みじかいはなし | ナノ



初めて会った時から本能的に彼を殺したいと思っている自分がいた。この感情が何処から湧き上がってきているのか自分では全然分からなくて、話をして良い人だという事は十分に理解しても彼を殺さないとイケナイという思い込みからか、気が付いたらカッターを彼に向けていたこともあった。何故だろう先祖の恨みでもあるのだろうか。


もうすぐ文化祭。
教室はお化け屋敷の準備で忙しい様子で、そんな中で私はまた問題を起こした。

「今度はなんなのさ」

「分からない」

文化祭の準備で使っているドライバーを彼の頭目掛けて私はスイッチを入れたらしい。それを佐助くんは得意の俊敏さでギリギリ避けていた。それでも自分は至って冷静、と言うよりも口端が上がっていたような気がするが無自覚なんだ、本当に気が付いたら彼に危害を加えている。

「ごめん」

目も見ずに謝って、もう帰ろうと思い仕度をするため荷物の置いてある予備教室に行けば、佐助くんのファンらしい女子は私に死ねと言って釘を投げつけて来た。痛くも何ともないけれど佐助くんに味方する人間がただただうざかったから頬を引っ叩いてやったら泣き出して、それを見た周りの女子が私を目掛けて罵声を浴びせて極めつけにグーで顔面を殴るもんだからポタポタと鼻血が零れ落ちた。

「な、何で・・・殴られて血が出てんのに普通にしてんのよ!気持ち悪い」

「だって痛くないんだもの」

「っ・・・だったら!これはどう?」

グサリと左腕に刺さる(と言っても肉が薄いからすぐ骨に当たったけど)ダンボール用のカッター、刺した本人は怒りと恐怖で震えていた。怖いならしなければ良いのにね、これは佐助くんの為なのかそれとも私が叩いた子への為なのか。まぁ知っても無意味な事だと考えを捨てて私を刺した子の首に手を回した。きっと怖くて動けないのだろう、傍にいる子も何も言わないで化け物を見るみたいな目で私を見ている、ああ嫌な気分。

「不公平な事が大嫌いなの、貴方も苦しんで?」

「い、や、嫌あああ!!!」

私を刺した女が耳にこびり付く様な悲鳴を上げたのを合図にみんな走って逃げて行った。なんて卑怯な連中なんだろう?一方的だなんて許せない、自分のした事に責任を持てない人間なんてゴミ同然、死ねば良いのにね。あ、私が佐助くんにしてる事も同じか。

学生鞄を肩にかけ廊下に出たら目の前には佐助くんがいて、鼻血で汚れた私の顔を見ていた。よりによってコイツに見られるなんて最悪だ。あの女いつか殺してやる。

「アンタ、だいじょーぶ?」

「・・・大丈夫」

「はぁ・・・腕出してよ、痛いでしょ」

そう言って予備教室の中に戻された。2人だけの空気は嫌い、いや佐助くんの存在が嫌い。

不本意にも無理やり引っ張られた左腕は彼の手の中で消毒され包帯に巻かれていった。救急道具用意してたって事は見てたんだろうな、全部。ならば何故すぐ助け無かったんだ、なんて思わない。寧ろ何故私を治療するんだ。その気持ちでいっぱいだった。

包帯を巻き終える頃には鼻血が治まっていて、佐助くんに言われてトイレで顔を洗った。それから鏡を見ながら顔の赤くなった部分を指でなぞって、そのまま指を唇に運ぶ。何故だか無性に人肌が恋しい、なんだか人を殺した後の感覚に似ている。なんて、可笑しい。この時代に生きていて、どうして人を殺した感覚が分かるというのだ。

「あー、やっぱまだ赤いね」

「・・・・・」

トイレを出れば目の前で私の顔をじっと見つめる佐助くん。驚いた、何故まだ此処にいるのだろう?早く帰れば良いのに、その帰り道にでも運よく交通事故にでも遭って死ねばいいのに。いつも通りそんな事を考えるがそれよりも欲しいんだ、人肌が。

無言のまま近寄って彼に抱きついたが佐助くんは避けるような事はせず抱きしめ返してくれる。なんて温かい、ドクドクと脈打つ音、人の体温を感じる。初めて感じる異性の体温、そのはずなのに何故だか懐かしい感覚に襲われ涙が零れ落ちるのが分かった。
水っぽい塩分の薄い涙は頬を伝って私の口の中に入ってきた。何故涙は止まらないのだろうか「殺して、やる・・・」思わず口からでた言葉に佐助は耳元で優しく「アンタになら構わない」と言って私の唇に自分のを重ねた。それから「ごめん、ごめん、」と何度か繰り返して、気が付いたのはだいぶ後だったのだが佐助くんも涙を流していたようだ。だけど私には理由が分からない、彼が泣く理由は何?

「もう一度、愛し合おう?」

耳を霞めるその言葉、知っている。ずっと昔、目を閉じる間際に愛しい人に言われた言葉。捨てられたのだと恨んでいたの、不公平な時代を憎んでいたの、貴方だけを待っていたのに。最愛の人には私よりも一番に守るべき存在があって、甘い言葉の変わりにくれたのは悲痛と絶望。だから殺してやろうと思って死んだんだ。結末を知っていて私を苦しめたんだもの。


愛してる、愛してる、

だから死んで、生まれ変わったら、

もう一度、愛し合おう?



そんな願いが叶うなんて思っているの?流れ行く時の中で感情は醜い程にカタチを変えてしまったの。いつかの日の甘さなど、もう其処には存在しない。



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