おはなしまとめ | ナノ

刄^クシー


タクシーに揺られながら、ネオンの消えた静かな都会の景色を見つめる。タクシーしか走っていないな、と腕時計を見れば短針は三時を指していた。

「そりゃあ眠いよね」

誰に言うでもなく言葉が零れた。私は至って普通のOLで、ただ言うなら同僚よりも仕事は倍近く早いし、上司からの期待も熱いし。それに答えようとイエスマンで乗り切る日々。定時のチャイムと同時に退社するキラキラ女子とは、私生活面で雲泥の差がついてる事には気がつかないフリをしていた。
毎晩終電、数日に一回はタクシー帰り。そんな生活だ、もちろん彼氏はいない。最後にセックスしたのはいつのことやら。

「まだ20代だってのに、なんて不健全な・・・」

「お客さん、何か言いましたか?」

「ああ・・・いえ。あ、次の信号で降ります」

領収書を受け取り「ありがとうございましたー」の声に見送られながらタクシーを降りる。立ち上がる時に見えてしまったパンパンに浮腫んでいる足が、私を無性に悲しくさせた。



数時間ぶりの家にたどり着き、パンプスを脱ぎ捨てバッグをおろし、ゴロンとベッドに倒れ込む。それからベッドで私の帰りを待っていたクマのぬいぐるみに、ただいまの挨拶をするのだ。私が一番癒される時間。

「ただいまー、クマ吉」

一人暮らしを始めて早三年、日々の話し相手はくまのぬいぐるみ。いつか恋人が出来たら!を期待して購入したセミダブルのベッドは、私にはただただ広いだけで虚しく。可笑しいな・・・こんなはずじゃ無かったんだけどな・・・。

コツン。クマ吉を抱きしめようと背後に手を伸ばせば、無機質な何かに触れた。なんだっけ、とそれを掴めば、私の夜のお友達こと通称、電気マッサージ器。

「これをベッドに置きっぱなしだもんな・・・女子力以前の問題な気がして来た・・・」

はあ。とため息をついてから、手に取ってしまったし、とストレス解消を兼ねた性的欲求を満たすため、そっと股間にそれを充てがいスイッチを押す。その瞬間に訪れる強い刺激に、ふうっ、と声を漏らしながら身をよじらせ、頭の中で妄想を繰り広げる。

「あっ・・・」

強過ぎる刺激は絶頂を迎えるのもあっと言う間だった。だが、働き盛りの私としてはそのクイックさが丁度良い。なんて思うのは男の居ない言い訳だろうか。。

「たまにはちゃんと仕舞うか」

ベッドから起き上がり押し入れを開くが、そこにはあるはずの洋服もアクリルボックスも無く、押し入れの中とは思えぬ広い畳の部屋で、ナイスバディの金髪お姉ちゃんと綺麗な顔したお兄さんがニャンニャンしていた。

「え・・・え?私の洋服は何処に・・・」

思わず固まってしまいその光景を見ていれば、瞬時に視線に気がついたお姉ちゃんが、ハッと私を睨みつける。なんだろう、ヤバい気がする。ものすごい殺気を感じるんだけど。殺気とか始めて感じるんだけど。

「き、貴様!何処から現れた!!」

「いや、何処って此処は私の部屋のはずなんだけど・・・」

「馬鹿な事を言うな!謙信様との時間を邪魔するんて・・・っ!すぐに始末してやる」

「えええ・・・」

「おまちなさい、うつくしきつるぎ」


綺麗なお兄さんがヒステリックな金髪お姉さんの顎をクイッと掴み、自分の方を向かせ黙らせた。なんだろう仕事のし過ぎで疲れてるのかな、二人の背後に薔薇が咲いてるんだけど。ああ、寝不足のせいか頭がクラクラしてきた。仕事に殺されると言うのはこういう事か。精神に問題が起きてるみたいだし明日は早上がりさせてもらおう。

いや、そもそもこれは夢なのかもしれない。夢ってことはこの人たちを何処かで見たことあるかも。あ、なんだっけ、学生時代にハマっていたゲームにこんなキャラクターがいたような。今更夢で見るなんて、深層心理みたいやつなのかな。

バタン。

頭をフル回転させた瞬間、そのまま気を失い畳の床の上に頭から倒れ込んだ。

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