放課後の屋上。壊れかけたフェンスに両手を置いて下を見ながら、此処から落ちたらどうなるんだろ?なんて考えていた。死ぬのが怖いとは思わないけど、いま死んだらきっと後悔するからまだ死ねない。でも私が死のうがこの学校の人は誰一人として悲しまないんだろな
クラスでも目立たないし特別成績が良い訳でも体育が得意なわけでもない。たまに話をする人はいるが仲良い、友達と呼べる人は誰もいない。取り得の無い一般ぴーぷる、いや、それ以下かもしれない。でも、こんな私でも頑張れば何か出来るかもなんて考えてた、所詮はただの妄想に過ぎないのだけれど
「あれ?なまえちゃん、何してんだい?」
「前田・・・」
「前田じゃなくて慶次で良いって」
ひょこっと顔を出して現れたのは前田慶次。いつも明るくて元気で、私が少し憧れてる人。いつも馬鹿みたいに笑っているお調子者の彼が、一人でこんな所に何の用だ?
私は少しだけ眉を顰めて彼を見据えた。前田はニコリと笑って私の隣まで来ると、私のブレザーのポケットから飛び出していた白い封筒を、私が抵抗する間も無く抜き取った。封筒には黒い筆ペンで書かれた“遺書”の文字。慶次は怪訝な顔をしながら封筒を開け、中身の手紙を読んで小さく溜息をついてから自分の胸ポケットにその封筒を突っ込んだ
「これは俺が預かっとくからな」
「返して・・・前田には関係ないじゃん」
長い長い沈黙、なんだか一気に死にたくなった。前田は力強い目で私を見つめて、その目が何だかむず痒くて、私は耐えかねて一歩後ろに下った。前田は何がしたいのか分からない。迷惑だから死ぬなって事?だったら早くそう言えば良いのに、これじゃまるで怒られてるみたいだ
「早く帰れば良いじゃない」
「そうだな、早く帰ろうぜ!」
「・・・」
「ほら、」
そう言って差し出してくれた手が嬉しかった。手を置いたら握ってくれて、温かくて、その時の笑顔が胸に沁みて、私を家まで送ってくれて「また明日な!もう、馬鹿な事考えんなよ」と叫んで帰って行く前田お言葉に、ほんの少しだけドキドキしていた。
私は馬鹿な奴だから、それだけで満たされて気になって、
次の日の放課後、私は前田の顔が見たくて、身の程知らずだと分かっていながら彼の教室の前まで来ていた。教室にはまだ数人の生徒が残っている、そっと耳を澄ましてみれば、前田の声が聞こえた。震える胸を押さえつけ、私は教室に入ろうと扉を掴んだその時、聞こえてきたのは生徒会長の竹中先輩の声
「助かったよ慶次君、君にしては良くやったね。大体この学校で自殺者が出たなんて、不名誉もいい所だ」
前田が何かを言い返していたが私の耳には届かない。
あれは嘘だったんだ、頼まれてしただけの優しさ。やっと友達になってくれる人と出会えたと思ったのに・・・、硬直したまま動けずにいた私は扉が開いても見上げる事が出来なかった。
「俺、帰るな!・・・っ!?」
前田の声にビクッと肩を震わせて見上げれば、焦ったような困ったような顔で前田は私の肩に手を置こうとする、後ろには面倒くさそうに溜息をつく竹中先輩。私の事なんてどうでも良くて本当にただ学校のためだったんだ・・・、動かなかったはずの体は無意識に屋上に向かって走り出していた。
私に向けてくれた前田の笑顔も所詮は作り物なんでしょう?落ちる私に向かって必死で手を伸ばす前田、でもさ、もう全ての行動が偽りにしか見えないよ
「ごめん、私もう・・・」
前田の呼び止める声が聞こえるのに足が止まらない、いや止めたくないから止まらないんだ。そして私はそのまま屋上のフェンスを突き破って落ちてった