「山本好きだ!私と付き合ってほしい!」
「あー、わりぃ」
そんな事を言われるなんて少しも思ってなかったから涙が出るとか全く無くて、ただ余りにもあっさり断るものだから吃驚した。山本の方も私の急な告白には驚いたみたいで、困ったように頭をかきながら「ハハ」と乾いた笑いを零して、ぼーっとしてる私に「教室戻んね?」と呟く。
そっか、私なんて山本の中でその程度の存在だったんだ.....今更だけど恥ずかしい。生まれて初めての告白で、生まれて初めてフられてしまった。一年の時からずっと好きで、最近やっと仲良くなれたのに、一瞬でフられたら意味ないじゃん。フった理由なんて聞く勇気はない。だって知ってるんだ、山本は私みたいなサバサバした奴よりも、ふわりとした可愛い子が好きだって事くらい。あー!だったら何で告白したんだよ私の馬鹿!!!
「高望みだとは思ってたけどさ」
教室には戻りたくなくて屋上に向かう。だって山本はいつもと変わらない顔でツナたちと笑ってるのが分かるから。見なくたって、そういう奴だって事知ってる、だから辛いんだ。
屋上のフェンスにもたれかかって空に飛ぶ珍しい黄色くて小さな鳥を暫く眺めて、溜まった涙を隠すために目を瞑った。
「生まれ変わったら鳥になりたい」
そう呟いても返ってくるのはさっきの黄色い鳥の声だけで、虚しさは増すばかり。
「ねぇ、飛ぶって気持ち良い?」
そう問いかけて鳥に向かって手を伸ばせば、人馴れしているのか指先にちょこんと乗った。やば、可愛いなコイツ。何処かの家からか逃げ出したんだろうか?それにしても何処か見覚えのあるような。じーっと見つめていると、行き成り校歌を歌いだした。芸達者だなぁーなんて思いながら私も合わせて歌った
「飼い主はこの学校にいるのかな?にしても芸達者だな」
「ねぇ、何してるの?」
急に声をかけられ反射的に振り返れば、そこには当たり前のようにいる雲雀恭弥。この学校で彼の名を知らぬ者はきっといない筈。私もついてない、こんな時間にこんな所で会っちゃうなんて。もう授業は始まっている。幼馴染だろうが女だろうが咬み殺されんのかな?
「鳥とお喋り。恭弥は何してんの?」
「・・・鳥、好きなの?」
「無視かい。んー、好きって言うか、こんな風になれたら良いのにって思う」
「ねぇ、何で泣いてたの?」
また無視かい!咬み殺す気はまだなさそうだけど、私が泣いてる所を恭弥は見てたんだ。泣いてるって涙は流してないけどね。なんか恭弥とこうやって喋るの久しぶりだな
「好きな人にフられたの」
「ああ、山本武」
「何で知っ・・・はぁ、ねぇ私の何処が駄目だと思う?」
「興味ないな」
ムカッとしたけど口には出さず、右手で拳を作って止めた。何だかよく分かんない妖しいノートにボールペンを走らせる恭弥は昔と何にも変わらない。言葉数少ないし、目付き悪いし、冷たいし
「恭弥はさぁー、好きな人とかいないの?」
「・・・・・・」
「別に興味ないから良いけど」
恭弥は何も言わずにボールペンをひたすら動かして、私の指にいた鳥はパタパタ飛んで恭弥の肩に止まって「恭弥」と連呼した。この鳥、恭弥の鳥だったんだ?なんか悔しい
暫く二人は無言のまま、私は町の景色を眺め恭弥は何かを書き続けていた。たまにチラリと恭弥を見れば鳥が恭弥の名前を呼ぶけれど当の本人は無反応で、授業終了のチャイムが鳴るまで結局何も話さなかった
「じゃ、私はもう教室戻るわ」
「・・・まぁ、頑張ってね、」
「ん?何が?」
「鳥になるんでしょ?」
「え、うん、でも鳥になったら恭弥に咬み殺されちゃうね」
「何、言ってるの?鳥は虫を食べるんだよ。だから、なまえは鳥になりなよ。僕が育ててあげるから」
その時の恭弥の目が妖しくて、私は目が離せなかった。ねぇ恭弥?それって、どういう意味で言ってるの?そんな事言われたら勘違いしちゃうじゃん
「何言ってんだか。でも私まだ鳥になれない、山本の事諦めてないから」
「そ、別にいいけど」
微妙な空気のまま私は屋上を後にする。階段はダッシュで駆け足で下りて、恭弥に向けてのこの胸のドキドキを隠した。恭弥はどういうつもりであんな事を言ったんだろう。なんで私はこんなにドキドキしてるんだろう。私は、山本が好きで・・・
「なまえ!」
「や、山本?」
廊下の先の方から山本が駆けて来るのが見える。私は階段の踊り場で足を止め、山本が来るのを待った。山本は手を大きく振りながら、私の大好きな可愛い笑みを浮べてる。
「さっきはゴメンな、行き成りで吃驚しちまって」
「いや、私の方こそ急にごめん」
そう言うと、さっきとは全く違ったちょっと照れくさそうな笑みで頭をかいて私に手を差し出した
「そのー、俺も好きだわ、付き合ってくんね?」
「へ?」
「俺じゃ駄目か?」
「そ、そんな訳ない!私も山本が好きだもん」
そう言って私が山本の手をとれば、山本は嬉しそうにニコニコと笑って私を抱きしめた。恥ずかしいけど、凄く嬉しい。私、やっぱり山本が好きで・・・・・・
一瞬、階段を下りて来る恭弥と目が合った。「良かったね」そう口パクで言って、そのまま応接室に向かう恭弥の顔にズグンと胸が痛んだのは、どうしてだろう。嬉しい筈なのに胸が苦しいよ。