お昼休み、親ちゃんと肩を並べてお弁当のハンバーグをを口に運ぶ。親ちゃんはコンビニで買って来たパンを頬張りながら窓に寄りかかりグラウンドを見下ろしている。たまに吹く風に銀色の髪がそっと靡いて、ドキリと胸が少しだけ暖かくなった。
「ねえねえ親ちゃん!映画見に行かない?」
「おうよ!じゃあ放課後な」
「うん!ちゃんとクレープ奢ってね」
「まだ覚えてたのかァ?!」
いつものやり取り。
親ちゃんはお兄ちゃん面で笑いながらバシバシと私の頭を優しく叩いた。慶次が後ろの席から「熱々だねぇ」なんて冷やかしたりするけど、そんなんじゃない。友達以上恋人未満、私はそんな今の関係が好き。
2人で馬鹿してフザケあって、先生に何度怒られただろ。時々お菓子を一緒に作ったり、雑貨屋を巡ったりして、何も知らない人の目には恋人に見えると思う。でも、恋人の関係なんて二人の間には無い。
親ちゃんには好きな人がいるから、私はそれを笑って応援する。胸が痛くなった時もあったけど、好きだから、だからこそ親ちゃんには幸せになってほしい。
放課後になって、親ちゃんは私の席に来た。
「なまえ!行こうぜ」
「うん、あ、これさ、この前の」
そう言って、先日撮ったプリクラを差し出せば親ちゃんは暫く見つめてから私にニカッと笑って見せた。暇だったから理由も無くとったプリクラ、ギリギリまでくっついていて本当にカップルみたいだ。2人の思い出が増えるたびに、どんどんどんどん好きになって胸が締め付けられそうになる。
「変な顔だな」
「うっさい!もう行くよ」
恥ずかしくて戸惑ったけど、親ちゃんの腕を引っ張って1階まで降りていく。部活や帰宅で下駄箱にはもう誰もいない。
靴を履き替えて親ちゃんを待つが、靴箱の前でさっきまでは持っていなかった薄ピンクの可愛いクマの絵の描いた紙を見つめたまま親ちゃんは動かなかった。
私の心臓の動きは少しだけ早まる。
「親・・・ちゃん?」
「ん?あ、わりぃ・・・」
「それ、何?」
「何でもねぇ、行こうぜ?」
何でも無いなんて嘘だ。口の端が上がってる、嬉しそうに笑ってるよ?それにその紙は親ちゃんの好きな子が使ってるメモ帳と同じ。
嫌だ・・・嫌だよ、親ちゃんが取られちゃうなんて嫌だ。もう2人で出かけられないなんて嫌だ。笑顔を側で見れないなんて嫌だ。お菓子を一緒に作れないなんて嫌だ。幸せになってほしいけど他の人となんてやっぱり嫌だ。でも、
「・・・なまえ?」
立ち止まって俯く私に親ちゃんは優しく声をかけて頭を撫でる。触れないでほしい、触れてほしい。その手で他の人に触れてほしくない、私だけを優しく撫でてよ。
頭にある親ちゃんの手を両手で握り締め、苦しくて零れ落ちそうな涙を必死に留めて顔を上げた。
「・・・な?!なんで泣いてっ!」
「私は親ちゃんが幸せなら、それでいいから、ね?」
「何、言ってんだ?」
「ちゃんと、彼女優先にしなよ」
涙が頬を伝い落ちるのが分かる。親ちゃんは何が何だか分からないような顔をして私を見つめてから、もう片方の手でそっと涙を拭いた。親ちゃんの手は大きくて硬くて、なのに凄く優しくて。
「俺の彼女は、なまえだろ?」
「・・・・・・?」
「そーだろ?」
「だって・・・、親ちゃん好きな子・・・さ、さっきの手紙は?」
「俺はずっとなまえが好きで手紙のアイツはただの幼馴染だ、なまえもそうだと思ってたんだが・・・」
言葉にしないと伝わりません
「俺と付き合ってくれねぇか?」
「うん、大好きだよ親ちゃん」
近すぎて深すぎて気が付けなかった早とちりの2人の想いは、いつも同じ場所で繋がっていた。差し出された手になまえは自分の手を重ねて「末永くよろしくね」と笑いかけた。