みじかいはなし | ナノ



「お隣、失礼いたします」

「・・・また貴様か」


傍にお寄りしただけで貴方様は眉を顰めそっぽをお向きになられる。その反応はいつもの事、私とてもう慣れました。気にせずそっと隣に腰を下ろし貴方様と同じよう空を見上げ月を見つめれば、無視を決め込んだのでございましょう貴方様は無言でお立ちになって立ち去ろうと足を出したようで、静かとは言え、この虫の音も聞こえぬ夜ではよくお聞こえ致した。


「元就さまは私がお嫌いですか?」


私のか細い声は貴方様の耳にも届いたのでございましょう、一瞬ピタリと足を止めてから歩き出して行かれてしまわれた。矢張り嫌われてるのでしょうね、落ち込むにも日ごろのご様子を見ていれば納得できる事でございますし、今更どうしようもありますまい。
ため息さえも出来ず立ち上がり月に手を伸ばしてみますが届きそうで届かない、そう、まるで元就さまのようでございます。こんなにもお傍にいると言うのに、会話をするのが嫌なほどに私を嫌われていらっしゃるのか


「私が何をしたと言うのです」


思わず零れた愚痴は誰にも聞かれることなく夜風に消えて、目頭は熱くなるばかり。兄上と何があっても泣かぬと約束した故、涙を流すまでには至らぬが何も出来ぬ自分が悔しい。


「兄上・・・、」


そうポツリと言葉を零すと同時に背中に人の温かみを感じ、声を出して助けを呼ぼう暴れるも口元を押さえられ、誰だと思い必死に振り返れば元就さまが酷く眉を寄せて私をその腕に収めておられた


「なっ、元就・・・さま?」

「あの男との約束の為ではなく、貴様の目で我を見ろ」


淡き恋心、ほのかに咲き


「私は、初めから一人の殿方として貴方様を見ておりました」


そう切な笑顔で呟けば、元就さまも矢張り人の子だけあって表情は此方が恥ずかしくなるほどに赤くなっておられた。



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