みじかいはなし | ナノ



※現代パロ/芸能人になった幸村と幼馴染

□1
ごめんね、もう遅いけれどずっと前から幸村が好きだよ。きっとずっと、これから先も。でもね、それは伝えちゃいけないから、付き合う事を止められてるから、私は幸村が勇気を持って伝えてくれた一言を、幸村の一生懸命な告白を嘲笑って断った。

佐助さんに言われて思ったんだ。幸村には未来があるから私は邪魔しちゃいけないと。だから私の事も嫌いになって、さっさと忘れてしまえって、そして新しい環境で頑張って欲しいと。でもそれだけじゃなかった。


「なまえちゃんさぁ、分かってるよね?」

「・・・分かってます」

「バラされたくないなら二度と旦那に」

「分かってますってば!」


友達である事もマネージャーの佐助さんは許さないから卑劣な手で私を脅す。でも幸村は私の家族同然に大切な人だったから、マネージャーだか何だか知らないけど奪った事が許せなくて、佐助さんが憎くて憎くて堪らなかった。できる事なら奪いかえしてやりたい、私のモノでもないのにそんな事を思う、けれど言えるわけもなく結局幸村は東京に引っ越して私は一人ぼっちになった。




□2
幸村と離ればなれになってから早三年、高校二年生の春を迎えていた。幸村の事は雑誌やテレビでしか見ることはなくて、意識して見なければもう傷付く事も無いと思っていたのに。どうして、どうして間接的にも直接的にも時間が経って癒えた私の胸の傷を抉るような事をするんだろう。


「ねぇねぇ〜なまえってさぁ、幸村と幼馴染なんでしょ?」


普段と何ら変わりない昼休み、クラスでもギャル系に組される女子が私の前の席に座り話しかけてきた。随分と馴れ馴れしい態度だが私は彼女と話した事なんて一度も無い。一体何処でそんな情報を手に入れたんだと思いながら、コクリと頷いて見せた。


「マジなんだぁ!いいなぁ、この前握手会行って来たんだけど超かっこよかったんだぁ!ニコって笑ってくれてさぁ」

「そう、良かったね」


他のアイドルの惚気ならまだしも幸村の話なんて聞きたくないのが本心だったが、無視してモメるのは面倒だと黙って話を聞いていた。そして適当に自分の話が終ると今度は私に質問攻め。小さい時のニックネームから好きな食べ物、本やら歌だの、どうして私の昼休みをこんな事に使わなきゃいけないのかとイライラし始めていた。
あと5分で休み時間が終る。次の授業で提出の宿題も終らないままノートを閉じて、いい加減にしてくれと言葉に出さずに彼女を見つめる。


「やっぱ小さい時もかっこ良かったの!?」

「男の癖にウジウジしてて気持ち悪かったよ」


そう言って席を立てば、その女子は眉間にしわを寄せ私の腕を掴んで強く握った。だからこの手の女子は嫌いなんだ。溜息をつく余裕もなく、彼女は立ち上がり「幸村を悪く言うな」と怒鳴って私の頬を叩いたが、叩かれる覚えなんてない。いや、それよりも幸村を自分のモノのように言うのが何よりも腹立たしかった。


「馬鹿なんじゃないの?握手会で手ぇ握れたくらいでウハウハして、そんな奴この世に五万といるから」

「なっ・・・」

「アンタはただのファンの一人。それ以上でもそれ以下でもない。自覚したら?」

「ッ・・・だったらアンタは何なのよ!」

「私は・・・私はただの幼馴染だから。それもずっと昔の事だし」


そう、それ以下でも以上でもないんだ。それ以上にはなっちゃいけないし、幸村だってもう私の事も忘れただろう。なのに、どうしてだろう、割り切ったはずなのに胸がジクジクとする。




□3
あの日から下駄箱から靴が消えたり、体育の時間の後に制服が消えたり、机に落書きされる日が続いた。ありがちな苛め。こんな事で私が怯むとでも思ったのだろうか?こんな事をするなんて本当に下らない。やっぱり馬鹿だ。
でも、机が無いのは流石に困ったりする。教室内を見回せば、あの子のいる女子グループと目があった。彼女達が犯人なのは分かっていたが、ここまでされると流石に腹も立つ訳で。


「私の机、何処やったの」

「知らな〜い。てか私たち関係ないし」

「焼却炉にでもあるんじゃないの?」


小さく深呼吸し心を落ち着ける。殴りたいと思うから手が出てしまうんだ。私はコイツらとは違う、人を傷つけたりはしない。体でも心でも、もう、したくない。誰であっても、私のせいで泣く人を見たくない。


「そう、ありがとう」


それだけ言って目の前から立ち去ろうとすれば、私の態度が気に入らないのか後ろから消しゴムを投げつけられた。でも、怒ったりはしない。しない。しない。しちゃ、いけない・・・けど、


「馬鹿なんじゃないの?下らな過ぎ。やる事が低レベルなんだよ」


静かだった教室は、更に静かになった気がした。彼女たちは口々に「地味」だの「ブス」だの「デブ」だの悪口を言うが、自分の事をブスだともデブだとも思っていないからか、どれも私の耳には届かなかった。
ただ、一言を除いては


「幸村の幼馴染だからって調子のんなよ、幸村は皆のアイドルなんだけど」

「だから、何?そんなの分かってる事でしょ?私は彼と連絡なんて一切してないし、ただ幼馴染で昔遊んでいただけ、それだけの事を掘り返してこんなくだらない事してるのは貴方達。つか何盛り上がってんの?可哀想な子にしか見えないんだけど、」

「ふざっ、ふざけんなッ」


この子に頬を叩かれるのは二度目か。痛いとは思わない、ただ下らない。チャイムが鳴るまで時間がないけど仕方ない、机が無いのは授業に支障が出る。下まで取りに行くしか無いか・・・。

荷物は肩にかけたまま、私は余りの机を取りに教材室に向かった。階段を下りる途中に担任とすれ違い机を取りに行って来ると理由を告げている時、担任の隣にいたのは、転校生だろうか?




□4
机を運び教室の扉を開ければ教卓で挨拶をする男の子の姿。皆その子に目がいき、私が教室に入って来たのなんて誰も気がついてないんじゃないだろうか?こういう時は一番後ろの席で良かったと思う。それにしてもやけに女子が騒いでいないか?たかが転校生ぐらいで騒ぐなんて、よほどの美少年なんだろうか。


「家庭の都合で2ヶ月ほど世話になる事になった、」


聞き覚えのある声に、思わず顔を上げて転校生の男の子を見た。女子の黄色い声と同時に頭を下げる彼を見つめ、私は一瞬、息をする事さえ忘れてしまった。


「真田幸村と申す。短い間だが宜しく頼む」


私と目が合う事無く幸村は先生に指示された席である私の隣に座って「教科書を見せてくれぬか?」と、笑顔を向けた。久々に見た幸村の表情に胸が苦しくなって、自然に目に涙が溜まったのが悔しかった。いつからこんなに弱くなってしまったのだろう。佐助さんに忘れろって、もう二度と関わるなって言われた日から何も望まないって決めたのに笑顔を見ただけでこんなにも・・・。駄目だ、側に居たら私が壊れてしまう。


「先生!席、替えてもらえませんか?」


幸村ファンの女子に睨まれたけどいつもの事、今更気になんてならない。でも幸村の視線が痛かった。そんな悲しそうな顔で私を見ないでよ。


「視力が落ちて黒板が見えないので前の席にしてほしいんですけど」

「じゃー、廊下側の前列で良いかしら?」

「はい」

「先生!某もここからでは黒板が見えぬ故、席を替えてはいただけぬだろうか」


全くどうして幸村は期待させるような事ばかりするんだろう。幸村が隣の席だったら元も子もないのに・・・、結局隣の席だなんて面倒な事に巻き込まれそうで嫌だ。ちらっと盗み見た幸村の身体は何に緊張しているのかガチガチに固まっていた。


「宜しく頼む、なまえ殿」

「・・・なんで戻って来たのよ」

「なまえ殿が好きだからでございまする、まだ諦められない。あの時のなまえ殿のお顔があまりに悲しそうだった故」

「私は・・・、嫌いよ」


そんな顔でそんな事を言わないで、胸が張り裂けそうになるから。頭と心が違う方向を向いていて私がバラバラになってしまう。ねえ幸村、そんな事を私に言うのならその理由に気づいてよ。




□5
次の日から例のグループの子達に苛められる事は無くなった。彼女たちもそれどころでは無くなったのだ。しかし、コレと比べると苛めの方がまだマシだったと思うのは私だけだろうか。

隣の席でキャアキャアと煩い女子の声には限界だ。たかが幸村になんでそんなに盛り上がってるのか意味分からん。かく言う私も幸村が好きだから可笑しな話なんだけど。


「あーもーウザい。やるなら外で騒いでよ」

「感じわるぅー、ねぇ幸村クン行こぉ?お昼外で一緒に食べよぉよ」


元々友達なんて呼べる人がいなかった私は昼休みも一人で適当に済ませ本を読むか次の授業の宿題をするのが日課だったが、隣で騒がれるなんてたまったもんじゃない。煩いし気になるしで本の内容が全然頭に入ってこない。


「いや・・・某は、」

「いいじゃンッ!行こー♪」


そのままのノリで幸村は連れ去られてしまった。なんか身勝手だけど軽く腹が立つ。なんでちゃんと断らないのよ、なんで行っちゃうのよ。沸々と沸き起こるイライラを抑えて職員室にノートを提出しに行こうと廊下に出れば、息を切らし脱力しきった表情の幸村が立っていた。


「邪魔。どいて」

「ま、待ってくだされなまえ殿」

「なんでよ」


幸村の間をすり抜けて階段を下ろうとする私の腕を握って引き止めた幸村は、無理矢理に身体を彼の方へ向かせる。私の腕を握った時の力強さに成長したなぁ、なんて思いながら早く話をするように言えば、真剣な表情の幸村の口から出たのは予想外の質問だった。


「なまえ殿はどうして某が嫌いなのでござろう」


急な質問にどうしたら良いのか分からなかった。嫌い嫌いと言いながらも、嫌いな理由の答えなんて持ち合わせていなかったのだ。混乱のあまり視線を彼方此方にやり口をパクパクさせて私は俯いた。
今なら昔言えなかった事伝えられるかもしれない、そんな淡い期待を抱いてしまった、私への罰だろうか。幸村の後ろに立つ人物に私は身体を震わせた。




□6
言えなかった事をやっと伝えられると思ったけれど無理だった。でも佐助さんがそれを許さないなんて事、初めから分かっていた事だもの。だからこそ一瞬でも喜びを覚えてしまった自分を憎む事しかできなくて。


「約束、忘れたの?」


幸村に気付かれ無いように口パクで人を脅したりする彼が昔から大嫌いだった。それに加えて冷たい笑みに見下す態度、背筋が凍り冷や汗が出そうになる。どうして幸村はソレに気がついてくれないのだろう。


「む?佐助、何ゆえ此処に?」

「ちょっと旦那に用があってさ、つかいつまでなまえちゃんにベタベタしてるつもり?嫌がってんじゃん、ね?なまえちゃん」


嫌じゃない、嫌なわけがない。寧ろ自分から触れられない分、触れてくれる事が凄く嬉しい。でもそんな事言っちゃいけない、佐助さんに合わせて言葉を繋がなきゃいけないんだ。じゃないと脅される睨まれる彼の全てが怖いから極限関わらないようにするにはこれしかないんだ。


「うん、ウザいよ幸村。前にも言ったけど私が幸村を好きになる事はないから。あ、嫌いな理由だけど、しつこい所かな」

「ほらー、ね、旦那?」


笑いながらそう言う事しか出来ない私を、幸村はいつまで好きでいてくれるのか不安で胸がいっぱいだ。好きだ好きだと言われてたのに急に嫌いなんて言われたら、今度こそ私は立ち直れない。嫌われたくない、好かれちゃいけない。言いたい事が言えない現状が辛い。


「佐助が何と言おうが俺はなまえ殿を手に入れる」

「馬鹿なんじゃないの?ありえないから、何度も言うけど私が」

「なまえ殿が何と言おうが必ず某のモノにしてみせる。その為に此処に来たのだ」


もしも幸村が言った一言が叶ったら良いのにだなんて思った事が佐助さんにバレたらまた色々嫌な事言われるんだろうけど、だけどやっぱり嬉しくて思わず笑みが零れてしまった。貴方のモノになれたら良いのに。




□7
幸村がこの学校に来てから隣の席と言う事もあり嫌でも視界に入るのは、頬を朱に染めて震える小さな手で手紙を渡す女子の姿。気にしてないのを装うが内心少し不安だったりする。


「幸村くん、好きですッ・・・」

「すまぬが、某には好きな女子がいる故」


告白されるたびに告げる幸村の言葉にドキドキしてる自分。馬鹿らしいと思うけど、でも好きなんだこうなってしまうのは仕方ない。本を読むフリをしながらチラリとさり気無く女の子を見てみれば、バッチリ目があってしまい涙ぐむ目で睨まれた。


「そっか、聞いてくれて、ありがと、ね、幸村くん」


幸村にフられ泣きながら教室を出て行く女の子の姿に少し胸が痛むが私と比べれば想いを伝えられるだけ良いと思う。いや、どうなんだろうか・・・好きだと言ってくれ、私も好きで両想いなのに付き合う事は出来ないのが良いのか、例え片想いでも好きだと伝えスッきりするのが良いのか。
私は伝えてスッきりしたい。でなければ、いつまでたっても次の恋に進め無いから。でもフられた相手が幸村なら、私は諦めきれずに停滞してしまうかもしれない、どっちが良いのかなんて分からないな。


「ねぇ幸村」

「なまえ殿から声をかけてくれるとは珍しい!なんでござろう」

「・・・やっぱ何でもない」

「ぬ?それは無しでござる!言いかけたのならば最後まで」

「ハイハイ。あのさ、幸村は・・・私の何処が、好きなの」

「・・・なまえ殿がそんな質問を某にするなんて初めてでござる、」

「やっぱ、もう良い―――」

「某はなまえ殿の笑顔が一番好きにございまする。それから、不器用でも某の為に菓子を作って下さった事や、眠れぬ夜に朝まで手を握ってくださった事、某の為に涙を流して下さった事・・・如何せん幼少期からの事、語り尽くせませぬ。故に何度フられても諦められぬのでござる。なまえ殿、好きにございまする」


いつまでも一途でいてくれる貴方が大好き、そんなに優しく微笑まれたらドキドキしちゃうじゃない。そんな顔で笑わないで。


「で、なまえ殿はいつになったら某に告白してくれるのだ?」

「ッそんなの選択肢にないってば」


不意を付いて首を傾げて問う幸村の悪戯っぽい笑みは私の体温を上げた。そんな事を言うのは私が幸村に惚れてるって知ってるからなの?ねぇ教えてよ




□8
もうサヨナラの時間が来た。
幸村が転校してきたこの二ヶ月は本当にあっと言う間だった。悲しそうな顔で挨拶をする幸村の姿に「行かないで」などと女子も居る中、私はぼーっと黒板上の時計を見ていた。きっと幸村を見たらないてしまうから。でも駄目だ、声を聞くだけでも胸がジクジクとする。

教室にいるのが辛くて朝礼が終わってすぐ一人屋上に上がる、一限目はさぼり確定だな。心地良い風に髪を靡かせながらフェンスに手を置いて町の景色を眺める。
短い時間だったけど私は幸せだったんだと思う。また今まで通りの生活に戻るだけ、なのに、なのに・・・どうして涙が止まらないんだろう?理由は分かってる、好きだから、幸村が、好きで好きで泣きたくなるほど苦しいから。


「幸村ぁ、好き、好き、大好きなのに・・・」


本人に伝えられない言葉を呟いて零れ落ちる涙を拭っていれば、そっと私を包み込む腕。この腕に抱きしめられたのは何年ぶりだろう?昔と違ってだいぶ筋肉のついた男らしい体からは昔の姿なんて想像できない。


「なまえ・・・殿、ずっと某の側にいてくれぬか?」

「私も・・・幸村と一緒にいたい」


駄目だと、無理だと、言わなきゃいけないと思っているのに溜まっていた本心がそんな言葉を言わせなかった。二人だけの屋上で、幸村がいれば全てがどうでも良いと思えた。佐助さんの脅しなんて、幸村のこの温もりを失う事に比べたら怖い事なんて無いと。


「必ずや、迎えに参りまする」

「・・・うん、いつまでも待ってる」


サヨナラは次に会う日までの約束だから。私は笑顔で手を振って、数年後、皆の前で愛を誓える日までもう泣かずに幸村を想い続ける。例え誰かに邪魔されたって、この気持ちは止められなくて。



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