おはなしまとめ | ナノ

剪ヌ憶の反復に詰まる息


佐助様が金子を長椅子に残し姿を消されたのを確認し、ふうと小さく息を吐く。それから勢いで出てしまった言葉を自分の中で繰り返し、佐助様になんて事を言ってしまったのだろうと、ひとり冷静になって痛む頭を抑えた。冗談だと思われただろうか、それとも本当に来て頂けるのだろうか。期待と不安に挟まれ動悸の収まらない胸に手を置いて静かに目を閉じる。

私は一体どうしたいのだろう、自分の気持ちが分からない。そもそも佐助様とどうなりたい等と烏滸がましい事を考えてはいなかったのに人と言う生き物は貪欲で困る。佐助様の事で頭を埋め尽くし、脳裏に映る幸村様のお姿は気のせいだと自分に言い聞かせた。






とっぷりと日が暮れた。

雲の無い夜空には煌々と照る月がひとつあるばかり。さすがに私のあのような誘いには乗って頂けるわけも無かったか、と眠りにつく為に瞼を閉じて意識遠のく中で、ふわりと何かが唇に触れ反射的に目が開いた。


「・・・佐助様、なぜ此処に」

「なんでって、誘ったのはなまえちゃんでしょ?」

「そ、そうですが、本当に来て頂けるとは思わなかったので」


仰向けで寝ていた私に覆い被さる様に佐助様の身体が重ねられている。息がかかる程の距離には月明かりに照らされた佐助様のお顔、それは眩しい程に良く見えて私を火照らせるのには十分過ぎた。鋭い佐助様の瞳から顔を逸らしたくても彼の腕に頭を抑えられており身動きは取れない。


「色々考えたんだけどさ、忍と言えど子孫は残さなきゃいけないわけよ。で、なまえちゃんなら背負えるかなって」

「佐助様の子を、私が・・・ですか、」

「そ、良い話じゃない?」

「・・・はい、初めから望んでいた事ですもの」

「じゃあ俺様のもんになんのね」


佐助様はいつもと同じ腹の底の見えない笑みを浮かべているが、ぎゅっと力強く抱きしめられて彼の鼓動も私と同じくらい早い事を知った。それがなんだか無性に愛おしく感じ、幸村様の事を考える日々で隠されていた佐助様への想いは今まで何処に姿を隠していたのだろうかと言う様に湧き出て来た。しかしどうにも言えぬ胸の突っ掛かり。

抱きしめる腕を離し身体を起こすと、佐助様は身に纏っている装備を外し始めた。私はそれを静かに見つめる。徐々に露わになる日の光を知らない真白な肌にドクリと初めての感情が訪れた。きっとお天道様は勿論のこと幸村様ですら見た事が無いのだろう雪のような肌には、彼の生き様を語るように痛々しい程の傷が刻まれている。そっと、手を伸ばし佐助様の胸部に触れれば相変わらず速い動きを繰り返す心臓に命を感じて、何があったわけでもないのに心が緩んだ。


「佐助様を受け入れられること、私は大変嬉しく思います」

「へぇ?受け入れられるなんて嫌だけどね・・・なまえちゃん俺様の身体を見て不安になったでしょ?どれだけ死に近いとこにいるのか知って、さ」

「・・・そうですね、確かに不安でとても怖いです。でも直に武田が天下を取られるのでごさいましょう?そうすれば、もう傷を作る事も無いし、のんびり暮らせますよ」

「俺様のお仕事無くなっちゃうじゃないの」

「その時は二人で甘味処を継いだら良いのです。ちょうど跡取りが居ないと店主が嘆いていましたし!そうだわ、今から菓子作りを教わろうかしら」

「へへ・・・ああ、もう本当、好き」


白い肌からは想像の出来ない温もりに抱きしめられ心が絆される。ゆっくりと重ねる唇、佐助様はどうしてそんなにも切ないお顔をされているのだろう。二人の唇は何度も向きを変え繋がっては離れを繰り返し時に舌を交える、その間に佐助様は器用にも私の衣服を脱がした。


「あらら、なまえちゃん真っ赤だぜ?」

「さ、佐助様が見過ぎなのです!」

「…見納めだよ。言っとくけど途中で止めるとか無理だからね」


こちらの反応を見る事無く、佐助様は私の秘部に指を這わせる。普段は絶対に触れる事の叶わないゴツゴツとした男らしい指が、ゆっくりと敏感な場所をなぞるように責める。幸村様とは違う、女を知っている指遣いに胸がキュッと締まった。何度も繰り返されるうちにビリビリと指先が痺れるような感覚に陥いる、どうやら限界が近いようだ。快感に耐えられなくなり顔を佐助様の肩に埋めて間隔の短い呼吸を繰り返した。


「なまえちゃん、気持ちいいの?」

「んぅ、気持ち、・・・いい、です、ッあ、ん」

「・・・達しちゃったね」


乱れた息を吐く私を見ながらニヤリと笑って、秘部に置かれたままの指を再び動かし始めた。先ほどよりも敏感なそこは触られるだけで全身が反り、声を耐えるのが難しい程にびちゃびちゃと音を立ていた。佐助様の腕を掴み「止めてください」と必死に訴えるも無駄な様で、すぐに再び頭が真っ白になった。

床に倒れ込みぷるぷると身体を震わせていれば、佐助様は私の隣に仰向けで横になり私の髪を優しく撫でる。それから自身の下半身を覆う布を取り、びくびくと脈打つ男性器を露にされた。


「ほい、じゃあ跨がって。自分で挿れてみてよ」

「そ、そんな事・・・っ」

「俺様のものになるんでしょ」


私には拒否の選択など初めから無いようで言われるがままにふらつく身体を起こし佐助様の上に跨がり、このまま腰を落とせば佐助様のモノに触れるであろう位置で固まる。自分から入れるだなんて、佐助様はなんて意地悪なのかしら。羞恥心と緊張と経験の無さからくる恐怖と、整理の追いつかない感情に頭が可笑しくなりそうだ。

催促されゆっくりと腰を落としてみれば、真下にある佐助様の先端と私の敏感な部分が触れ合う。そのままゆっくりと自身を沈めて行けば既にぬらぬらと受け入れる支度の出来ている私の中にいやらしく音を立てずっぷりと収まった。


「ふっ、・・・あっ、っ」

「さすがなまえちゃん、よく出来たねぇ」

「な、なかが、苦しいです」

「すぐ良くなるよ」


言葉を返す間もなく激しく下から突き上げられ全身に電気が走ったよう衝撃を受ける。堪らず上半身を佐助様の胸へと倒すも「なまえちゃんの顔が見えないでしょ」と戻されてしまい、乱れた私の姿を下から見上げ満足そうに笑みを浮かべると私の腰を掴み上下に動かされた。すでに散々に絶頂を迎えさせられた私の身体は次の絶頂を待つだけの人形のようで、まるで自分の身体では無いような感覚が怖い。


「どう?慣れてきたでしょ」

「は、はい・・・でも、もうこれ以上は」

「俺様と一緒にいたいならまだまだ全然足りないよ?でも、ま、いっか」


乳房の先端を摘まれて甘い声を出せば、まだ足りないとでも言う様に指先の力は強くなる。それは最早、快楽ではなく苦痛と呼ぶに等しい程の力加減で。しかし下から何度も突き上げられるとそんな痛みですら快感へと変わってしまう。


「また、ッん、達して・・・しまい、そ、ですッ」

「そ、ッ俺様も・・・もう出そう」


佐助様の腰の動きが速くなり私の意識が飛びかけるのと同時、佐助様のモノがビクビクと膨れるのを膣で感じ、そこから飛び出た白濁が私の子宮を埋め尽くした。途端に静まる室内に二人の荒い呼吸が木霊する。

佐助様と繋がっている嬉しいはずの現実、経験した事の無い快楽、満たされたはずなのに嗚呼どうしてこんなにも胸が苦しいのだろう。どうして私の胸の中には幸村様がいるのだろう。


「なまえちゃん・・・?」

「ごめんな、さい。急に胸が苦しくなってしまって」


ぽたり。佐助様の腹部に私の涙が落ちて自分が泣いている事に気が付いた。佐助様の顔を見ればしっかりと目が合ってしまい、しかしどんな顔をしたら良いのか分からず目を逸らして涙を拭った。

気まずさから自分の中にある佐助様のモノをにゅるりと引き抜けば、白濁の液体が私の太ももを伝い出て来た。それを見てしてしまったのだと改めて実感する。佐助様は私の言葉を待っているのか何も言わず、起き上がり軽く身なりを整えて胡座をかいた。その正面に座り、しっかりと佐助様を見つめる。


「・・・幸村様のあの日のお顔が脳裏に蘇るたび酷く胸が痛むのです」

「はーあ、知ってるよ。好きなんでしょ、旦那が」

「そ、そんな事は・・・」


そんな事は、何なんだろうか。本当はずっと誰かにその一言を言ってもらえるのを待っていたんじゃないだろうか?あんなにも心を傷つけた手前、自分の口からそんな言葉を口にする事等出来ないと思っていたから。そうだ、私は幸村様に知らずのうちに想いを寄せていた事を本当は気付いていた。けれど幸村様にそれを望むも”抱かれたからだ”とぴしゃりと撥ね除けられて、ならばと当て付けの様に佐助様と身体を重ねたのだ。お二人のお心を踏みにじる様な行為を平然として退けた私はなんて勝手で卑しい人間なのだろう。理解してしまった現状に唇が震えた。


「・・・もし、そうだとしても、都合が良過ぎます」

「いいんじゃない?旦那の強い気持ちを知って好きになったんでしょ、誰も咎めやしないと思うけどねぇ」

「今日だって言わば佐助様を利用したようなものです」

「でもなまえちゃん傷付いてるじゃん」


全て見透かされていたようで、私の言葉は想定内のようで、初めに交わした言葉はなんて茶番だったのだろうと情け無くなった。私はとても幸村様に馬鹿だなんて言える脳みそは持ち合わせいなかったんだ。本当の大馬鹿者は私だ。
不甲斐なさに俯く頭に重みを感じ顔を上げれば佐助様の手が置かれていた。目線はそっぽを向いていて、それでもしっかりと私を捉えている。


「まー、そう落ち込むなって。俺様も悪かったよ、なまえちゃんの気持ち知ってて乗っかったんだからさ。けどこれでも傷付いてんのよ?・・・なーんて、ね」

「佐助様はやはりお優しいですね」

「へへ、惚れちゃう?」

「いいえ、もう迷いません」

「そ、残念。けど、ま、今だけは腕の中にいてよ」


抱きしめられて感じる温もりに息が出来ない程に胸が苦しくなる。私の初恋がいま静かに終わるのだ。抱きしめられたのが佐助様の胸で良かった、彼の顔を見てしまったら私の選択が間違っていたのかもしれないと揺らいでしまうから。だから絶対に顔は上げられない。


いつの間に眠りについたのか、目覚めた時には初めから誰も居なかったかのように私は一人で、全てが夢であったかのように燦々と輝くお天道様が私を見下ろしていた。

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