か、余計なお世話だ。拳に自然と力がこもる
「・・・幸村様。ほっぺ出して下さい」
「く、口吸いでござるか?!ま、まだ早いでござ・・・ぶほおお!」
「一発は一発です。これでもうお互い様ですから責任なんて気にしないで下さいね」
「なまえ殿・・・」
幸村が赤くなる頬を手で押さえ目を見開いて驚いていた。じんじんする右手を隠しながら私は笑うが、視界の隅に見える佐助の手にクナイがしっかりと握られていて、気づかないふりをしながら痛む胸を左手で押さえた
「お腹空きました、ご飯食べませんか?」
「うむ!佐助、朝餉だ!」
「はいはい」
信頼されないって事は結構メンタルにくるようで今すぐにでも此処から逃げ出したくなった。辛くても泣きつける相手が居ない、私の居場所の無い世界ってこんなにも息苦しいものなのか
朝食を食べ終わると幸村は未来の話を聞きたがった。彼は私が未来から来たことを純粋に信じてくれてるようでキラキラした目で私の話に耳を傾ける、今の私の唯一のオアシスだ
「未来は戦も無く平和で、誰もが幼い頃から学問を学び、移動手段は馬ではなく人が乗れる機械・・・所謂カラクリで、身分の違いも今の時代ほど激しいものではなく、殆どの人が好き合って結ばれます」
「素晴らしい世界にございますな」
「でも、良い事ばかりじゃないですよ。悪いことの無い世界なんて何処を探しても無いです、きっと」
「なまえ殿に嫌な事でも?」
「いえ、別にそういう訳じゃないんですけど・・・ただ平和ボケしてるんです、」
平和で同じ事の繰り返しに飽きて戦争ごっこに憧れた、と言うもサバイバルゲームを始めた理由の中にある。けれどこの世界では遊びじゃ済まない、死ぬんだ
「そういえば私の荷物って何処にありますか?」
「なまえ殿の荷物ならば・・・」
「この変な素材のやつ?はいよ」
「吃驚した・・・いきなり現れるの止めて下さいよ」
いつの間にか気配もなく背後に居た佐助は、ガンケースをどさっと畳の上に置いた。ケースのポケットを開け中のものを取り出す、その様子を佐助は警戒しながら見ていた。まず中から出てきたのは迷彩服、
「佐助と同じ柄ですよ!」
「え、なになまえちゃんそんなの着るの?」
「戦う時だけですけどね」
続いて取り出したのは現代における必須アイテム携帯電話だ。不思議な事に充電は少しも減ってなかった。
「これ、私の世界の機械なんです。これを持っている人とどんなに離れていても、んー例えば此処から奥州に居る人とも会話が出来るんです。この世界では使えませんけどね、まあ変わりにこんなことも出来ます」
佐助に警戒されるのも嫌なので縁側に向けて撮影ボタンを押せばカシャ!と久々に聞く機会音
「見てください!モノを写し取れるんです」
「ぉお!某もとってくだされ!・・・凄いぞ佐助!この中に俺が居る!」
「ちょっと旦那、落ち着きなよ」
「後は歌も歌います!えっと、ミュージック・・・」
「うおおお!歌が聞こえる・・この中に人がおるのか!!」
「ははっ・・幸村様、面白いですね」
古典的な幸村の反応が可愛くて思わず声を上げて笑ってしまった。初めからこうフレンドリーに出会えれば良かったのに、でも、これはこれで良いかもしれない。じっと私を見つめる幸村が顔を赤くしながら呟いた
「なまえ殿は笑顔が一番お似合いにございますな」
「は・・・へ?」
「い、いや、なんでもござらん!」
顔を赤くしながら急に変な事を言い出すものだから、こっちが照れくさくなる。なんだ幸村のくせにキザな台詞なんて吐いちゃって、らしくない。でも純粋で真っ直ぐな目が嬉しくて
「ありがとう、幸村様のそういう真っ直ぐなところ大好きです」
「あ、や、わ、そ、某、急用を思い出したので、し、失礼致す!!」
不自然な動きで襖にぶつかりながら部屋を出て、それからドタドタと床が抜け落ちるんじゃないかと思うほど音を立てて走り去って行った。全く、初心で素直で可愛い人だ
それに比べて、
「ねぇなまえちゃん、うちの旦那で遊ばないでくれる?」
「なんですか、私の幸せモード邪魔しないで下さいよ。遊んで無いですし失礼な」
「なら良いんだけど、あとさ何で平和な世界で暮らすなまえちゃんが武器なんて持ってるわけ?」
「・・玩具ですよ、これで人は死なない。戦争ごっこをする為のただの玩具、だから平和ボケしてるって言ったでしょ」
恥ずかしいから、もうこれ以上聞かないで欲しい。それに、たとえ仕事とはいえ佐助のことが嫌いになりそうだから。
「嫌いで良いよ」
「・・・、」
読心術はずるい。言っても無いのに勝手に、それも一方的に気持ちを読み取るなんて卑怯だ。私は佐助が何を考えてるのかなんて分からないのに
「私、佐助のこと嫌いになんてなりませんから」
「・・・、」
「仕事だって、分かってますから。別に傷ついたりしてませんから」
「じゃあ泣かないでよ」
蓄積した心の傷は涙に形を変えてぼろぼろと目から零れ落ちてきた。こんな事で泣くなんて恥ずかしい、でも自分で止める事ができず次から次へと溢れてくる。
冷たくアンタと呼ばれることも、四六時中見張られてる事も、探るような視線も、すぐにクナイを構え向けてくる事も、私が怪しいからだと耐えていたが、本当は悔しくて寂しくて、何より辛かった
「さす・・・け?」
「ごめんね、」
抱きしめられてると気づくまでに暫く時間がかかった。温かい、昨日抱きついた時の佐助の匂いが全身を覆う。無に近い、至近距離まで近づかなければ分からない佐助の男の匂い
「本当にただの女の子だね」
「・・な!わ、ちょ」
抱きしめられて私が動けないのを良い事にすりすりとお尻を撫でながら佐助は笑う。急に何するのだこのエロ忍。
それから羞恥心で固まる私の頭を佐助はそっと撫でた。
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