おはなしまとめ | ナノ

剿{当は嘘と知っている


お兄ちゃんとアリサお姉さんの会話を聞いてから、もう4日くらい経ちます。時々、隠れながら窓の方を見ると、お兄ちゃんが私を探すようにこっちを見ていて、胸がズクンと痛みました。でもお兄ちゃんに会うのが怖いんです、“あんな子供”って“興味ない”って。一言一言を思い出すたびに涙が出てきてしまいます。

「おに、い、ちゃん・・・」
「どーしたの?なまえちゃん」
「何でも無いよ!」
「そう?次の授業、理科で移動だよ?行こう」

此処が学校である事も忘れて、目には涙が溜まっていました。学校にいても家にいても、友達といてもパパやママといても、お兄ちゃんの事しか考えられません。頭の中はお兄ちゃんの事でいっぱいなのです。

お兄ちゃんは私の事をお姫様と言ってくれて、私の王子様はお兄ちゃんだけだと思っています。でも、だったら佐助お兄ちゃんの彼女である、アリサお姉さんは何でしょうか?その疑問がぐるぐるして、本当のお姫様はアリサお姉さんなんじゃないか?とか嫌な事をいっぱい考えてしまいます。

「なまえちゃん具合悪いの?保健室行く?」
「違うの。大丈夫、」
「んー、じゃあ・・・悩み事かな?」

反応に迷っていれば、お友達の千子ちゃんは「お話聞くよ?」とニコリと笑ってくれました。でも話して良いのか分からないし、どう話して良いのかも分からなくて、少し悩んでから首を横に振りました。千子ちゃんは優しくて私の大切なお友達だから、変な心配はかけたくないのです。

「ありがとう。でも自分で頑張りたいから」
「そっか、じゃあ笑って?そんな辛そうな顔しちゃ駄目」
「そうだよね、ごめんね」
「なまえちゃんが悲しそうだと私も寂しいよ」

嬉しくて、でも泣いたらいけないと思うと自然と笑みが零れ、声をあげて笑ってしまいました。それから数時間後、午後の授業が終わり掃除も終わって下校時刻になりました。下駄箱で靴を履き替えて、正門に向かって歩いていけば、外に見覚えのある姿。思わず足を早めて、駆け寄り抱きつきました。

「お兄ちゃん!」
「なまえちゃ・・・わっ」

零れる涙を止めることは出来ず、ただ必死に抱きつきます。お兄ちゃんも私を力強くぎゅっと抱きしめて、それから優しく頭を撫でてくれました。この温かいてに頭を撫でられるのが、私は何よりも好きなのです。離れてたのだってたった数日、前にも離れてた事はあったのに、それでも嬉しくて足りなくて、ただ一向にお兄ちゃんの体温を感じようと、腕に力が籠ります。

「なまえちゃん、ちょっと俺様苦しいかも・・・」
「ぅあっ、ごめんね」

そう言って背中に回していた手を離し、そこで久々にお兄ちゃんの目を見ました。気のせいか、少しやつれているような気もします。

「・・・なまえちゃん、本当ごめんね」
「・・・・・・」
「此処だと変な人に間違えられるかもしんないから、俺様の家行こ?」

お兄ちゃんの目の先を見れば、正門に立っている守衛のおじさんがじっとこっちを見ていました。確かに此処でお話していたら、いつ声をかけられるか分かったものではありません。胸の辺りでぐるぐるする気持ちに収まりはつきませんが、ちゃんとお兄ちゃんと向き合って話さない事には今の状況も変わりないと思います。少し悩んでから頷いて、いつもの帰り道をお兄ちゃんと歩いて行きました。

「・・・おじゃま、します」
「何か飲む?」
「いらない。うがいしても良い?」
「勿論。どーぞ」

コップを借りて、洗面台で喉をガラガラしました。さっきは嬉しさで思わず抱きついてしまいましたが、こんなにお兄ちゃんの事が好きなのに、私は酷い事言われたんです。凄く傷ついたんです。沢山沢山泣いたんです。濡れた口元をタオルで拭いて、ベッドに背を預け床に座りました。お兄ちゃんも隣に座ります。

「なまえちゃーん?あー・・・あのね、」
「待って。私が先に聞きたい」
「・・うん、分かった」
「お兄ちゃん、本当のお姫様はアリサお姉さんなの?」

私の問いに、お兄ちゃんが泣きそうな顔をしたのが分かりました。それから「違うよ、なまえちゃんだけだよ」そう何度も繰り返します。私はお兄ちゃんの気持ちも考えも分かりません。

「お兄ちゃんにとってアリサお姉さんってなに?」
「・・・ただの大学の同級生、だよ」
「ほんとに?」

一瞬お兄ちゃんの顔が歪んだのは気のせいでしょうか。いいえ、気のせいなんかじゃないし、ただの同級生なんかじゃなく、彼女だという事も知っている。それでも良いんです、私に向ける笑みは今までと変わらず優しいから。それにもう、泣きそうな顔で謝るお兄ちゃんを見たく無いのです。千子ちゃんもこんな気持ちだったのでしょうか。

「なまえちゃん、この前の事だけど」
「いいの。ちゃんと理由があったんだよね?」

この言葉はお昼のドラマで学んだのですが、ママはドラマを見ながらその台詞を聞いて「馬鹿な女、絶対この男またやるよ」と呟いていました。これは馬鹿な女の言葉らしいです。でも今の私には一番しっくりきて、寧ろ他になんと言って良いのか分かりませんでした。

「大好きだよ、なまえちゃん」

そう言うお兄ちゃんの顔は、やっぱり凄くかっこ良くて優しくて、切なくて胸がきゅうっと苦しくなりました。ああ、そういえば、千子ちゃんが前に言っていました。胸がジクジクとする、それが恋。そっか、私はお兄ちゃんに恋をしてるようです。

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